命の光2 いつかきっと

愛ある限り〜あゆと当麻〜

 

いつかきっと 命の光2

 

 

2004/11/12 ,校正

 

 

亜由美が入院して早一週間が経とうとしていた。

ただいま、入院記録を更新中である。

流石に今度は退院したいといっても許可が下りない。

当の本人も自覚しているのだろう。大人しく入院している。

「もう一個、プリン食べていい?」

亜由美が物欲しそうに言って当麻が却下する。

「一気に食べたら駄目だ。時間置いてから」

ええーっ、と亜由美が抗議の声を上げる。

「毎日、御粥ばっかりじゃ栄養失調になるぅ」

「毎日ばかばか点滴打ってりゃ、死にたくも死ねないはずだ。食ったら寝ろ」

当麻が有無を言わさず、亜由美を寝かしつける。

「食べて寝たら豚さんになるー」

さっきとはあべこべの台詞を亜由美が言う。

「自分の体重計ってから言え。今なら、山ほど食っても豚にはならん」

当麻が言い放つ。

その様子を征士は興味深く見ていた。

会った頃の当麻を思い出してみればおよそ別人とも言える。

トルーパーとして戦っていたときはそれほど個性と言うものを御互い考えることはなかった。

が、一旦阿羅醐との戦いを終えてナスティの屋敷で共同生活をはじめるとそれぞれの個性が際立った。

自分はあくまでも律儀で礼儀正しいと言われる。故に、共同生活などとるに足りない。

優しい伸はナスティと共に皆の母親役をも担って皆をよく気遣った。

遼は慣れないながらも純粋な性格で懸命に皆と一緒に生活しようとしていたし、ざっくばらんな秀はもともと大家族の中で生活をしていたから

抵抗なく共同生活に入れた。その中で一筋縄で行かなかったのが当麻だった。

家庭環境の性なのか性格の性なのかは知らないが、およそ共同生活にはまったく向いていなかった。

天上天下唯我独尊とも言える当麻の行動に皆、戸惑い困った。

その当麻が実家に顔を出すと言って関西に戻ったことがあった。

ほとんど家族と言うものに縁がないといっていた当麻が実家に戻るというだけでも皆驚いたが、帰ってきて亜由美をつれて戻ってきたときはもっと驚いた。

彼女は遠い親戚で妖邪の戦いに巻き込まれて記憶を失い、許婚として身元を預かったと言う簡単な説明を当麻はした。

あまり人と関わることを良しとしない当麻が許婚などと言う人間を連れてきたというのは皆にとって青天の霹靂だった。

ほとんど人間と言うものに無関心とも言える当麻だったが亜由美にだけは違った様だった。

亜由美がなにかと当麻につきまとい、その当麻も邪険に扱うようなことはしなかった。他のものが亜由美のようにしつこくつきまとえば冷たくあしらわれるのがほとんどだというのに。時に二人はふざけあったりもして見たものは口をぽかんとあけたぐらいだ。もっともその視線に気がつくといつもの冷静な当麻に戻っていたが。

それが変わったのはいつだったろうか。

ある時、当麻の独断行動で言い争いになりそうになったときに亜由美が当麻を叱りつけたのだ。その様子に皆、驚いたがもっと驚いたことに当麻が反省の言葉を口にしたのだ。

以来、何かもめごとが起こりそうになると亜由美が仲介をし、当麻は次第に皆になじんでいった。

そんな中、亜由美が夏風邪をひいた。

その時の当麻の様子と来たら笑い話にでもなりそうだ。

普段、何が起ころうとも顔色一つ変えない当麻が血相を変えて、寝ずの看病をした。

彼にとって睡眠は一番大事なものだというのにそれすら忘れてしまったかのようだった。

以来、当麻は何かにつけて亜由美を構うようになった。母親よりうるさいと亜由美がこぼしていたぐらいだ。

とっつきにくく人見知りの激しい天空の当麻はいつしか自分と同じ年代の普通の少年に変わっていた。

これも亜由美のおかげとも言うだろうか。

当麻にとって亜由美がどれほど大事なものかはここ三年、ともに暮らしてよくわかっているが、

それほど人を想う事が出来ると言うことに征士は驚いてもいた。

亜由美はそれほど美人でもないし、頭がいいわけでもない。何かに秀でているわけでもない。

その辺にいる少女とたいして変わりない。

顔だけなら迦遊羅を選んでもおかしくない。

彼女も彼女なりのいいところがあるが、それが決定的な要素とは思いがたい。

もっともナスティに心を寄せている自分を考えてみれば、人を好きになるのに特別な理由はないのだろう。

つらつら考えて征士はここへ来たもうひとつの用事を思い出した。かばんからプリントの束を当麻に手渡す。

悪いな、と言って当麻が受け取る。

「皆には迷惑をかけたな。ここ最近の俺はどんなに考えてもまともじゃなかったからな」

当麻が皆にわびる。

黙ってプリンを食べていたナスティがいいのよ、と答える。

迦遊羅も頷く。

「確かに困りはしたが、迷惑といっても遼のように物を壊したわけではない。壊れたと言っても当麻のパソコンぐらいだから、大して問題はない」

征士の言葉に亜由美ががばりと起きあがる。

「パソコン壊れたのっ? データーはっ?」

血相を変える亜由美に当麻が苦笑いする。

「お前、俺よりもパソコンの心配するなよ」

だって、と亜由美は言う。

「せっかくのデーターがおじゃんになるのよっ。そんな怖いことないっ」

亜由美は身震いする。

「バックアップとってあったから大丈夫だ」

なだめて当麻が再び亜由美を寝かしつける。

バックアップと言う言葉に征士は思わず笑みをもらす。

それをすかさず、亜由美が見つける。亜由美の視力は驚異的な回復力でほぼ戻っていた。

「なんで笑ってるの? エッチ画像でも入ってたの?」

その言葉に当麻が絶句する。

いや、と征士は答える。

つい昨日、一時帰宅した当麻は壊れたパソコンを見事復活させた。

山のようなデーターの復帰作業に征士も手伝った。次から次へと出てくるフロッピーやCD-ROMに征士もあきれたぐらいだ。

その中に何も書いていないフロッピーが混じっているのを征士は見つけた。他のものは何が入っているなど分類がはっきりしてある。

おおかた空だろうとチェックしてみたら。なんと、亜由美の写真が入っていたのだ。

亜由美が当麻の写真を自分のパソコンに取り込んで時折、眺めているのは知っている。

皆の集合写真をデスクトップに設定しているぐらいだ。

だが、まさか当麻までがそうしているとは思いもしなかった。

河をバックに二人腕を組む二人の姿。おそらく郷里のものだろう。

ほとんど無表情な当麻とうれしそうに笑う亜由美。

しばし、征士は見入ってしまった。

他にも写真があったがそれにきづいた当麻がフロッピーを抜き取ってしまったので見れなかった。絶対に他の人間に言うなと鬼気迫る顔で言われたのだった。

「ねー、なんで笑ったのー?」

亜由美がしつこく尋ねる。

こまった征士が当麻を見ると言えばわかってるだろうな、と目で言う。

「本人に聞いてくれ」

征士はそれだけを答える。

「やっぱ、エッチ画像でしょう?」

亜由美が当麻に言う。

「なんで他の女の裸なんか見なきゃなんないんだ?」

当麻があきれて言う。

「だって。当麻、むっつりすけべだもん」

どこがだ、どこが、と突っ込む当麻に亜由美が口を開きかける。

胸を触ったと言いかけて口をつぐむ。ここにはナスティ、迦遊羅、征士がいるのだ。うかつなことは言えない。

「キスばっかりするもん」

別の事実で攻撃する。

お前、と当麻がまたあきれた声を出す。

「キスぐらいでむっつりすけべだと世界中の半分以上が相当するぞ」

「当麻がすけべなのは明白だもんっ」

「・・・婚約者のよしみでどういうのがすけべか教えてやろうか?」

にやにや笑った当麻が面白そうに言う。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。やっぱ、ここ、男子禁制にするっ」

「だから女装して来てやるって言ってるだろう?」

当麻の口からとんでもない言葉を聞いて外野の三人が絶句する。

「あ〜ら。驚かないでよ。征子ちゃん」

驚いて動きを止めてしまった征士に気付いた当麻が言う。

「せ・・・せい・・・・」

口がぱくぱく動くだけになる。

「当子って呼んでね」

駄目押しの当麻の台詞に亜由美がまず噴出す。

「当麻、それ似合いすぎーっ」

ひゃはははっと亜由美が馬鹿笑いする。

「お・・・お腹痛いーっ」

ベッドの上でじたばたしながら亜由美が笑い続ける。

つられて迦遊羅もナスティも笑い出す。

「今度、皆で女装コンテストでもしようかしら」

ナスティがとんでもない事を言い出す。

「いやーん。めっちゃ、見てみたーい」

亜由美が賛成の声を上げて征士は思わず声を上げる。

「私は絶対に不参加だぞっ」

ええーっと他のものから抗議を受ける。

「断固として参加しない。そうだな? 当麻」

賛成すれば、昨日のことをばらすぞ、と暗に当麻に告げる。しかたないな、と当麻が言う。

「一番美人になるはずの征士が出ないんじゃ、面白くないから俺も不参加」

えーっ、と女性陣の抗議を男二人は聞き流す。

「いいかげん、お前寝ろよ」

見たいと騒ぐ亜由美に当麻が言う。

「戻った体力使い果たす気か?」

言われて亜由美がようやくおとなしくなる。

「退院したらディズニーランド行きたい」

唐突に亜由美が言い出す。いきなりのわがままなのに当麻は二つ返事で了承する。その答えに亜由美は面白くなさそうな顔をする。

「なんでそんなに言うこと聞くのよ」

「わざとわがまま言ってるのがわかるから」

当麻は優しい目で亜由美を見る。亜由美はふてくされる。

「来て欲しかったらまた来てもらえばいい」

当麻が亜由美の隠している気持ちを代弁してしまう。

征士たちに会えたのがうれしくてはしゃいでいたのを当麻は見ぬいていた。

だが、また来て欲しいとは亜由美の性格からして言えないのも知っていた。

亜由美は迷惑をかけることをひどく嫌っているから。

亜由美は決まり悪くなってベッドの向こうを向いてしまう。

当麻は手、とだけ言う。

その声に亜由美が手を差し出し、当麻が握る。

しばらくして亜由美の寝息が聞こえてくる。

「疲れてるくせに無茶しやがって」

当麻が呟きながら亜由美の姿勢を直してやる。

その声も視線もひどく優しい。

征士はうらやましく、不思議にさえ思う。

二人の絆の深さがほんの少しのやりとりから伝わってくるから。

当麻が手を握っただけで安心して眠ってしまう亜由美。それを優しく見守り続ける当麻。

まだ年端も行かぬ二人なのにずっと添い遂げてきた者達のようだ。

いつか、自分もこんな風に人を愛することが出来るだろうか・・・?

ちらとナスティを見ると彼女も感慨深げに二人を見ていた。

「本当に仲がいいのね」

微笑んでナスティが小声で言う。

「そう見えるか?」

当麻が苦笑いして答える。

ええ、とナスティが答え、迦遊羅も頷く。

「こいつが聞いたら悲鳴上げるな」

ほんの少し、切なそうに亜由美を見た後当麻がおどけて言う。

「俺は嫌われてるらしいから」

淡々と言う当麻の顔からは何を思っているかはわからない。

「姉様はずっと当麻のことを想っていますよ」

迦遊羅が告げる。

「だと、いいがな」

短く当麻は答える。

亜由美は当麻に対して嫌いではないと言っているし、キスも拒まない。

が、好きだとは一言もいっていない。

その事実は当麻を不安に陥れていた。

ただ、亜由美の隠された心を信じているだけだった。

一度記憶を封印したらしいが記憶など当てにならない。そんなもの過去に何度となく亜由美にも迦遊羅にも弄繰り回されている。記憶でない確証がほしい。

それを見ていた迦遊羅は力強く頷く。

「姉様はいろいろ考えてしまうのですよ。だから言えない。でも、私は聞いています。当麻のことが好きだと。何度も聞いていますよ」

その言葉に当麻が安堵の笑みを浮かべる。

「こいつの口から聞きたいものだな」

静かに当麻は答え、亜由美の髪を優しくなでる。

「きっといつか言ってくれるはずよ」

話を聞いていたナスティが言う。

「だって、あゆの当麻を見る目は誰へのものとも違うもの。

大好きってめいいっぱい言っている目よ。だから彼女が勇気を出して言えるようになるまで待ってあげて」

その言葉に当麻が頷く。

「俺もこいつの気持ち信じてるから」

 

いつか。きっと。

 

その日を待っていよう。

 

当麻は声にならない声で亜由美に告げた。

 

「だけど、お前、さっさとはっきりしろよ。待ちくたびれるのは嫌だからな」

当麻が言うと答える様に眠っている亜由美がきゅっと手を握った。

当麻は笑い、握った手に唇をつける。

 

そんな幸せそうな二人を残して征士達は病室を後にした。