ソウルラヴァー 守る力 道しるべの星3

翌朝、当麻は征士と伸にたたき起こされる。

寝ぼけた当麻が亜由美に抱きついて何をするか分からないので男共の手で起こされるのだ。

寝ぼけたままダイニングルームへずるずると連行される。

すでに亜由美と迦遊羅は起きていた。

「おはよう」

亜由美が顔を赤らめて挨拶する。

「おはよう」

ようやく目を覚ました当麻はそんな亜由美をいとおしげに見つめて返事を返す。

「朝から二人の世界に浸らない」

伸が注意して二人ははっと我に返る。

いただきますと叫んで慌てて亜由美が朝食をかっこみだす。

急いで食べ過ぎて喉に詰める。

迦遊羅があわてて水を飲ませ、隣の当麻が背中をたたいてやる。

「死ぬかと思ったー」

げんなりした声で亜由美が言って当麻と迦遊羅が同時に叱る。

「急いで食べるからでしょう? お行儀が悪いですわよ」

「見境もなくがっつくからだ。しっかり噛んでゆっくり食べろとあれほど言ってあるだろう?」

「すみません」

と亜由美がしゅんとうなだれる。

その様子に笑いが巻き起こる。

「皆して子供扱いするんだからー」

むすっとして亜由美が言う。

「実際子供だろうが」

当麻が突っ込む。

「当麻と一個しか年違わないんだからねー」

亜由美が反論する。

「あゆって年誤魔化してるんじゃない?」

伸が言って征士もうむ、と同意する。

「ですわね。私よりも幼い気がすることは度々ですもの」

迦遊羅も同意する。

残るナスティを見るとにっこり微笑んで言う。

「皆の中で一番子供っぽいと言えばあゆよね」

一同にしっかりと子供だと言う認定を受けて亜由美はがっくりを肩を落とす。

「今年中にめいいっぱい大人に成長してやるっ」

決意を新たに叫ぶ亜由美を皆は笑いながら見つめる。

「信じてないわね。いいわよ。絶対におとなになってやるー」

その決意が実るのは何年も後になってのことだとは亜由美も思いもしなかった。

 

皆が出払った後、亜由美は当麻の部屋へ直行する。非常時以外、こんな時で無いと部屋には入れないから。

ドアを開ける。

当麻は眠っていた。

ベッドの近くの床に座りこんで寝顔を見つめる。

幼い子供のような寝顔に亜由美は微笑んで見つめる。

安堵した寝顔を見つめている内に自分も眠くなる。

ベッドにもたれかかるようにして亜由美も眠った。

当麻は目を覚まして体を起こすとぎょっとした。

ベッドにもたれかかるようにして亜由美がすやすやと寝息を立てている。

あわてて起こそうとした手を止める。

その寝顔は実に安らかで幸せそうだったから。

ここ最近、ようやくそんな寝顔が見られるようになった。

ついこの間まではどこか張り詰めた糸のような緊張感が亜由美の中にあった。

安らいだ表情を見せることはあったが幸せそうな表情はここ最近見られるようになっていた。

両思いになってからようやく亜由美はこんな顔をするようになったのだ。

当麻はベッドから抜け出すとそっと亜由美を抱き上げる。

同じベッドで眠っていたいところだが、爆睡して見咎められることもある。

それならリビングで眠ったほうがまだましだ。

伸がタオルケットをリビングに出しておいたと言っていたのを思い出す。

抱き上げられて頭がかくんとのけぞって亜由美は目を覚ました。

「ほへ?」

寝ぼけた頭で現状を確認する。

ぼけーっとしているとリビングの敷物上に寝かされる。

亜由美が目を覚ましていることに気付いた当麻が亜由美の頬をつつく。

「お前、俺の部屋でぐーすか寝るなよ。勘違いされるだろう?」

「誰もいないからいいのー」

ぷにぷにとつつかれる感触を楽しみながら亜由美は答える。

当麻は手を離すとおいてあったタオルケットをかけてやる。

タオルケットはちゃんと二人分用意してあった。

当麻はもう一枚を自分のひざにかけて亜由美の顔を見下ろす。

「とーまはおねむしないの?」

「俺は腐るほど眠ったから大丈夫だ」

答えると亜由美が困ったような顔をする。

当麻が亜由美が口を開こうとする寸前に先読みしていってしまう。

「別にお前にいやいや付き合っているわけじゃない。実際、まだつらいしな・・・って、お前なー」

当麻がこめかみをおさえる。

「何言ってもそんな顔されたら何も言えないだろう?」

亜由美は泣きそうな顔で当麻を見つめていた。

ごめん、と亜由美が呟く。

「また巻き込んじゃったね。当麻には関係ないことなのに・・・」

悲しそうに呟く亜由美に当麻は言う。

「俺が首を突っ込んでるの。何度言えば分かるんだ? それにお前が関係することには俺も関係するの。

それに天青って俺の前世なんだろう? しっかり関係あるじゃないか」

亜由美は決まり悪そうな顔をする。

「当麻や皆には悪いと思ったけど、当麻に天青の事を知らせたくなかったから。

昔の別の人格なんか思い出しても嫌な思いするだけだから。

当麻はそのままの羽柴当麻でいて欲しかったから」

亜由美の言葉を聞いた当麻がなんとも言えない顔つきで亜由美をじっと見る。

亜由美として生きてきたこの少女が亜遊羅として覚醒した事がどれほど亜由美に苦痛をもたらしたか。

自分には前世の記憶などない。今回の事で得たのもただの情報だ。

自分が他の誰かであったという実感はどこにもない。

それを持つと言うことはどういうことなのだろう?

当麻は思い巡らす。

真剣な亜由美の顔が一転して明るくなる。

「って言っても私が亜遊羅である事は嫌じゃないけどね。当麻を守る力を持てたし、ってやっぱり面倒に巻き込むことが多いけれど・・・」

守る力・・・、当麻はその言葉をかみ締める。

「守る力、俺も欲しいな・・・」

ぽつりと当麻が呟く。

「持ってるよ」

亜由美がにこりと笑って言う。

「物理的な力を持っているかではなくて、心の力を当麻は持っているよ。

当麻は闇に落ちかけた私の心を何度も救って、今も守ってくれている。それで十分だよ。

当麻達はもう戦う力を持ちたくないでしょう?」

それはそうだが、と当麻が一人ごちる。

「戦うための力は欲しくない。戦いは悲しみと憎しみを生むだけだ。

繰り返される悲劇は誰かが止めないと行けない。だが、お前を守るためなら、俺は・・・」

当麻の瞳に思いつめた光が宿る。口を開きかけた当麻の唇に亜由美は手を伸ばして指をあてる。

「ストップ。それ以上は考えちゃ駄目。当麻は今の普通の当麻のままでいいの。

心に無理を重ねちゃ駄目」

当麻が複雑な顔をする。亜由美はそれを見て心を決める。いつ青龍の力のことを言おうか迷っていた。今が言うべきときなのだ。

あのね、と亜由美は言う。

「当麻にはまだ内緒にしておこうと思ってた。でも、いきなり知るよりも今知っておいたほうがいいから、教えてあげる」

亜由美は体を起こして当麻の前に座ると手を取って両手で包み込む。

「当麻は時がくれば四神としての能力が目覚める様になっているの。天青がそうしてくれたの。だから当麻にも守る力があるの。当麻は青龍の力を持っている。時の長の今のたった一人の守護者なの。他の三人はお空にいるから、当麻だけが現世に残っている守護者」

言って亜由美は言葉を一旦切る。

「もし当麻が青龍の力はいらないって思っているなら封じてあげる。誰も戦いたくないもの」

言って亜由美は寂しそうな顔を当麻に見せない様にうつむく。

当麻は片手を亜由美の手に重ねる。

「封じなくていい。その方が俺も安心するから」

「無理しちゃ駄目だよ? 自分の心を偽っては駄目だよ?」

「無理なんかじゃないんだ」

当麻の目に自信なさげな光が宿る。

「正直、ずっと心もとなかった。俺には鎧の力が残っている。だが、それではお前を守りきれない。

守ってやるといいながら結局はお前のお荷物に成り下がっている自分が嫌だった」

亜由美が激しく首を振る。

「お荷物なんかじゃないっ」

最後まで聞いてくれ、と当麻が言って亜由美は口を閉じる。

「だから、自分にお前を守る力が眠っていると聞いて正直うれしくさえ思う。

その力を戦うために人を傷つけるために使うわけじゃない。お前を守るために使うんだ。

喜んでお前の守護者になるよ」

そう言って当麻は静かに微笑む。

亜由美はトルーパーとしての彼らが戦うことにどれほど悩んできたか知っている。

今もその悩みは解決されていない。

その当麻に再び戦う力を与えることは果たしていいことだろうか、と亜由美の心は揺れ動く。

一時の寂しさで目覚めるようにしたのは間違っていたのかもしれない。

自分はいつもこうだ。事態を起こしてしまってから惑って後悔する。自分が嫌になる。

「それに、お前の話じゃ、俺はたった一人の守護者なんだろう?少なくとも一人きりだったお前に仲間が出来たんだ。正確な意味での仲間が、な。俺は今やお前のれっきとした身内って訳だ。お前、寂しがりやだからな。こういう人間が一人ぐらいいてもいいだろう?」

当麻は明るく言って落ち込んでいる亜由美の瞳を覗き込む。

「天青もそれを知って力が目覚める様にしたんだろう? 俺はお前を守るためなら天青だろうとなんだってなってやるさ」

亜由美は当麻が誤解していることに気付いて慌てて口を開く。

「違うの。天青にはならないの。彼は当麻の意識のずっと奥深くに眠ってしまったの。

めざめるのは青龍の力だけ。彼の記憶は戻らないの。だから今の当麻のままで青龍になるんだよ。

青龍の天青でなくて青龍の当麻なの」

そっか、と当麻はどこかほっとしたかのように呟いて納得する。

「やっぱ、「俺」があゆを守りたいからな。俺のままで出来ることならそれに越したことは無い」

「本当に力を目覚めせてもいいの?」

亜由美が不安そうに尋ねる。

「いいといったらいいの。お前も一々悩むなよ。それでいいんだ」

当麻が力強く言って微笑む。亜由美もようやく安心して微笑む。

「あっ、お前っ・・・」

当麻がはっとして嫉妬に駆られた瞳で亜由美を見据える。アイデンティティの問題が頭をかすめて亜由美が亜遊羅でもあることを思い出す。

「お前っ。天青が好きなんだろうっ? 俺と言う者を差し置いてよくもまぁっ」

ストップっ、と亜由美は言っていきなり当麻の唇に唇を押し付ける。それから唇を離して声を上げる。

「今の時代の私が好きなのは当麻なのっ。天青を好きだったのは亜遊羅っ。四百年も大昔のこと持ち出さないでよねっ。今の私はあゆなのっ。当麻がそう言ったんじゃないのよっ」

ものすごい勢いでまくし立てられて当麻は口を閉ざす。

「こういう顔でこういう声でこういう性格でこういう容姿をしている羽柴当麻が好きなのっ。

他の格好してたらだめなの。いい? 今の私が好きなのは当麻だけ」

必死で言う亜由美の顔を見ていた当麻は破顔すると亜由美を抱きしめる。

俺も、と当麻は言う。

「俺も今のお前が一番好きだ」

ほんの少し体を離して当麻は指で亜由美の顔をなぞる。

「こういう顔でこういう声でこういう性格でこういう容姿のあゆが一等好きだ」

当麻はそう言うと亜由美の顔にキスの大洪水を起こす。

「当麻、くすぐったい」

亜由美がくすくす笑う。

「こっちの方がいいのか?」

当麻はそう言うと亜由美の唇を奪って熱いキスをする。

唇を求められた亜由美も同じ熱さで応える。

唇を離して当麻が言う。

「やっぱり、こっちの方がお気に入りなんだな」

ちゃかして言うと亜由美は顔を真っ赤にしてばっと当麻から離れると向こうを向いてタオルケットの中にもぐりこんでしまう。

その様子を当麻はくつくつを面白そうにして笑う。

「お前ってほんとにかわいいやつ」

子供扱いしないでよ、と亜由美は向こうに向いたまま不満そうに呟く。

「これぐらいのキスで恥ずかしがっている間は子供だって」

当麻は面白そうにまた笑う。

くるり、と亜由美は振り向いてにやりと笑う。

「そういう子供が好きだなんて当麻ってロリロリ野郎なんだー」

にやにやして言われて当麻は真っ赤になって叫ぶ。

「天青よりまましだっ。俺は五才の幼児を好きになるほどいかれてないっ」

ふーん、と亜由美は言う。

「当麻と最初に会ったのって私が四つか五つのときなのにねー」

「その時は俺もちびガキだったろうがっ。いい大人で幼児を好きになった覚えはないっ」

必死で言いつくろう当麻に亜由美は言う。

「当麻ってほんとーにかわいい人」

亜由美はころころと鈴を転がしたような声で笑う。

その笑い声を当麻はここちよく聞く。

「かわいいのはお互い様だと思わないか?」

自分も横になると腕をを枕にしながら当麻は言う。

「かもね」

亜由美はまたおかしそうに笑う。

なんだよー、と問うとさらに笑う。笑いながら亜由美は答える。

「当麻がそんなに真っ赤になって言うのはじめてみたような気がする。

今度からロリロリ当麻って呼んであげようか?」

やめろよ、と当麻は嫌そうな顔をする。

「変なあだ名つけるなよ。ただでさえ、くっつき虫やらキス魔やら言われてるんだぞ? それにお前がとっとと大人になってくれれば問題ないんだ」

「誠意努力します。早く大人になって当麻を悩殺してあげる」

最初の言葉をかしこまっていった後、ハートマークを飛ばして言われて当麻は笑う。

「お前が俺を悩殺できるようになるまでに俺はじじぃになるような気がするぞ」

失礼ねっ、と亜由美は口を尖らす。

「こうなったら絶対に早く大人になって当麻を骨抜きにしてやるー」

「楽しみに待ってる」

当麻は答えてまた面白そうにくつくつ笑う。

実際、俺はこいつにもう骨抜きにされているがな、と当麻は心の中で呟く。

かわりに愛をささやく。

「好きだ。愛してる」

私も、と亜由美は答える。

「大好きだよ。めいいっぱい愛してる」

二人はしあわせそうに微笑んで見詰め合う。

しばし、見詰め合ってから当麻は枕代わりにしていた腕を亜由美のほうに伸ばす。

「騒いで疲れたろう? 俺も少し眠るから」

言われて亜由美も手を伸ばす。

手のひらを重ね合わせて指を絡める。

うれしそうな笑みを浮かべた亜由美は静かにまぶたを閉じる。

すぅっと亜由美が眠りに落ちていくのを見た当麻もまぶたを閉じて眠りに身を任せた。

 

洋間でテレビを皆と見ていた亜由美の姿がないのに気付いた当麻は亜由美を探した。

彼女はリビングの窓から夜空を眺めていた。

「そんなところにつっ立っていると湯冷めするぞ」

当麻が忠告すると亜由美は振りかえる。

「外にいるわけじゃないんだから、いいでしょう?」

不満そうに言ってまた夜空を眺める。

「何、見てるんだ?」

当麻も側に来て一緒に夜空を見上げる。

夏の大三角形が大きく輝いている。

「道しるべのお星様に今日の出来事を報告しているの」

しんみりとした声で亜由美が答える。

「道しるべの星?」

聞いたことの無いような言葉に当麻が首をかしげる。

「私が命名したの。姉様達が光の玉になって今も道を導いていてくれるの。

だから道しるべのお星様なの」

そう言って亜由美は優しく、だが切なそうに微笑む。

「どこにあるんだ?」

当麻が身を乗り出して夜空にその星を探す。

「今の当麻には見えないよ」

亜由美が面白そうに答える。

「って俺だって四神なんだろう? 見えるはずだ」

大きく目を見開いて夜空の星を探す当麻の姿を見て亜由美はくすり、と笑うと当麻の手を取る。

「今、見える様にしてあげるから」

亜由美の手から何か暖かいものが当麻に伝わってくる。

唐突に星図にはない四つの星で出来た道筋が見える。

ふぅん、と当麻はその星達を見つめる。

「一番手前のが天邪鬼の冬玄だな。でもって一番最初が緋影だな。あいつはきっとナイト気取りで」先導しているに違いない。その後ろがお前の姉さんで、そのまた後ろが緋影の後ろをピーピー泣いてくっついている白影だな」

当麻らしい分析に亜由美が噴出す。記憶が無いのにずばりと性格を当ててしまう所が当麻らしい。

「当麻にそこまで言われたら皆、たまんないって。当麻だけがいい顔してたら天誅くらうよ?」

「あんな遠い空から下せるものなら下してみろ」

当麻が挑戦的に言って亜由美は苦笑いする。

「当麻、私の守護人が四人ていうのが気に入らないのね」

当麻はあくまでも亜由美を守るのは自分だけだと思いたいらしい。

図星の当麻はほんのり頬を染めながら不機嫌そうに夜空を眺める。

相変わらずの所有欲と独占欲の現われに亜由美は笑ってしまう。

でも、と亜由美は思う。

当麻のこの強い想いがあればこそ今、ここにこうしていられるのだ。

当麻が再三、引きとめてくれなかったら今ごろきっと惨めな思いをしているに違いない。

「ありがと」

そう言って亜由美は当麻の頬にキスをする。

何がだ?、と当麻は尋ねる。

「当麻のその性格に感謝しているの」

にこにこと笑ってそれ以上言わない亜由美を当麻は不思議そうに眺める。

「沙羅耶って言ったっけ? お前の昔の姉さん。綺麗な人だったんだろうな」

愛らしい亜由美の顔に見とれつつ当麻が言う。

「別に遺伝子的つながりは今の私には無いんだけど?」

今度は亜由美が不思議そうに当麻を見る。

いや、と当麻が首を振る。

「今のお前とかゆも似ているからきっと大昔のお前もそんな顔だったに違いない。

その顔を美人系にしたらきっと綺麗だと思うが?」

言外に自分への誉め言葉が入っているような気がして亜由美の頬は真っ赤に染まる。いきなり、当麻の背中をばしっと叩く。

「誉めちゃってもなんにもでないからねーっ」

「別に特別褒賞をもらわなくてもここに褒美がたんとあるからな」

当麻はすばやい動きで亜由美の唇を奪う。

「もうっ」

亜由美は真っ赤な顔をさらに赤くさせて夜空に目を向ける。

「当麻って一日一回は必ずキスするんだからー」

恥ずかしそうに言いながら亜由美は夜空に光る姉星に向かって心の中で語り掛ける。

私は今日も当麻に愛されています。姉様は今日も幸せですか?

道しるべの星の一つがそれに答えるかのように一瞬、瞬いた。

亜由美はそれを姉の返事だと受け取った。

姉のことを思うとき亜由美の心は切なくなる。

長いときを闇の牢獄の中で過ごし、今また夜の闇に輝いている姉を思うと切なくなる。

「いつか姉様たちの魂も生まれ変われる様にしてあげたい・・・」

切なそうに呟く亜由美の髪を当麻はくしゃっと優しく撫でまわす。

「お前ならきっと出来るよ」

うん、と亜由美は少し頼りなげに頷く。

当麻と姉達の導きを得た今からこそが自分の本当の修行なのだと亜由美は思う。

唖呪羅が復活するまでに自分は真の覚醒をしなくてはならない。

今度こそ、間違いのない様にするから。

亜由美は心に強く誓う。

「お前はもう一人じゃないから。俺達がいるから。だから一人でがんばるなよ」

瞳に力強い光りを宿して星を眺めている亜由美に当麻が心配そうに声をかける。まだ、時々亜由美がふらりと離れていく気がしてならないのだ。亜由美は当麻を見上げてにっこりと笑う。

「わかってるよ。私には大勢のお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるんだもの。

末っ子として思いっきり甘えさせてもらうから」

亜由美が調子よく言う。

そうか、と当麻はふむふむ頷く。

「ついに自分が一番子供だと言うことを悟ったか。いい傾向だ」

当麻も調子に乗って言う。

「皆で花火しよー」

唐突に亜由美が言い出す。

「どっかにあまりの花火があったよね? それを皆でやろうよー」

亜由美が当麻の腕をひぱってねだる。

「今は九月も末だぞ? 今ごろ花火してどうするんだ?」

「いいじゃない。まだ九月末。夏だもん。ねー。花火しよー。花火」

「お前はとことんわがままな奴だなぁ」

当麻が笑って答える。

「末っ子の特権は甘える、だもん。思いっきり当麻にわがまま言うんだもんっ」

うれしそうに言う亜由美の顔を当麻もまたうれしそうに見る。

「わかったから、そんなに引っ張るなよ」

ずりずりと引っ張られつつ当麻が言う。

了承を得て亜由美はわーいと声を上げていそいそと花火捜索にかかる。

その後姿を当麻はいとおしそうに見つめた後、今度は洋間でテレビを見ている仲間達を誘いに行く。

たまには騒いでも構わないだろう。

今年の夏はいろんな意味で思い出深い夏になりそうだ。

当麻は夏の出来事を頭に浮かべながら洋間に向かった。