ソウルラヴァー 花火 道しるべの星おまけ

「おい、こっちにもチャッカマン貸せよ」

当麻が征士の手から着火装置を奪い取る。

花火をしたいと言い出したのは亜由美だったが、一番はしゃいでいるのは当麻だった。

三本同時に点火する。

勢いよく花火が飛び散る。

「うひょー。三本同時だと豪勢だなー」

うれしそうに当麻は花火で遊ぶ。

ためしに花火を回してみる。

「当麻。そういう危ない遊び方はだめだよ」

伸がしっかりと注意する。

ナスティはまだ学校で仕事をしているために母親役は伸に全部回ってきてしまう。

「ほーい」

当麻は大人しく了承すると花火を続ける。

征士は例外無く花火セットの裏に書いてあるとおりに律儀に約束事を守ってやっている。

人に向けないで水の入ったバケツの側で静かに花火を楽しむ。

迦遊羅はあまり花火を知らないために新しい花火をすることに夢中になっている。

伸は危ない遊びをはじめそうな当麻をしっかりと見張りながらそれ相応に楽しむ。

言いだしっぺの亜由美はつつましく線香花火に興じている。

しかし、一見しとやかに花火をする姿と違って本人はいかに最後の最後まで線香花火をするかということに執念を燃やしている。

亜由美の顔ににやり、と会心の笑みがこぼれる。

もう少しで最後の最後までいける。

ジジジジっ。

線香花火が花火を散らすのをにやりとしながらしている姿は結構怖いものがある、と亜由美を見ていた伸は思う。

当麻が終った花火をバケツの中に突っ込む。

亜由美の側を勢いよく通りすぎた時にもう少しで最後だった線香花火の玉がぽとり、と無情にも落ちる。

わーんっ、と亜由美は派手な泣き声を出す。

「とうまのばかっ。もう少しで最後の最後だったのよーっっ。これがどんなに大変か当麻は知らないのっっ?」

真剣に怒る亜由美に当麻が申し訳なさそうに謝る。

「悪い。気が利かなかった。次に挑戦してくれ」

当麻は亜由美の側にある山ほどの線香花火から一本をとると手渡す。

「当麻もたまにはこういうのをしたらどうなの? 普段、冷静なくせにこういう時だけ一番派手なの選ぶんだから」

妨害された亜由美は不機嫌そうに言って当麻から花火を受け取る。

「だって、俺、こんなのしたことなかったからさー」

当麻がうれしそうに言う。

「もしかして、当麻、花火するの東京に来てからなの?」

亜由美が意外そうな声を出す。毎回異様に騒ぐ当麻だったが、まさかと思っていて疑問にならなかったのだ。

んー、と当麻は次の花火に火をつけながら考えて答える。

「ちっこいときはしたかもしれんが、あまりにも小さすぎて覚えてない。

俺、一人っ子だからなー。一人で花火に興じるのは寒すぎるだろう?」

その言葉に誰もが苦笑いする。

確かに夏の夜、子供が一人、地味に花火に興じている姿は結構寒い。というか怪談にでもなりそうだ。

「それじゃぁ、当麻は花火大会とか行かないのかい?」

実家が海辺で花火大会は毎年の行事として見てきた伸が問う。

「わざわざ見に行ったのはこいつに誘われて行った時の一回ぐらいだなー」

そう言えば、その時の亜由美は浴衣を着ていてかわいらしかったのを思い出して当麻がにへら、と笑みを浮かべる。

「一体、何を思い出してるのやら」

亜由美がその当麻を見て苦笑いする。

「お前の浴衣姿。結構かわいかったなー。ここまで惚れるんだったらちゃんと見ておくんだった」

もったいないことをした、と当麻がひどく残念そうに言って亜由美以外の者が笑う。

「このどすけべっ。どこ見てたのよ。花火大会は花火を見るためにあるのよっ」

亜由美が顔を真っ赤にして叫ぶ。

なー、と当麻が顔を崩して言う。

「お前、たまには浴衣着ろよ」

言われて亜由美は顔をしかめる。

「やぁよー。浴衣はあの時でこりごりなんだからー。胸は苦しいし、下駄は歩きにくいし」

嫌がっている亜由美をよそに当麻は夢想に浸る。終った花火を上の空でバケツに突っ込む。

「お前ならどんなのが似合うかなー? そうだな。やっぱ、かわいい系だよなー」

鼻の下を伸ばしているんじゃないかと思われるような顔つきで当麻が呟く。

ふっと現実に戻って当麻が片手でぽんと叩く。

「明日、浴衣を買いに行こう。どうせ、かゆも着た事が無いだろうし。この際、二人一緒に買えばいい」

何言ってるのよっ、と亜由美が文句を言う。

「さっき当麻が言ったんじゃない。九月も末だって。今ごろ浴衣なんて季節はずれだよ。だいたい、そんな事に使うお金なんてありませんっ。それに買って誰が着付けするのよ?私、一人で浴衣なんて着れないからね」

あのぅ、とためらいがちに迦遊羅が声を出す。

「その、ゆかた、というのは何ですか?」

その問いに当麻はああ、と言って一人納得をする。

「浴衣は江戸時代に入ってから確立したんだっけな。戦国時代のかゆが知ってるわけ無いな。

浴衣はもともと風呂に入るときに着ていた着物の事を言うんだ。それが長い歴史の間に夏の間に着る薄い着物という風に変わったんだ」

「着物の一種ですか」

迦遊羅がようやく納得する。

「それなら着つけできるかもしれません。私は着物で日常生活を送っていましたから」

そうか、と当麻がうれしそうな顔をして亜由美がさらに嫌そうな顔をする。

「やっぱ、大和なでしこはこうでないとなー。どこかの誰かさんとは大違いだ」

当麻が調子に乗って言って、亜由美はぎろっと当麻を睨みつける。

「だったらかゆに浴衣買ってあげればー? 私は別に着たくないもん」

やだ、と当麻が却下する。

「お前の浴衣姿を見たいのにお前が着なかったら本末転倒だろう? よし、こうなったらナスティの分も買おう。三人一緒なら文句無いだろう? 征士もナスティの浴衣姿みたいよなー?」

当麻の誘惑に征士も顔を赤らめながら頷く。

「ほら。征士もナスティの浴衣姿みたいってさー。お前も着ろよ」

「って、浴衣も結構高いのよ? 三人分買うってどこにそんな大金あるのよ?」

んー、と当麻が考える。

「どうせ、次の仕送りが近い。夏のボーナスだ、と言って親父からふんだくる」

きっぱりはっきり当麻が手段を告げる。

「夏のボーナスは普通七月に入るのよ? 九月、しかも十月の仕送りの分になんでボーナスがつくのよ」

「そんなもん考え様だ。もらってないもんは今からもらっても損は無い。

どうせ、親父の給料はとんでもない科学装置に消えるんだからちょっとぐらいいいだろう」

「しっかりこういところは商人当麻なのね・・・」

「関西人とはこういうものなのか・・・」

亜由美がため息をこぼして言い、征士がやや尊敬するかのように言う。

「大阪人に限定して欲しいな。おおざっぱに言うと僕も関西人なんだよ」

伸が嫌そうに言う。

あら、と迦遊羅が声を上げる。

「そうしますと、ここには関西人ばかりいることになりますわね。

征士一人が関東と言うことになるのですね」

共同生活でどっぷり関東生活に浸っていたからその事実が意外に新鮮だったりする。

「いくらお金があっても嫌だからねー。当麻のことだからきっと高価なもの選ぶし、そんな高いもの

もらうほど神経太くないもん」

「それならお前の未来の嫁入り道具にしておけ」

ぬけぬけと当麻が言って亜由美はすがるように伸を見る。征士はすでに当麻の手先なのですがっても意味は無い。

無理なんじゃない?、と伸は無情にも言って肩をすくめる。

「当麻、すっかりドリーム入ってるよ。こうなった当麻はもう誰にも止められないよ」

伸に指摘されて亜由美ががっくり肩を落とす。

「めんどくさい事は嫌なのよー」

亜由美がぶつぶつ言って最後の抵抗をする。

「俺が買ってかゆがきつけするんだ。お前は黙って座っていればいいだろう? 至れり尽せりだぞ?」

あんまりにも当麻がうれしそうなので亜由美はとうとう折れる。

「わかった。わかったから。だから、あんまり高価なのを選ばないでよ?」

よっしゃ、まかせときっ、と当麻が久々に関西弁を披露する。

その勢いの良さからきっと当麻は盛大に値切るだろうと思って亜由美は頭を抱える。

「大阪神の商人センスをみせたるさかい、心配せんでええ」

当麻が関西弁ばりばりで言って亜由美はさらに頭を抱える。

すっかり地元モードの当麻には何を言ってももう聞こえない。

亜由美はしかたなく持っていた線香花火に火をつけて楽しむことにした。

ぼけーっと花火を楽しんでいたら遠くで当麻の声がする。

「ねずみ花火点火するぞー。気をつけろよ」

聞こえたかと思うとシュンっ、シュンっとねずみ花火が勢いよく回ってくる。

亜由美は慌てて花火を持って飛び退る。

手にしていた花火の火がまた無情にも落ちる。

「ちょっとぉっ。人が静かに・・・って、きゃぁ・・・。こっちにこないでぇー」

ねずみ花火に追いかけられて亜由美が逃げ惑う。

逃げ惑った先に当麻がいて亜由美はまっすぐに当麻の元に逃げ込む。

当麻はひょいっと亜由美を抱き上げる。

当麻の足元でねずみ花火がようやく止まる。

当麻にお姫さま抱っこされながら亜由美はようやくほっと胸をなでおろす。

「お前ってなんでも無いものにめちゃくちゃ怖がるよな。変な奴」

当麻が面白そうに言う。

「怖いものは怖いのっ。あれが怖くないだなんて皆どうかしてるのっ」

亜由美が泣きそうな顔で声を上げる。

ふぅん、と当麻がにやりとする。

不敵な笑みに亜由美はどきりとする。

「そういうことなら・・・。征士、次のねずみ花火点火してくれ」

「なんでっ。わざわざそーいうことするのよっ」

「そうすれば堂々とお前を抱いていられるから」

面白そうに当麻が言う。

亜由美は首筋までまっかになる。

「降りるっ。断固として降りるっ。降ろしてったら降ろしてーっ」

「お前が騒いでいる間に次が点火されたぞ」

ぎゃーぎゃー騒ぐ亜由美を尻目に征士が点火していた。

「征士の裏切り者ー」

亜由美の抗議を征士は聞き流す。

無駄だ、と当麻が告げる。

「あいつは今や俺の犬、だからな。ナスティの浴衣姿を見るまでは征士は俺の言うことを聞くぞ?」

「悪魔っ」

「なんとでも」

当麻はひょうひょうと受け流す。

「お前は先日約束破りしたからな。これがおしおきだ」

当麻がにやにやと笑う。

「当麻一人が楽しむおしおきなんて無効だーっっ」

亜由美がまた叫ぶ。

「残念ながら、僕も楽しんでいるよ。あゆの反応見てると面白いんだよね。ついつい遊びたくなるんだよ」

伸が面白そうに言う。

「本当に姉様の行動って予測がつきませんものね。下手なギャンブルよりスリルがありますわよ」

迦遊羅も面白そうな顔で言う。

「私は皆の一体何ーっっっ??」

亜由美が当麻の腕の中で叫ぶと皆は一斉に答えた。

「おもちゃ」

亜由美はがっくりとうなだれる。

子供認定は受けるは、おもちゃ扱いされるは、明日はきっと着せ替え人形扱いだ。

扱い方があんまりだ、と亜由美は思う。

が、一方でこんなに構われているのがとてもうれしく楽しかった。

気持を隠すことなく皆の中にいられることをとてもうれしく思っていた。

これもすべて当麻のおかげ。

皆とのつながりをつないでくれていた当麻のおかげ。

「少しはいじられ役に徹してあげる」

ふいにもらした小さな呟きを当麻はしっかりキャッチしていた。

「あゆのお許しが出たぞ。思い存分、いじっていいって」

当麻の言葉に皆がにやりと笑う。

「少しはって言ったのよ。少しはってっ。思い存分なんて言ってないーっっ」

「なぁにして遊んであげようかなぁー?」

伸が面白そうなそれでいて意地悪そうな笑みを浮かべる。

「やはり夏と言えば、花火。その次は怪談だろう」

確信犯征士も言う。

「やめてっ。それだけはやめてっ。夜が寝られないでしょーっっ。霊能者の言う台詞ーっ!?」

「あゆの実体験に比べれば私達の話など月とすっぽんの開きがあると思うが?」

仙台のサムライ霊能者征士はすでに何を話すか思いついているようだ。

「あなた達ーっ。怪談はよくないのものを呼びこむのよーっっ」

「それならしっかり私が守って差し上げますから大丈夫ですわ」

迦遊羅がにっこり笑って言う。

よってたかっていじめられて亜由美はひたすら抗議の声を上げる。

わいわいと一段と騒がしい声が庭に響く。

その後すぐに帰って来たナスティも亜由美をいじる仲間に加わる。

私って・・・、私って皆の一体何なのーっっ?!

亜由美の叫びは夏の夜空に消えていった。

楽しそうなナスティ家を道しるべの星はしっかりと見守っていた。