輝けるもの

新たな鎧を手にしたトルーパー五人はまだビルのてっぺんではしゃいでいた。亜由美はイライラと見上げたがそのうちにひょいっとテレポートした。

「いつまでいちゃいちゃしてんのよっ」

ぽすっと当麻の懐に拳を見舞う。それから久しぶりに現れた白炎に向かって抱きつく。

「きゃー、白炎、元気だったー?」

白炎はぐるぐるとのどを鳴らす。

お前ねー、と当麻が不機嫌そうな声を出す。

「抱きつく相手が違うだろうが。それより学校どうした? 不登校児め!」

当麻が白炎からべりっとひきはがす。

「こんな非常事態におちおち学校なんていってられないわよーっ。いきなり行方不明になるんだから。どれだけ心配したとおもってんのよっっ」

振り返った瞬間に亜由美の涙が飛び散る。悪かった、と当麻が一言謝る。

「下でナスティもかゆも待ってるから、早く降りて上げてよ」

亜由美は涙を隠すと皆に告げる。

白炎が一声鳴いたかと思うとふっと消えた。

うそっと亜由美が大慌てする。

「ちょっと白炎っ。あなたのことじゃないのよっ」

あわてて探すがもう姿はなかった。

「納得して消えてしまったようだな」

冷静に征士が分析する。その声に亜由美が微笑む。

「遼、征士ありがとう。あなたたちがいなかったらこの事件は解決しなかったわ。皆がんばったけれど一番頑張ったのは征士と遼よ」

それを聞いてまた当麻がぶすっとする。

「当麻が世界を破滅させる前に降りた方がいいんじゃねーか?」

秀が指摘して、伸が笑う。その笑顔に亜由美は心底ほっとする。

当麻が謎の古文書を見つけだして東京に出向いたあと突然行方不明になった。だが、この戦いは彼らのみのためにあると察知した亜由美はあえて我慢した。いますぐにでも相手の元に出向きたかったがそれをして迦遊羅の存在まで明らかにさせてしまうのも怖かった。ただ忍耐の日々が続いた。そして国際会議が開かれてしまった折りに迦遊羅と一緒に東京に出向いたのだ。一目で現場を見た亜由美は彼らしか対応できないと瞬時に悟った。それのため、今まで指をくわえて見ていたのだ。ようやく終わったかと思うと彼らはビルのてっぺんではしゃいでいたのだ。

戦いを否定し続けた彼らは戦いをやめるための戦いを今から始めるのだ。

守ることを思い描いたトルーパー達。今や一人一人が輝光帝を手にしたも同じようなものなのだ。彼らが誇らしくてたまらない。

「とりあえず、もう降りよう」

静かな遼の言葉に皆、ようやくはしゃぐのを忘れてビルを降りた。

そこには迦遊羅とナスティがいた。

迦遊羅が遼の元へ駆けつけてくる。

「ったく、かゆを見習えよ」

当麻がぶつぶつ文句を言う。

「人前でいちゃいちゃする気は毛頭ないもんねー」

あっかんべーと舌を出すと亜由美は走り出した。おいっ、と当麻が追いかける。側にたっていたナスティを使って二人で追いかけっこを始める。その様子に皆、笑いを禁じ得ない。あれほどの苦悩は皆、どこかに飛んでいってしまったようだ。

そういえば、と苦々しく征士が言う。

「明日は純の公式試合なのだ。皆も観戦せぬか?」

その言葉にわーいと亜由美が騒ぐ。

「純に会えるのねー。もうおっきくなったろうなぁ」

感慨深げに亜由美が言った。

 

試合会場は満員御礼だった。わーわー、騒ぐ亜由美を当麻がなだめる。純の名前が呼ばれる。凛々しい姿に亜由美は微笑む。

「きっと次のサムライトルーパーは純ね」

ふっと思いついた言葉を言う。

鎧 を持っていなくてもいても純はれっきとした六人目のサムライトルーパーなのだ。

凛々しい姿を見て亜由美は思った。

 

久しぶりに柳生邸に皆があつまる。それぞれの話しに花が咲く。その中で亜由美は当麻にうち明けた。

「そろそろだと思うの。もう少ししたらきっと戦いが始まるわ」

静かな声に当麻はどきりとする。

お前っ、と言うにも言葉が出てこない。

「また一人で修行でもするんじゃないだろうな」

念を押すように当麻が尋ねる。ううん、と亜由美は明るく答える。

「まだ覚醒はしてないけれど、きっとこうだと思うの。私の額の文字は『想』。その心は当麻とかゆが教えてくれた。生きとし生けるもの、死せるものをすべて愛する気持ち。これが一番大切なの。それは一人で修行していてもみつからない。日常の小さな事を一生懸命している内に見つかると思う。大事な人を悲しませての覚醒なんてあり得ない物。私は普通の生活をしてそこから答えを導き出したいの」

静かに語る亜由美の額をとんと当麻がつつく。ちょっとぉと亜由美が膨れる。

「鏡でも見てこい。お前、実際はもう覚醒してるんじゃねーのか?」

へ?、と亜由美が意外そうな顔をする。ったくと当麻の口から口癖が飛び出る。

「お前、鈍感すぎ」

ナスティから借りた手鏡で改めて額を写した亜由美は絶句した。

『想』という文字が神々しく浮かび上がっている。

うそ・・・。というにも言葉にならない。

「お前には負けるよ。お前ほどびっくりさせられる人間はこの世にいない」

当麻が苦笑する。

「えっえっーーーーーーーー?!」

亜由美の突然の叫びが柳生邸に木霊した。

 

二年後。

亜由美であり、亜遊羅であるあゆは当麻と手を携えてそこに立っていた。その横に迦遊羅も立つ。

「今度は足手まといなんていわねーだろうな」

秀の声にあゆは振りかえった。

「皆、来てくれたのね」

そこには新しい鎧を身にまとった遼、秀、征士、伸がいた。

「言わない。皆、力を貸して」

微笑んであゆは言った。

皆が頷く。

あゆは錫杖を手にした。

シャラン、と音を立てる。

その一音で皆、かの地に降り立っていた。

「ほえっ。あっというまだぜ」

秀が感心したように言う。

「しかももう都の中とは・・・」

征士が感心したように言う。

「おいでなすったぜ」

秀が言って身構える。亡者が待っていたかのように出てくる。皆、身構える。それをあゆは制する。

「待って。ここは私に任せて」

そう言うと、ついっと前に出る。

「我の名は亜遊羅、時の長にして時の番人なり。我が真名を持ってして命ずる。道を開けよ。我らに道を与えよ」

威厳のある声で命ずる。その言霊で亡者がするすると道を開ける。

「どうなってるんだ?」

遼が絶句する。

戦うためにここに来たのではなかったのか?

「僕たちの力要らないんじゃぁ・・・」

伸も動揺する。

「いえ、皆の力、心が必要なの」

あゆは振りかえって微笑むと道を歩き出した。

都の大路を一向は歩む。

また大きな門を越える。

"来たか。恐れを知らぬ馬鹿者どもめが"

人外の者の声が木霊する。

「ええ。来たわ。もう一度、やり直すために」

どぉんと禍々しい気が無言の圧力となって皆の上に覆い被さる。

「無駄よ」

あゆのその一言でさぁーっと気が晴れる。

あゆは目指す場所を歩き出す。

亡者だけでなく鎧武者が彼らを襲う。が、襲おうとして近づくだけで鎧武者は粉塵となってしまう。

何が起こっているのかあゆ以外は誰も理解できなかった。覚醒したあゆの周りには輝かしいオーラが満ち溢れ、鎧武者たち、亡者たちはその光に浄化されていったのだ。当麻だけは何が起こっているか理解しているようである。それなりの顔であゆの隣にいる。

今回は城ではなく中庭に張ってある陣屋を目指す。

が、今度はさすがに穏やかに事は進まないようであった。

唖呪羅が絶大な力を持って立ちはだかる。人間の何倍も大きい鎧武者の姿をした亡者。あゆしか知らないが、あの阿羅醐でさえ操った唖呪羅の力が皆を襲う。

風圧に耐えながらあゆは錫杖を手にした。

錫杖が光り輝き、エネルギーが分断される。

あまりの力の差に唖呪羅でさえも驚く。

歴代の時の長の力をもってしても封印するだけで精一杯だった唖呪羅の力をあゆはいとも簡単にふせいでしまう。

この小娘にこんな力があるとは・・・。

いきり立った唖呪羅が攻撃を仕掛ける。

刀が振り落とされる。

皆の頭上で刀が止まる。

錫杖と唖呪羅の力が拮抗する。

歯軋りをして唖呪羅が飛び退る。

「皆、力と心を貸して!」

あゆはそう叫ぶと錫杖を両手で構える。皆、言われるままに心をあゆにとばす。

 

仁、義、礼、智、伸、そして忠と想。

 

七つの心があゆと錫杖に集まった。

その錫杖を手に一気にあゆは駆け出す。飛びあがると唖呪羅の頭上に一気に振り落とす。

 

"なぬ・・・っ"

 

唖呪羅の鎧が真っ二つに裂ける。断末魔の叫びをあげて唖呪羅が消滅する。

さぁっと一陣の風が吹いた。

唖呪羅の力で作り出された幻の都は跡形もなく消え去っていた。

一向は野原にたたずんでいた。

「終わったのか?」

遼が尋ねる。

あゆは頭を振る。

「殻を破っただけ。本体はまだ消えていない」

その言葉に皆、息を飲む。

それなのにあゆはまとっていた鎧さえ解いてしまう。

それから当麻に向かって手を差し伸べる。

「武装を解いてついてきてくれる? サムライ・トルーパーでない、ただの当麻の想いが必要なの。私を愛する心が」

「ああ」

穏やかに頷いて武装を解き、その手を握る。

「かゆ。あと、よろしくね」

あゆはそう言うと当麻と共に空のかなたに消える。

「一体、俺達って何しに来たんだぁ?!」

秀がすっとんきょうな声を上げた。

 

あゆと当麻は一面花が咲き乱れる場所に降り立った。

「ここは・・・?」

見覚えのある風景に当麻が言う。

「そう。ここは当麻が私に心を教えてくれたあの場所よ。この地の中心。ここが唖呪羅の本体があるところ」

地に手をつけ、声をかける。

「出ておいで」

それはとても優しい声だった。

どぉんという音ともに巨大な黒いもやもやしたものが現れる。殺気があたりを支配する。

「あなたを滅ぼしに来たのではないわ。あなたを救うためにきたの。当麻。手を貸して」

そう言って当麻の片手を取り、それに手を重ねさらにその黒いもやもやしたものに手を当てる。

次の瞬間、当麻は暗闇の中にいた。不思議と怖い気はしない。そばにあゆがいる。

いや・・・、と当麻は首をかしげた。

俺はあゆ。そしてあゆが俺、なのか?

やや混乱気味に考える。

そう、とあゆが答えた。

今、私と当麻の心が一緒になって唖呪羅の中にいるの。

唖呪羅は人間の生み出した欲望、憎悪、悲しみ、悪意、恨み、そういったものの集まり。ゆがんでしまった闇の力。

あゆは唖呪羅に語り掛ける。

私はあなたを否定しない。この世には光と影、太陽と月、昼と夜、陽と陰、善と悪。

それぞれがバランスの上に成り立っている。

悪でさえ必要なの。悪が善を導き、陰きわまって陽となり、陽きわまって陰となる。

どちらも欠けてはならないもの。

純粋な光と闇がこの世界を動かしている。

ただ、あなたはゆがんでしまった。

陰の心が凝り固まってバランスを欠いてしまった。

あなたのそのゆがみを取るためだけに私は来たの。

私はあなたさえもいとおしいと想う。

悲しい人の性さえもいとおしいと想う。

 

いつしかあゆと当麻の心は融合していた。

 

俺ははあゆを愛してる。

私は当麻を愛している。

何もいらない。ただ深く愛する心。純粋に愛する心。

それが私に心を教えてくれた。

生きとし生けるもの。死せるもの。すべてを愛することができるようになった。

私は、俺はあなたを否定しない。受け入れる。

もう苦しまなくていい。

私、俺があなたを愛そう。親が子供を愛するように。

俺が、私が父となり、母となり、もう一度受け入れよう。

そうしてもう一度、暖かな闇の中に戻ればいい。

冷たく凍る闇の中でなく。純粋な闇の中に。

あゆと当麻の心が唖呪羅の闇を心に抱く。

ただ愛する心が唖呪羅の闇のゆがみを解いて行く。

ゆっくり静かに。

さぁっと風が頬をなでつけ当麻はまぶたを開けた。

あゆと当麻の重ねた両手の上に光さえ放っているかのような闇の小さな塊がそこにあった。

ゆがみのない純粋な闇。

ふたりはその手を空に掲げた。

あゆが慈愛のこもった声で言う。

「さぁ。元の場所にもどるのよ。あなたの元いた場所に」

闇の塊はその言葉と共にすっと霧散した。

 

あゆは当麻に微笑んだ。

「帰ろう。皆が待っている」

「ここは? 境を封印しなくてもいいのか?」

微笑んで当麻が尋ねる。答えを聞かなくてもわかっているかのように。

「いつか迷子になる闇のために開けておくわ」

二人は地上に戻った。

 

地上で二人は穏やかな気持ちで向かい合っていた。

皆が歩み寄る。

「あたたかい心だったぞ」

征士が微笑んで言う。

「僕達にも伝わってきた。二人の暖かい心が」

伸も言う。

「『想』ってそういう心だったんだな」

自分こそ仁の戦士なのに、遼が感心したかのように言う。

「私が特別なわけじゃないの。皆、心の中に持っている。遼も秀も伸も征士も。もちろん迦遊羅も当麻も。ちょっとしたきっかけで思い出せるわ」

だけど、とあゆは付け加えた。

「我ながらえらそうなことを言ったと思う。私だって泣いたり、怒ったり、笑ったりする、何の力もないちっぽけな人間だもの。まだまだ勉強することはたくさんあるし」

恥ずかしそうにあゆは笑う。

「心貧しきものは幸いかな」

当麻が口に出して言う。

「それがどうしたの?」

あゆがきょとんとして言う。

「結局どんなすばらしい人間がいても小さな、弱い人間こそ神様なんだ、って事だ。笑って泣いて怒って時には憎んだりするあゆみたいなちっぽけな人間が、な」

「私が神様ぁ?」

とんでもないといった風にあゆが首を激しく振る。

「あゆは神様だよ。俺のたった一人の女神。宇宙で一番輝けるもの、だよ」

当麻が微笑み、あゆの頬に手を触れて顔を上げさせる。

皆の前であゆは当麻から優しい祝福のキスを受けた。

 

FIN

 

新しいあとがき

 

パソコンがクラッシュしたので改めて校正しました。

あゆってそういえば魂鎮めの舞が踊れたんですが・・・忘れてました。

なんせこちらはファントムいじっているときにひらめいてうった代物なので。

本編のラストはここのはずだったのですが、大ラスが遠いところに出来上がってしまいました。

任務を果たしたあゆと当麻はよりいっそう甘々ご都合ラブストーリー爆発です。それを乗り越えての大ラスですのでよろしかったらこれからのどたばたにお付き合いしていただけたら幸いです。

またここに書いた悪というものの解釈は一種の理想論です。受け入れるだけで解決するのかどうかは私にもわかりません。ただ彼らは彼女らのとった道はこうであったということです。

まぁ、受け入れるということは憎しみすら受け入れることなのですが。

その辺のところは突っ込まないでね・・・(汗)。

ではでは。