funyday

 「おい。羽柴っ。羽柴ったら」

後ろから鈴木が走ってくる。

「なんだ? 騒々しいな。また抗議さぼったのか? どの抗議だ?」

当麻はぜいぜいと息を切らしている友人を見て淡々と答える。

当麻の大学生活で妙になつかれてしまった人物がいた。この鈴木である。

孤立気味だった当麻につきまとっていつのまにか友人となっていた。

当麻はこの四年間、珍しくも孤立せずにすんだ。この男のおかげだろう。

当麻も別段来る者拒まずというスタイルを通していたから当麻の講義ノートを目当てにいろいろな学生が周りに集まった。その中で鈴木は講義ノート以外のつき合いを求めて当麻をあちらこちらへと振り回してくれた張本人である。どこか遼と秀をたして二で割った男のようで当麻も突き放すのがなんとなく嫌でこのままずるずると一緒にいた。

「何度も呼んだんだぞ。お前、耳悪いだろう?」

まだ息を切らしている鈴木をみて当麻が微笑う。

「んにゃ。単に聞こえなかっただけ。お前、この年でぜいぜいいうなよ。年寄りみたいだぞ。それで何のようだ? コンパになら行かないからな」

コンパに行ってひどく亜由美がむくれたことがあった以来、当麻は合コンと名の付く物は避けていた。

「ちゃうちゃう。お前、結婚するって本当か?」

「え?、ああ。どっからその噂流れてきたんだ? やっぱり同志社か?」

つい先頃亜由美のキャンパスでお寿司デートを目撃されて二人の仲がばれて数ヶ月。この間亜由美が根ほり葉ほり聞かれたと嘆いていた。

「いや。そこら辺の女の子達がぎゃーぎゃー騒いでいたから。気になって聞いただけ。ってお前、そんな若さで結婚するのか? 本当に? 俺はお前は女には興味ないと今日まで本気で思っていたのに・・・」

しくしくと嘘泣きを鈴木はする。当麻はこの軽さについつい笑いを誘われるのだ。

「余所の女には興味ない。あいつ以外は相手にしないことにしているから」

ひょうひょうと当麻が述べる。

当麻と鈴木が立ち話をしているとちょっとという大声が廊下に響いた。

「相変わらず、お元気ですね。沢木女史」

当麻はにこやかに返事を返す。

「結婚するって本当なの? 相手は誰? このあたしが言い寄ってもまったくなびかなかったくせに。相手はどんな子なのよっ」

今にも頭から湯気が立ち上りそうな沢木の様子に当麻はくすりと笑う。

「沢木女史のことだから、すでに調査済なんでしょう? 女史とは違って普通の可愛い子ですよ」

またもにこやかに答えてそれから告げる。

「だからといってあいつに指一本触れたら承知しませんから」

当麻の厳しい声に沢木も鈴木もあっけにとられる。

沢木が前髪に手をやってわかったわよ、と呟く。

「手は出さないからどういう事か説明してちょうだい。このあたしが降られるなんてよほどのことなんだから」

自信過剰な沢木の言葉に当麻は苦笑する。

「別に降ったわけではないですよ。女史の誘惑の手に乗らなかっただけなんですがね」

「屁理屈はどうでもいいのよっ。事の顛末を聞くまではあたしはあきらめませんからねっ」

「とは言われてもあいつに口止めされてますから」

当麻が苦笑いして言うと沢木はあっさりと了承する。

鈴木と沢木の豹変ぶりに顔を見合わせると沢木は言い放った。

「その子の了承を取ったらいいのね。待ってなさい。あなたの首をとってあげるから」

上機嫌で沢木は言って立ち去った。

「おい・・・。いいのかよ。あの沢木さんが本気出したら恐ろしいことになるぞ?」

「まぁ、本気で手は出さないだろう。釘指して置いたから。あの人は過激だけど本来は素直な人だ」

当麻の分析に初めはぽかんとしていた鈴木だったがすぐに顔を戻して当麻に言う。

「あ、昔の講義ノート貸してくれや。落っこちそうなんだ」

はいはい、と笑って当麻は答える。

「あとで部屋にとりに帰るから一緒に来るか?」

「いいのか? お前、この四年間男さえ上げなかった家に上げても良いのか?」

「お前の口が堅かったら上げてやっても良かったんだ。どうせばれてるんなら仕方ない。夕飯でも食って行け」

その当麻の言葉に鈴木がわーいと喜び、軽い奴だと当麻は笑った。

 

「あゆー。帰ったぞ」

当麻は部屋のドアを開けると声をかける。

中から亜由美が声をかける。

「おっかえりー♪」

すたすたと当麻は玄関から台所に進む。

「今日はだちを連れてきた。お前のこともうばれたらしいぞ」

抱き寄せてちゅっとつむじにキスをしながら報告する。

げっ、と下品な声を出して亜由美が驚く。

「うそーっ。こっちで話したのってちょっと前じゃない。・・・って当麻お客さんの前でくっつかないの」

亜由美は当麻の腕の中からするりと抜け出て当麻がちぇっとすねる。

「お前

「料理二人分しかないから。私は帰るから二人で食べれば?」

文句を言おうとした当麻の先を制して亜由美が言う。

「当麻がお友達招くのって始めてじゃない? 今日はお祝いでもしてたら?」

「なんでやろーと祝ってなきゃいけないんだ」

「あのう・・・」

すでに忘れ去られている鈴木が声をかける。

「あ、どうもこんにちは。当麻がお世話になってます」

亜由美は律儀にぺこりと頭を下げる。と、つけていたエプロンをはずして当麻に押しつける。

「じゃ、私、今日は帰るから。あ、洗濯物乾いてないみたいだから部屋の中で干してあるからね。じゃぁ、私はこの辺で失礼しまーす」

亜由美はてきぱきと動くと帰り支度を始める。

「それよりも、お前。変な人に会わなかったか?」

「変な人?」

亜由美の瞳が警戒モードになる。

「いや。一般人だ。うちの大学の沢木という女性がお前の前に来るかもしれん。

今日、いろいろ騒いでいたから」

なぁーんだ、と亜由美の瞳から警戒モードが解かれる。

「妨害のひとつやふたつこなしてみせるから安心して」

亜由美はにっこり微笑むと玄関に急ぐ。

「じゃ、当麻後よろしくね」

「帰り道気をつけろよ」

「はいはい」

玄関で名残惜しそうに当麻は亜由美を見送り、後ろの鈴木を振り帰った。

「あれが俺の嫁さんだ」

至極普通に新婚家庭を見せつけられたようで鈴木はあっけにとられていた。

「一体、お前らいつからつきあってるんだ?」

鈴木の質問に当麻はただ苦笑いするだけだった。

 

そろそろ秋もまっただなかの山の上で亜由美は美人に出会った。

「あなたが河瀬さんね」

美人はそう言うと亜由美の顔をじっと見つめる。

「あ、あぁ。沢木さん・・・でしたか。当麻から話は聞いています。妨害ですか?」

にっこり笑って亜由美が答えて沢木はたじろぐ。

「どんなに迫っても落ちなかった羽柴君の相手がどんな子なのか見に来たのよ」

「当麻に迫り続けた女性ってあなたでしたか。ご苦労様です。当麻は頑固だから風ひとつなびかなかったでしょう?」

亜由美はそう言って苦笑いする。

「そうよっ。この美人で頭のいいあたしが迫りに迫っても彼は全く落ちなかったのよっ。それがなんであなたのよーな、普通の子に落とせるわけ?」

すみません、と亜由美は申し訳なさそうに謝る。

「別に大学時代におとしたわけじゃないんで。それに当麻は美人免疫はしっかりあるので・・・」

「あーぁ。もう中身が見えない話ね。あなた今度時間あいてる?」

ええ、と亜由美がいぶかしげに答える。

「ちょうどいいわ。今度は羽柴君の誕生日だし、その際にみんなの目の前で事の顛末を話してもらうわ。当然研究室の場所は知ってるわね? そこに来てちょうだい」

「わかりましたけれど、朝かお昼で良いですよね? その日は夕方から少し用事があるんです」

「いいわよ。お昼頃に来てくれたらいいわ。少なくとも研究室の女子学生はあなたと羽柴君のいきさつを知る権利は在るんですからね」

沢木の言葉に引っかかりを覚えて亜由美は首を傾げる。

「研究室に羽柴君のファンクラブがあったのしらないの? もっともあたしはばかばかしくて入っていないけれどね」

「やっぱりあったんですか」

亜由美が苦笑する。

今度は沢木が不思議そうな顔をする。

「当麻は中、高、とファンクラブがあったんですよ。やっぱり大学にもありましたかー。人気者なんですよねぇ。本人の意思に関わらず。当麻も大変だ。っと。これから当麻の家の用事をしにいかないとけないのでこの辺で失礼します」

ぺこりと亜由美は頭を下げるともうダッシュで山を下り始めた。

その後ろ姿を見て沢木がため息をつく。

「あんな子のどこがよかったのかしら?」

沢木のつぶやきは秋風に消されていった。

 

1010日。沢木に呼び出されたその日、亜由美は今までで一番努力した恰好をして研究室へ向かっていた。当麻も一緒に側にいる。

「なんだって、よりによってこんな日に呼び出されるんだ?」

ぶつぶつ文句を言いながらも着飾って一段をかわいさを増した亜由美に視線をやる。

「知らないよ。沢木さんがどうしてもっていう感じだったんだもの。過激そうな人だったからお誘いに乗っておいたの。まさかケンカしに行くわけじゃないんだからいいでしょう? この際、当麻にも地獄の事情聴衆を味わって欲しいものだわね」

げっ、と今度は当麻が下品な声を出す。

「俺は話さないぞ。お前が話せよ」

「さぁ、どっちが話すことになるかしらねぇ」

亜由美は面白そうに言って当麻は額に手をやる。

「お前、俺をいじめるためだけに誘いに乗ったな」

「ピンポーン。正解」

「嫌みな奴」

当麻はそういって顔をしかめると研究室のドアを開けた。

休日だというのにずらりと研究室のメンバーがそろっている。

「やぁやぁ。お二人さん、ようこそ」

軽い鈴木が二人に席を勧める。

「あ、これ、大した物じゃないですけれどもケーキを買ってきました。みなさんで食べて下さい」

亜由美がでっかい箱を差し出す。

「あ、これはどうもどうも」

鈴木がいかにも軽そうにケーキの箱を受け取る。

「何でまたケーキなんて買って来るんだ」

小声で当麻が亜由美に文句を言う。

「だって当麻のお誕生日だからケーキはいるかなぁと思って」

悪びれた様子もなく亜由美が答える。

二人の前にお茶が出される。

「で、沢木さん、手短にお願いしますよ。こいつまで呼び出してなにするんですか?」

いらいらとした当麻が言って亜由美が眉をひそめる。

「当麻、けんか売りに来たわけじゃないって言ってるでしょう? 怒らないの」

「別にあなた達の事の顛末をしっかり聞かせていただくだけよ」

にっこりと沢木が答える。

「この人のにっこりは質が悪いんだぞ。どうするんだ」

「それは当麻にお任せする」

「おひっ」

「あー、大変仲のよろしいお二人ですが、始めての出会いは?」

ノートをマイクに見立てた鈴木が質問を出す。

「だーっ。なんでお前までそっち側なんだ。家に上げてやった恩を忘れやがってっ」

明らかに動揺している当麻を見て亜由美が小さく笑う。

「俺も聞きたいもーん。今日は先日より綺麗なお洋服ですが、それは羽柴の懐から出たんですか?」

「いえ。家のです。みなさんにお会いするのにいつもの恰好では当麻が可哀想ですから」

くすくす亜由美は笑い続けながら答える。

「その鈴木さんこそ。その軽いテンションはいつもなんですか? 当麻が突き放せなかったのが手に取るように分かります」

亜由美に言われて鈴木が照れる。

「おい。あゆに取り入ろうなんざ、10年早いぞっ。俺を当麻と呼ばせるのに一年かかったんだからなっ」

当麻が声を上げてあっと手で口を押さえる。

「ふむふむ。してその時のことはいかにしてそーなったんだ?」

鈴木の目が獲物を捕まえたかのように輝いている。

「口は災いの元ですわねー」

亜由美は素知らぬふりをして言う。一斉にその場がどっと笑いに包まれる。

「いやぁ。羽柴君でも焦ったり困ったりすることがあるんだねぇ」

教授がのんびりと言って当麻はがくっと肩を落とした。

「あーっ。もう何でも答えてやるから質問はとっととしろ。一人一問に限り受け付けるからなっ」

当麻が叫ぶと同時に一斉に学生の口が開く。

地獄だ・・・。当麻は話し好きな学生の業を思い知ったのだった。

 

「はぁー。疲れた。もうあんなのは金輪際嫌だぞ」

不機嫌そうに当麻が文句を言う。

「少しは私の苦労がわかった? だから内緒にしてたんじゃない。当麻って昔から鈍感なんだから。自分がどんだけ有名人か自覚してよね」

亜由美が言って当麻はちぇっとすねる。

「でもま、らしい恰好しているお前を見れたのは得したな」

当麻が言って亜由美が頬を真っ赤に染める。

「仕方ないでしょう? 沢木さんって超美人なんだもの。いつもの恰好だったらかすんじゃうもの。この恰好になるまで本当に大変だったんだから。おしゃれなんてするもんじゃないものね」

ため息混じりで言われて当麻が苦笑する。

「中身は少女趣味なくせに外面は男に変身したからなぁ。お前」

「しかたないでしょー。学校が山の上なんだから」

はいはいと当麻は答えて部屋のドアノブを廻した。

開けると同時にクラッカーの音が鳴り響く。

「いったい何なんだ?」

「お帰り。当麻兄ちゃん。誕生日おめでとー」

純に出迎えられて当麻が目を丸くする。

玄関にひしめき合っている靴をみて当麻がばたばたと部屋に走り出す。

「おまえらー。人の家で何してるんだーっ」

部屋にはメンバー一同そろっていた。

「お前の誕生日祝いだ」

征士が淡々と答える。

「とうまくーん。遅かったじゃない。一体二人でどこにいっていたのかしら?」

「お、お袋まで・・・」

絶句する当麻に亜由美が声をかける。

「せっかくの独身最後の誕生日なんだもの。皆に会いたかったでしょう? 私の今年のプレゼントよ」

「お前、計ったなぁー」

別に、と答える亜由美を疑惑のまなざしで見据える。

「沢木さんがちょうど用事あるって言ってたし、ちょうどグッドタイミングだっんだよね。本当はどうやって当麻を家から引き離そうか考えていたところだったから。ほら、久しぶりに皆に会ったんだから楽しんだら?」

まったく、と当麻が言って皆の方に向く。

「悪かったな。遠路はるばると。皆に会えてよかった」

当麻が嬉しそうに微笑んで皆嬉しそうに微笑む。

「僕も当麻達に会えて嬉しいよ」

伸が答える。

「なぁ。久しぶりの挨拶は後にして早く飯にしよーぜ」

秀が我慢できずに言うと当麻が笑い出す。

「お前、相変わらずだな。その性格で嫁さん困らせているだろう?」

「当麻程じゃねー」

秀が真っ赤になって答える。

「俺がつくったわけじゃないが、遠慮せず食え。俺も腹が減った」

当麻の許可が出て秀が一気に料理にぱくつく。

お腹をすかせた彼らは女性陣の驚きを余所に猛烈なスピードで料理を平らげ始めた。

料理もあらかた食べ終わってほとんど思い出話に花を咲かせている頃、亜由美はあくびをかみ殺した。

今日一日がとても長かった。でも計画が上手くいってよかった。

家族と親友達に誕生日を祝ってもらう事が当麻にはとても重要だとわかっていたから。がんばっている当麻に誕生日ぐらい楽しい日を過ごして欲しかったから。

「お前、眠いだろう? 今日は大活躍だったみたいだからな。隣の部屋で寝てこい」

良いの?亜由美は目で問いかける。

「ああ。研究室の女ボスとやり合った後だからな。さすがに疲れているだろう?

10時になる頃に起こしてやるから」

「ありがと」

背伸びしてそっと頬にキスをすると亜由美は隣のベッドルームへと向かった。

数分してから母親に様子を見てもらうように頼む。

「どうせ、ばたんきゅーだろうから布団でも掛けにいってやってくれないか?」

当麻が珍しく頼むと母親は喜んで隣の部屋に飛んでいった。

「当麻が行ってやったらよかったのによ」

秀がにやにやと笑いながら指摘する。

「せっかく、あゆがお膳立てしてくれたからな。今日一日はお前達につきあってやるよ」

 

夜もたけなわ。爆睡している亜由美を起こしに迦遊羅が向かったが、亜由美は一向に起きない。

しかたないなぁと当麻は呟くと早速起こしにかかる。

「あゆ。もうすぐ10時だ。門限だぞ」

そう言って揺さぶる。

「もうちょっとぉー・・・」

むにゃむにゃいって寝返りを打とうとしている亜由美の耳元でささやく。

「起きないとおんぶして連れて帰るぞ」

その言葉にがばりと亜由美が起きあがる。

「だめっ。そんなこっぱずかしいことしないでよっ」

「起きたな。おはよう。そろそろ帰宅時間だ」

ええーと文句を言う亜由美の頬に当麻は軽くキスをする。

「今夜はかゆとナスティが一緒に帰ってくれるそうだ。ついていけないが良いな?」

うん、と答えて亜由美は顔を真っ赤にした。

「あなたたちーっ。何のぞき見してるのよーっ」

部屋には鈴なりのメンバー一同がにやにやしながら亜由美と当麻のやりとりを見ていた。

「いやぁ。相変わらず新婚さん並みの熱さだねぇー」

伸がからかうように言って亜由美はベッドから飛び降りる。

「あなたたちはとーまとどんちゃんしてればいいじゃないのーっ。かゆっ。ナスティっ。帰るわよっ」

ばたばたと派手な音がして迦遊羅の声が聞こえたかと思うと玄関が閉まる音がする。

「相変わらずだなぁ」

遼が微笑ましそうに見送る。

「女性達もいなくなったことだし、今夜は飲み明かすぞ。今日はお前を酔いつぶしてやる」

珍しく征士が宣言して当麻がにやりと笑う。

「よし。お前らを返り討ちにしてやる」

 

翌日夕方になって亜由美達はまた当麻の家に訪れた。

一応講義のある日なので朝っぱらから出向くわけには行かない。

代わりにナスティと迦遊羅と京都観光をして楽しんでから部屋に来たのだった。

部屋に入るなり、亜由美達はこっそり笑いをかみ殺す。

「おーぉ。皆酔いつぶれちゃって。一体何時まで飲み明かしていたのやら」

亜由美の声に気づいて当麻が目を覚ます。

「今、何時だ?」

「四時」

「腹減った・・・」

まだ寝ぼけている当麻の頭をこつんをたたく。

「今から買い物してくるからもうちょっと待ってて。ナスティを残して行くから一緒に部屋を片づけるように。お酒の空ビンばっかりじゃないの。一体いつまでのんでいたのよ」

「さぁ? 覚えとらん。最後に残ったのは誰だったか・・・」

「ま、当麻が一番につぶされたのは明白だわね。でなきゃ一番に起きない物」

おかしそうにころころ亜由美が笑う。

「あれはせーじが悪いんだ。せーじが。俺ばっかり攻撃しやがって・・・」

ぶつぶつ文句を言う当麻の唇に亜由美がすっとキスをする。

「皆の好意なんだからありがたくうけとるのね。じゃぁ、買い物行ってくるから」

そう言って亜由美は迦遊羅と一緒にでていく。

しばらくぼへーっとしていた当麻だったがナスティがいることを思いだして居住まいを正す。

「悪い。寝ぼけてた。片づけ手伝ってもらえるか?」

ようやく正気になった当麻を見てナスティも笑う。

「ええ。いいわよ。まずはゴミ袋がいるわね。他の皆も起こさないと掃除機がかけられないわ」

「だな。おい。やろーども起きろよー。掃除するぞー」

当麻が皆を乱暴な手つきで起こし始める。

それをほほえましく見守りながらナスティは部屋の掃除に専念し始めた。

 

片づけがなんとか形になりはじめたころに亜由美と迦遊羅は帰ってきた。

大量の荷物に当麻が声をかける。

「久しぶりだな。そんな大量の買い物は」

「懐かしいでしょ? 小田原の頃が」

亜由美も言って微笑む。

「今日は簡単にパスタあたりでもつくるわね。ナスティー。手が空いてたらこっち手伝ってー」

亜由美の声に答えてナスティが来る。

「じゃ、当麻達は部屋の片づけ続行しててよね。御飯できたら呼ぶから」

「わーった」

そう言って当麻が部屋に戻る。

久しぶりにメンバーがそろって何かをしているのが嬉しくて亜由美は鼻歌を歌いながら食事の準備をする。

「楽しい時間を過ごせたようで良かったわ」

亜由美が言うとナスティもええ、と頷く。

「それにあゆと一緒に料理ができるのも嬉しいわ。お料理上手になったのね」

亜由美の手つきを見ながらナスティが言う。

「まだまだナスティ達には及ばないわよ。もっとがんばってナスティ達に追いつかないと」

言っている亜由美の頬が照れたように染まる。

「いい奥さんになれるわよ」

「だといいけれど・・・」

「姉様は間違いなくいい妻になれると思いますわ。大学に入ってからと言うものここにせっせと通って腕を磨いていたみたいですものね。家でもその腕前を披露なさったらよいのに」

「やぁよ。家族の前でやったら文句ばっかり言われるのが落ちだもん。家ぐらいゆっくりさせてよ」

「本当に姉様はものぐさなんですから」

迦遊羅が笑って亜由美が頬を膨らませる。

「ものぐさですよ。どーせ。私は美人でも優秀でもないからこれが精一杯なんだからね」

文句を言いつつも手はしゃかしゃか動き続ける。

「いい家庭を作ってね」

ナスティの優しい言葉に亜由美はほんの少し涙ぐんで微笑んだ。

 

ん?と当麻が不思議そうな顔をした。

えっっと亜由美が身じろぐ。

「美味しくない?」

いや、ともごもご口を動かして当麻が答える。

「いつもの味と違うなーと」

「今日はナスティに秘伝の味を教えてもらったの」

嬉しそうに亜由美が答える。

「やっぱりナスティのお料理は美味しいわー。ナスティの家の子になりたい」

亜由美が本当になりたそうにいって皆笑う。

「いいじゃないー。こんな優しいお母さんがいたらこの上ない喜びよ」

「馬鹿あゆ。ナスティは征士の嫁さん。お前が養子にいってどうする。二人の邪魔をしたら征士にたたっきられるぞ」

「それは困るかも」

困ったように亜由美が言ってまた皆笑う。

ネタにされているナスティと征士は二人して顔を真っ赤にしている。

「あー。せーじとナスティー照れてるー。かわいいー」

亜由美が面白そうに言って二人はいよいよもって恥ずかしそうにする。

「今更恥ずかしいも何もないだろう? で、いつ結婚するんだ?」

当麻のつっこみに征士が馬鹿者、と答える。

「私たちはまだ婚約もしてないのだ。いきなりお前達みたいに結婚できるか」

「だったらぁ。ここで婚約したら?」

伸が言う。

「そりゃ、良い案だ。いっそ今日は婚約パーティにしよーぜ」

秀が言って征士は怒鳴ろうとして口を開いてからまた口を閉じる。

「なんだよー。言いたいことあったら言えよぉ」

いや、と征士がどもる。

「ここで否定したらナスティが可哀想だもんね」

亜由美が助け船を出してやる。

「お前。征士に同情するなよ。この際、征士とナスティが完全にくっつくのを見て置いたって良いだろうに」

「そりゃそうだけどー。指輪とかないじゃない。征士だってプロポーズの時を考えているに違いないんだから。家みたいになし崩しに結婚に至るケースの方が可哀想なんだからねー。いいのよ。征士もナスティも二人っきりでロマンティックに婚約してね。で、後でその話し聞かせて♪」

「姉様。結局、話は聞きたいんですね」

迦遊羅が呆れたように言う。

「あったりまえじゃない。私なんてロマンティックからほどとーい所に住んでるんだから夢見るぐらい良いじゃないー」

「それじゃ、当麻はあゆに何て言ったんだい?」

伸の質問に亜由美が焦る。

「えっとーそのー」

真っ赤になる亜由美の顔を皆にやにやしながら見つめる。

「いいじゃないの。私と当麻の事なんてー」

「よくない」

秀がよりいっそうにやけて言う。

「だから・・・」

亜由美は口ごもる。

「結婚しようって言われた」

「結婚しようと言っただけ」

二人同時にハモって答える。

「それだけ?」

遼が尋ねる。

それだけ、と当麻が答える。

「姉様可哀想に・・・」

迦遊羅が同情の念を示す。

「可哀想ってなんだよー。これでも三回プロポーズしたんだ。こんだけしたら十分だろう?」

当麻がすねたように言う。

皆は三回という言葉に絶句する。

「お兄ちゃん、三回も同じ事言ったの?」

純がとんでもない人間だと言わんばかりに尋ねる。

「具体的にしたのは今年の一回こっきりだ。だーっ。俺達の事を詮索するより秀はどうなんだよ。秀は。それに遼も征士もまだなんだろう? いかにプロポーズが難しいか知らないやつにいわれたかない」

「いや、俺達は・・・」

今度は真っ赤になって遼がどもる。

「おまけに親父さんに頭下げに行くときなんざどんなに緊張したか。お前らもその苦労を考えとけよ」

「そんなに大変なのか?」

不安そうに遼が尋ねる。

ちょっとぉ、と亜由美が当麻にくぎを差す。

「遼をびびらせるのはやめなさいよ。かゆが可哀想でしょう? 遼ぐらい出来てる人だったらうちのおとーさん一発オッケーに決まってるじゃない。当麻と私は学生結婚だから大変だったんでしょー」

「だったらお前、日本に残るか?」

「やだ」

「だったらしょうがないじゃないか。時間が差し迫っていたんだから文句を言うな」

「ひどっ」

亜由美がまた頬を膨らます。

「あーぁ。結局当麻とあゆのあつーい話に終わっちゃうわけだね。折角征士のプロポーズが見られると思ったのにぃ」

伸が不服そうに言って笑いを誘う。

「お前は人のこと考える前に自分の相手見つけろよ」

苦笑いして当麻が言う。

「あ、僕に話を降らないでくれよ。僕は愛だ恋だとうかれるよりは研究の方が大事だね」

「仕事が恋人てーのもわびしやつ」

「ひどいなぁ。秀。これでも僕ももてるんだからね」

わいわいと騒がしくいつものような痴話喧嘩が始まる。

その話の間にもいろんな話がまぜこぜになっていったい何の話だったのか分からなくなる。

が、これがいつもの自分たちの会話。

「ありがとな。あゆ」

当麻は隣の亜由美の耳元にささやく。

「いままでで一番楽しい誕生日だった」

そう言って頬にキスしようとして純に指摘される。

「お前らー。いいかげん、明日には帰れよーっ。俺達の仲を邪魔するなーっ」

当麻が叫んでその場は笑いに包まれた。

 

一週間ほどしつこく残っていた遼と征士が帰ってようやく静かになった当麻の部屋で当麻と亜由美はのんびりすごしていた。

「もうあいつらを家には呼ばんからなーっ」

宣言する当麻に亜由美は微笑む。

「一番楽しい誕生日だったんじゃないの?」

「それもたまの話だ。やろーがいつまでも居座ってくれたおかげであゆにキス一つ出来なかったんだぞ」

「いいじゃない。これから二人の時間はたくさんあるんだから」

亜由美が嬉しそうに笑って当麻もつられて笑う。

「だな。これからは二人っきりの婚約時代を大いに楽しもう」

そう言って当麻は亜由美を抱き寄せるとさっそくキスを始めた。

「当麻のキス魔」

「なんとでもいってくれ」

騒がしい日々がまた一つ去ろうとしていた。