続・赤ちゃん狂想曲 四番目の天使のプレゼント

その日、久々に当麻と亜由美は二人一緒に朝から自宅にいた。

当麻が一人息子、龍星を相手に広告竹刀で遊んでやっていた。

亜由美は綺羅と数学パズルをいっしょにやらされて頭を抱えている。

「おかぁちゃま、ここはこの数字が入ります。だから、ここは何が入るかわかりますか?」

八月で五才になる娘に指導されながら亜由美が必死で頭を回転させる。

講義する当麻と恐ろしく似た口調で指導する姿からも髣髴させる辺りから綺羅は当麻J.Rの異名を取る。

綺羅は幼いまでも当麻の公開講義にちゃっかりと出席していた。今ではゼミまで顔を出す始末。

将来が空恐ろしいと亜由美はいつも思う。

一方の千夏はこちらも相変わらず才能を発揮している。

亜由美が独自ルートで手に入れた古文書を今ではすらすら読み、亜由美の読み間違いを指摘するまでになった。

今では週一回ナスティとメールのやり取りをしながら古文書研究にいそしんでいる。

千夏の存在を思い出した亜由美はタイム、と言って立ち上がると自分達の寝室に向かった。

さっきまで大人しくいっしょにパズルに興じていたはずなのに目を離すともういない。

いるとすれば、間違いなく自分たちの寝室。

千夏はこの部屋を発掘するのが大好きなのだ。

「千夏。いるわね」

もはやここにしかいないという確信を持って亜由美がドアを開ける。

亜由美の姿を認めた千夏がぱたぱた寄ってくる。

手には画用紙を持っている。

「お絵描きなら自分のお部屋でしなさいね」

そう言って亜由美は画用紙を受け取る。そこには人物が描かれている。

しかし、綺羅とまでは行かないまでも十分利発な千夏には似合わないような幼稚な絵に亜由美が首をかしげる。

「ちーちゃんじゃないよ。おとうちゃまの絵だもん」

おとうちゃまの?、と亜由美は尋ねる。

うん、と千夏は頷く。

「いっぱい、絵があるよ」

亜由美の手をひいて千夏が部屋へ招き入れる。

そこには何枚かの画用紙が散らばっていた。当麻の秘密のケースから探し出した様だ。

どれも幼稚な絵。どうも夫の絵だとは信じがたいし、大体当麻がそんな昔のものを持っているとは思いがたい。

亜由美はそれを手に取ると千夏の手をひいて階下に降りる。

リビングルームにいる当麻に絵を見せる。

「それお前の」

当麻は簡単に答える。

はぁ?、と子供達の前にもかかわらずぞんざな口調で亜由美が聞き返した。

だから、と当麻は再び言う。

「あゆの描いた絵。この家でそんな画才を発揮するのはお前ぐらいだろう?」

「って私、こんな絵描いた覚えないけど?」

まったく身に覚えのない亜由美が問う。

「当たり前だ。それはお前がかれこれ二十数年前に描いたものだ。忘れっぽいお前が覚えているわけない」

ええーっ、と亜由美は驚きの声を上げる。

「一体、いつどこでこの絵を調達したの?」

実家にそんなものが眠っていたとは思いがたい。

万が一残っていたとしてもどうしてそれが当麻の手にあるのかわからない。

「大阪が結婚する前に送ってきた。俺とお前がはじめて会った記念だから持っていたらいいと言われた」

「大阪の?」

亜由美がまた尋ねる。

大阪、と言うのは当麻の大叔父に当る家でかなり大きい。現在当主は息子が継いでいる。

亜由美はその家と遠い親戚に当る。

なんでまたこんな絵おいていたのか・・・、亜由美はそう呟いて絵を見る。

よく見るとどうも当麻の姿らしい。特徴のある前髪がそれを語っている。

が、自分で言うのも嫌だが恐ろしく下手な絵だ。

情けなくてため息が出る。

「蔵の中に残っていたらしい。蔵の中を掃除したときに見つかって俺とお前が婚約したのを聞いて記念に残していたらしい」

当麻が事情を説明してやる。

「どうして持っているの黙っていたの?」

不機嫌そうに亜由美が聞く。

「見せたら今の通りの反応しか返ってこないとわかっていたから。お前、見たらとっとと処分するだろうが」

当たり前だ。誰がこんな恥の記念物を持っていたいと思うか。

亜由美はため息を連発しながら絵を見る。

どれも同じ人物画。ひたすら当麻をモデルにしていたらしい。

一枚だけ違う絵があった。

「これは?」

亜由美が当麻に尋ねる。

「ああ、それは俺もわからない。どういうわけかやたら人数多いしな。大阪の家の家族の絵じゃないかと思うんだが・・・」

当麻が推測する。

「でも、これたぶん当麻だよ」

他の絵と酷似した人物を指す。

亜由美は当麻のことをまだ名で呼ぶ。

当麻も亜由美に呼びかけるときは名を呼ぶ。

子供が出来ておとうちゃま、おかぁちゃまと言うようになってもそれは変わらなかった。

お互いは夫であり、妻であってそれぞれの親ではないからだ。

もちろん、子供達には名で呼ぶことは許していない。

「じゃぁ、隣にいる女の子は誰なんだ?」

おかぁちゃま、と絵を覗きこんでいた双子がはもって答える。

「おとうちゃまの隣はおかぁちゃま」

ねー、と双子が顔を見合わせて言う。

まさか・・・、と亜由美は呟く。

回りに女の子らしき小さな顔が二つ。それから男の子らしい顔が二つ。

女の子の顔は今の双子の顔に似ている。男の子の顔の一つは龍星に似ている。

「これって家族の絵?」

信じがたい声で言って当麻の顔を見る。

「だろうな」

指摘された当麻もまじまじと観察して同じ結論に達したようだ。

「たまたま、よね?」

亜由美が呆然と呟く。

きっと自分は理想の家族を描いていたのだろう。

こうなってほしいと思う姿を。

いや、と当麻が否定する。

「お前の場合、思い描いたというより予知して描いたというのが真実性が高い」

その結論に亜由美は乾いた笑いしか出ない。

幼児の力あなどるべからず、常日頃子育ての中で実感することをわが身の所業で思い知る羽目になるとは思わなかった。

「一人多いよ?」

数にうるさい綺羅が指摘する。

「赤ちゃん!」

千夏がうれしそうに声を上げる。

えっ、と当麻と亜由美は千夏を見る。

「弟なの。ちーちゃん。夢見たもん。おかぁちゃま赤ちゃん抱っこしていた」

「りゅうじゃないのか?」

当麻が恐る恐る尋ねる。

うん、と千夏が答える。

「りゅーはいたもん。きーちゃんとちーちゃんりゅーとおとうちゃまと皆で赤ちゃんを見てるのよ」

うれしそうに千夏が答える。

その答えに当麻は顔色を変えると龍星を亜由美に預けてすっとんでいく。

とんでもないスピードで戻ってくると妊娠検査薬を持ってくる。

「今すぐ調べろっ」

ものすごい勢いの当麻に亜由美がぽかんと口をあける。

「千夏の予知能力を忘れたのか?」

「ってちゃんと避妊してるじゃない?」

普通子供の前でする会話ではないが、羽柴家では別に隠し事することでもないのでしっかりそういうことも子供達の前で話される。

当麻は結婚記念日、と言う。

「身に覚えがないとは言わせないぞ」

「覚えてない」

亜由美が苦笑いする。

帰国してのはじめての結婚記念日に当麻と亜由美は二人きりで一流ホテルに泊まった。

そこで亜由美は調子に乗ってアルコールを楽しんだのだが、ある時点から記憶がない。

翌日激しい二日酔いに見まわれたことはしっかり覚えていたが。

これは新婚旅行もしていないという二人のために皆がとりはからってくれた事だった。

子供達は今や二世帯住居で同居中の当麻の両親が預かった。

綺羅と千夏が生まれた時、当麻の両親は初孫の顔を見にイギリスの家に来た。

が、目的はもうひとつあったのだ。

それは離婚していた二人の復縁を報告し、結婚式を取り計らってもらおうと当麻の母がちゃっかりと仕組んだのだ。

どうも仲むつまじい当麻と亜由美を見ていて夫婦もなかなかいいものだと思うようになったらしい。

それから当麻の母は当麻達が完全帰国を果たしたら同居しようと言い出したのだ。

当麻は母親がちゃっかりと亜由美に家事を押し付ける気なのを察して強硬に反対したが、逆に亜由美が同居したいと言い出した。

「私、おばぁちゃんと一緒に暮らせなくて残念だったのよね。今の子はそういう体験が少ないから同居もいいんじゃないの?

それに子供達の面倒も見てくれるって言ってるし」

「あのお袋がどうやって子供の面倒を見るんだ? 仕事とどうやって両立させるって?」

当麻の母は胸を叩いて自信ありげに答えた。

「そろそろ本拠地を日本に移そうかと思ってるのよねー。折角出来た娘と孫と暮らしたいのよー。ゲンイチロウ君も賛成してるわよ」

三対一で採決が押しきられそうになった。

その代わり、と当麻は条件を出した。

「家を建てるといえば許可する。ただし、二世帯住宅。きっちり別れたやつだ。玄関だけ別と言うのはなし。

それから家具電化製品も全部もそろえてもらうぞ」

金にものを言わせて計画の転覆を狙ったが、あっさりと承諾された。

金持ちの両親にとってはたいしたことではなかったらしい。

もうどうにでもしてくれ、と当麻はやけになって許可したのだ。

そんなわけで今は京都で当麻の両親と同居中であった。

もっとも当麻の母は現在不在で東京にいたが、普段は本当に家で子供達の面倒を見ていた。

ジャーナリストと言うのは家にいながらでも多少は出来るらしい。

もっとも単発で海外へ出かけることなどしょっちゅうだったが、その代わりに隣の市に住む亜由美の実家に預けることになっていた。

山梨の遼の元へ嫁いだ迦遊羅も普段遼が取材旅行で留守がちということもあって実家の両親と同居をはじめたのだ。

そんなわけで羽柴家と真田家の大家族群がふたつ京都に出来あがっていた。

「お前に覚えがなくても俺に覚えがあるんだ。いいから調べろ」

当麻が強く命令する。

わかった、と亜由美は苦笑いを浮かべて部屋を後にした。

しばらくして亜由美が戻ってくる。

亜由美はただもう乾いた笑いしか出ない。

結果は陽性。

「病院、行くぞ」

当麻が告げる。

「って、この子達どうするのよ? 病院ならまたの機会に」

「こういうのは早いほうがいいんだ。早いほうが。それに子供達は親父に預ける」

「ってゲンイチロウ君パパ、もうすぐご出勤よ」

亜由美が時計を見ながら言う。

「そんなもんいくらでも休ませる。堂々と孫と遊べるんだ、嫌とは言わせない」

当麻はきっぱり言うと隣の家に通じている電話を取って父親を呼び出す。

事情を聞いた当麻の父親は快く承知した。

当麻は子供達に告げる。

「おとうちゃまはおかぁちゃまを病院に連れていくからおじいちゃまの所に行っていなさい」

病院、と聞いて双子が心配そうな顔をする。

「赤ちゃんが出来ているか調べに行くだけだから心配しなくていい。いい子にしていられるな?」

当麻は優しく言い聞かす。

安心した双子は弟の手をひくと両家が通じているドアへ向かう。

ダイニングルームにひとつだけ通じるドアがあった。

一緒にご飯が食べたいという亜由美の主張によって取り付けられたドアである。

当麻はそれを見届けると恐々と自分を見つめる亜由美の手をひく。

家を出るとミニ・クーパーに乗り込む。

二人のときはこれに乗るのだ。

民族大移動のときは別の車がある。

当麻は亜由美を病院に連れていった。

 

病院検査の結果間違いなく妊娠してると判断された。

おめでとうございます、と言われて亜由美は素直にうれしかったが反面戸惑いもあった。

当麻の顔は依然こわばっていたからだ。

病院の帰り、車の中で亜由美はぽつりと戸惑いを口にした。

「産んでいいのかな?」

「当たり前だろうがっ。命を粗末にする事は俺が許さん」

ありがとう、と亜由美は礼を言う。

「別に俺だってうれしくないわけじゃない。不機嫌なのは自分の能力の高さにあきれているだけだ」

確かに、と亜由美は思う。

「なんでこう上手くできるのかしらね・・・。りゅうの時はあんなに大変だったのに」

しみじみと言う。

「きっとお前のその性格をなんとかするために神様が設定したんだろうな」

当麻が語るのを聞いて亜由美が首をかしげる。

「昔からお前は自分を粗末に扱うからな。これだけ回りに大事なものが増えたら粗末にできんだろうが。

三人で十分だと俺は思っていたが神様はまだ不充分と思われたらしいな」

「もう大丈夫なのになぁ」

亜由美が呟く。

それから命の宿っている自分の下腹部に手を当てる。

「おかぁちゃまはあなたが産まれるのを首を長くして待っているから元気に産まれてきてね」

戸惑ってしまった自分を許して欲しいと心の中で呟く。

「あなたは望まれて産まれてくるんだからね。心配しないでね」

言って下腹部をなでる。

おい、と当麻が言う。

「父親が不在だぞ」

言うと当麻はハンドルから片手をはずして亜由美の手に重ねる。

「おとうちゃまも望んでいるからしっかり育てよ」

言うとまたハンドルを握る。

亜由美はうれしさと幸せで涙ぐみながら当麻の肩に頭を乗せる。

「おい。事故ったらどうするんだ」

当麻が焦る。

亜由美は当麻に愛してる、と呟く。

その告白に当麻も答える。

「俺も愛してる」

 

二人が家に戻ると玄関から双子が飛び出してきた。

後ろから当麻の母親も出てくる。

「いつ戻ったんだ?」

いきなりの登場に当麻が尋ねる。

「今さっきよー。で、どうだったの?」

わくわくした様子で尋ねる。

双子も赤ちゃん赤ちゃんと騒ぐ。

「千夏の予想どんぴしゃり。来年の三月出産予定。性別はまだ不明」

「まぁ、まぁ。ゲンイチロウ君。また孫が増えるわよー」

玄関先で叫ばないで欲しい、と亜由美と当麻は顔を見合す。

「おとうと」

千夏は亜由美のお腹に手を触れさせると言う。

だったら、と亜由美は言う。

「名前しんやにしよう」

「しんや?」

当麻がわらわら現われた家族を家の中に戻しながら尋ねる。

うん、と亜由美は答える。

「龍星が剣の才能を発揮したときに次は弓使いがいいなーなんてぼんやり思っていたのよね。

それで名前を真の矢って書いて男の子ならしんや、女の子ならまやにしようと思っていたのよね」

「いきなり子供の将来決め付けるなよ」

当麻が苦笑いをする。

「決め付けるわけじゃないけど、弓に関した名前があってもいいかなーって思っただけ」

「どうせなら終にしたいな」

当麻が一人ごちる。

「それって露骨でかわいそうだって。いかにもこれで最後にしたいっていう意味じゃない」

「思っても不思議じゃないだろう? これで一家六人を背負わなきゃ行けないんだぞ。これ以上は責任もてん」

当麻が答える。

「半分こしたらまだ三人づつだよ」

亜由美が平然と言ってのける。

「お前の展望は明るいな」

当麻は言うと戻った部屋のコードレス電話をとって亜由美に放り投げる。

何?と亜由美が尋ねる。

「今実家にかけてもかゆぐらいしかいないよ?」

そうじゃない、と当麻が答える。

「安定期に入るまで仕事はだめ。休職願い出せ」

ええーっ、と亜由美が言う。

「折角仕事が軌道に乗ってきたのに休めって? それに今してるのは事務だよ?」

亜由美は戻ると内調のメンバーに正式になって関西支部設立に関わっていた。

第一線からはとっくに遠のいている。すっかり中間管理職だ。

「事務であろうがなんだろうが事件にすぐ巻き込まれるのがお前の天性の才能だろう。

仕事場にいたら間違いなく面倒が起きる。この際、休め。でないと俺が休職願い出してお前に張りつくぞ」

「今休んでどうするのよ。新しいプロジェクト始まったばかりじゃないの」

亜由美は当麻が今はじめている研究を指す。

「そんなもん親父にでも任せる。嬉々として責任者を務めてくれるぞ」

二人は今や京大で一緒に教鞭をとっていた。

そして大掛かりな共同研究をはじめたのだ。共同と言ってもどちらかというと当麻主導だ。

それは当麻の父親だって面白くない。研究者のプライドと言うものがある。

他の人間が主導するならまだいいが、息子に上に立たれて面白いわけはない。

それに学生からはしジィなどと呼ばれて面白くないの極地だ。

種子島宇宙センターに単身赴任でもしろ、と事あるごとに当麻に文句を言ってた。

しかたない、と亜由美は電話をする。このままでは冗談でなく当麻が休職するのが目に見えているからだ。

優秀な頭脳を意味無く休ませる気は亜由美には毛頭ない。

申し訳なさそうに亜由美が事情を話す。

短いやり取りの後亜由美が電話を切る。

「どうだ?」

「うん。産休と育児休暇とった。今まで働き通しだったからこの際ゆっくり休んでくださいって」

複雑そうな顔をして亜由美が答える。なんだか仕事場のポジションひどく低いもののような気がしたから。

「おかぁちゃまお仕事休むの?」

綺羅がうれしそうに尋ねる。

そう、と亜由美は肯定する。

「あかちゃんがちゃんと産まれるようにお休みするのよ」

「ずっと?」

「赤ちゃんが産まれて少し大きくなるまでね」

わーいと綺羅が珍しく大きく感情を表して亜由美に抱きつく。

亜由美はその愛娘を抱きしめる。

「ちょうど、よかったかもしれないわね。この子たちに寂しい思いさせてたから」

亜由美が言う。

ああ、と当麻が答える。

「この際、めい一杯かわいがってやれ」

うん、と亜由美はうれしそうに答えて綺羅をあやす。

「やー。ちーちゃんも抱き抱きしてー」

千夏が亜由美の背中にくっつく。

「わかった。順番ね」

亜由美は綺羅を離して当麻に預けると今度は千夏を抱いてあやす。

そうしていると今度は龍星がよちよちと歩いてくる。

亜由美は千夏を離して龍星をあやす。

そこへ当麻の手から逃れてきた双子が強引にくっつく。

「大人気だな」

当麻がそれを見て笑う。

「妬ける?」

亜由美が瞳をきらめかせて問う。

ああ、と当麻は幸せそうに答える。

「俺も抱き抱きしてくれ」

千夏の言葉を使って当麻もくっつく。

「ちょっと。四人もくっつかないでよー」

亜由美が困ったような声を上げる。

あー、いいなーと当麻の母親がそれを見て声を出す。

言うといきなり当麻の母もくっつく。

ちょっとっ、と亜由美が叫ぶ。

「そんなにくっついたらお腹の赤ちゃんつぶれちゃうっ」

しぶしぶ皆が離れると亜由美はめっ、と叱る。

「抱き抱きは一人ずつ順番にしてあげるから一気にくっつかないの」

わかった、とふいに違う方向から答えが帰ってきて亜由美は口をぱくぱくさせた。

当麻の父親の声だった。

それに当麻が断固として拒否する。

「親父には指一本触れさせないからなっ」

「あれがよくてどうして私がだめなんだ?」

当麻の父親が面白そうに問う。

「駄目と言ったら駄目っ。あゆは俺のものなのっ」

当麻が叫ぶ。

「ちょっと、あゆちゃんは私のよー」

当麻の母親が抗議の声を上げる。

「おかぁちゃまは私達のものよ」

双子が言い、龍星もはーいと言う。

亜由美の争奪戦が始まる。

その言い争いに亜由美はこめかみを押さえる。

家族分だけ体が欲しい。

亜由美は下腹部を撫でながら呟く。

「産まれたらこのスーパーウルトラとんでもない家族と渡り合わないと行けないからたくましく育つのよ」

まだ見ぬ四番目の天使に亜由美はそう語り掛けた。

 

孫の出産をようやく目にすることができると喜んた祖父祖母によって当麻の家はあかちゃんグッズであふれかえった。

「これ以上、もの増やさないでー。たぶるでしょーっ。かたづかないでしょーっっ」

亜由美の抗議の声もなんの効果もなかった。

あかちゃんグッズのみならず、他の子供達へのプレゼントも一緒に増えるから四人分のものが増え続けた。

「どうせくれるなら現金がいいのにね・・・。養育費に回せるのに」

現実的な事をお腹の子と話し合う。それからちょぴり思う。自分の分も欲しいな、と。

「私の分も欲しいなぁ」

こっそり言い続けていたらそれを耳ざとく聞きつけた双子によって告げ口されいよいよもって家中はものであふれかえった。

当麻は毎日のごとく花を買ってくるし、子供達は頭をひねり出して亜由美にプレゼントする。

もっともお金というものがないからほとんどは自分達のものをプレゼントするか絵やら粘土で作ったものやらが贈られる。

たまに祖父母にねだって亜由美の好物を買ってもらう。

それに加えて当麻の両親もものを贈ってくる。

物と言う物に囲まれて亜由美はお腹の子と過ごす羽目になった。

「金持ちの家族なんて・・・」

思わずいじけてしまう。

が、心の中はとてつもなく幸せだった。

家族の愛情が嫌と言うほど感じられる。

天使がもたらしてくれたプレゼントに亜由美は大いに感謝した。

「あなたって本当に親孝行ね」

もうかなり大きくなっていたお腹の子は亜由美の言葉に反応して動き回った。

それを亜由美は幸せに包まれながら感じる。

四番目の天使がもたらしてくれたものは亜由美にとって忘れられないプレゼントになった。