続々・赤ちゃん狂想曲 サンタさんがくれた天使前編

 

恒例のクリスマス・イブ。羽柴家の特大テーブルには二つのケーキ。

ひとつは子供達と亜由美が焼いた手作りバースデーケーキ。もうひとつは昔、当麻が亜由美に買ってやると言ったら

毎年買わされる事になったクリスマスケーキ。

バースデーケーキの方に当麻がロウソクをたてて火をつけてやる。

亜由美はいたずらざかりの次男を押さえるので必死だ。一番スイッチに近い当麻の父親が電気を消す。

当麻の母親の先導でハッピーバースデーの歌が歌われる。

バイリンガル家族の英語の歌は恐ろしく発音がいい。

長男はかなり幼い頃に日本に帰国したし、次男に至っては日本で生まれているから英語にはまったく関係ないが、

当麻の母親が時折、英語会話教室を子供達にしてくれるので皆英語が達者になっていた。

ただ、発音は正しいが音程が一人だけずれる。

バースデーごとに笑われる羽目になる人物は当麻だった。

今年こそは歌わない、と新年の抱負で語る当麻だったがいつも子供達にせがまれて結局歌うことになる。

また笑いのうずが起こる。

「いいから。早く火を消せ」

当麻がぶっきらぼうに言う。

今日の主役の龍星がローソクの火を消す。

パチパチパチと拍手が生まれる。

電気がつけられる。

明るくなったダイニングルームで当麻は誕生日プレゼントを渡す。

征士に頼んでもらった子供用の新しい竹刀だ。

「お父ちゃま、ありがとうっ」

龍星が歓声を上げて喜ぶ。

剣の才能を発揮している龍星は時折、東京へ赴く当麻の母についていっては征士の元で剣の腕を磨いていた。

修行に熱心なせいでいつの間にか竹刀は悪くなっていた。よくわからぬうちから竹刀を振っていたため

最初は使い方が乱暴だったのだ。竹刀はこれで二代目となる。

亜由美もプレゼントを渡す。

サッカーボール。運動神経の発達した息子はスポーツ好きの子供にも育っていた。

テレビ番組のヒーローのおもちゃなどほしがる年齢だと思うが、あまりそういうものに興味を持っていない。

いまどきの子供らしくなく外で遊ぶことが大好きなのだ。

それから祖父母は電車の模型をプレゼントする。

多くの男の子がそうであるように龍星は無類の電車が好きだった。

外で元気良く遊び、時には親がびっくりするような遠出をして電車を見に行くのだ。

しかもその時はいとこで相棒の遼平と伴って行く。

大阪へ行ってきたなどと平気で言うのだ。

その冒険心はとどまるところを知らない。

物語が物語ならきっと勇者になっていただろうとゲーム好きの両親はつくづく思う。

「いいなぁ」

と千夏が亜由美の口調を真似て言う。

「私も欲しい」

「これは誕生日プレゼント。千夏達はちゃんとお誕生日にもらったでしょう?」

そうだけどー、と千夏が口を尖らせる。

綺羅が当麻のミニチュアなら千夏は亜由美のミニチュアだ。

恐ろしく仕草が似ている。

「クリスマスにたくさんプレゼントもらうなんて反則よね?」

大人びた口調で千夏は横の姉の綺羅に言う。子供成長は早いもので双子はもう小学二年。龍星も来年入学する。

うん、と綺羅も頷く。

「私達がりゅうが欲しいと言って産まれたんだから何かあってもいいと思う」

綺羅が同意する。

「つまりお前達がりゅうを欲しいとねだらなかったら今日、りゅうは産まれなくて別に日に産まれていたわけだ」

当麻が指摘する。

うー、と恨めしい目をして千夏がうなる。亜由美がよくする仕草だ。

その仕草に当麻は笑いを禁じえない。

流石に毎年羨望のまなざして見られる龍星は姉達の不満を押さえるつぼを心得ている。

「僕のケーキ、おねえちゃま達にあげる」

にっこり天使の微笑を浮かべて言う。

あちらを立て、こちらを立てて生きているので真中の子供はしっかりもので調停するのがうまい。

その微笑には誰もが魅了される。

顔の良し悪しで言えば子供達の中で龍星が一番だ。その綺麗な顔でこれでもかと微笑まれたらもう誰もがめろめろになる。

「いい。そんなことしたらおかぁちゃまに怒られるもん」

機嫌を良くした千夏が答える。

「そう。おかぁちゃま、怒ったら怖いから」

綺羅も同意する。

「僕、おとうちゃまの方が怖いけど? なー。しん」

龍星が弟に聞く。真矢は何を言われたのかわかっているのかはーい、と声を上げる。

知らないの?と綺羅が言う。

「おとうちゃまがこの世で一番怖いのはおかぁちゃまで、おかぁちゃまが本気で怒ったらおとうちゃまは小さくなってるしかないのよ」

綺羅が持ち前の観察力と分析力で得たデーターを披露する。

初めて聞く事実に龍星は意外そうな顔をする。

いつも文句を言われているのは母親のような気がするのだが。

子供達の間で誰が一番怖いのか、という議論が展開される。

その議論に大人達は苦笑いをするしかない。

アカデミック家族の運命か何かは知らないがこの家族は何かにつけて議論をする。

子供達の間でもそれが頻繁に行われていた。喧嘩とどちらが多いかと聞かれたらやはりこちらの方が多い。

感情派の千夏と理性派の綺羅と龍星の間ではそうなりがちだが、そのうち感情派の真矢がまともに話に加わることが出来るようになったらきっとまたパターンは変わるだろうと両親は見ていた。

結論が出るまで大人達は待ってやる。

「それじゃぁ、普段はおとうちゃまが指導力を発揮してるけれど、実際はおかぁちゃまが実権を握ってる、でいい?」

綺羅がまとめる。

「おとうちゃまはおかあちゃまのお尻にひかれているのね」

しみじみ千夏が語る。

「影の実力者というところかなぁ?」

どこでそんな言葉を覚えたのか、龍星もそう言って同意する。

子供達が一斉に尊敬のまなざしを亜由美に向ける。

亜由美はそれを喜んでいいのか悪いのかわからず、あいまいな笑顔を向ける。

「ほら、ケーキ食べるぞ」

当麻が促す。

「あー、私が切るっ」

千夏が叫ぶ。

いつもその言葉を聞かされている亜由美はすかさず子供用の包丁を手渡す。

当麻の父親と綺羅が等分の仕方を指導しながら千夏がぎこちない手で切り分ける。

この二人はどうやっていかに等しくケーキをいろんな数で切り分けられるか日夜研究しているのだ。

だからいつもとんでもない数にケーキが切られる。ケーキが切られるたびにその数は増えていく。

切り刻まなければいいといった具合に当麻も亜由美も放ってある。

切り分けられたケーキを当麻がそれぞれの皿にもる役をする。

しかもかなり細かく切られているので何きれ食べるか聞きながらのせる。

ペラペラのケーキを取るのは至難の技だ。故に当麻もどうやって取り分けるか毎回考えさせられる。

亜由美はもうその事に関してはギブアップして当麻にその役目を押し付けてあった。

「あ、こっちは五きれまで。あっちは七きれまでよ」

最大数を綺羅が告げる。

最初に皿を突き出すのは亜由美。

相変わらずのケーキ好きに当麻が笑う。

「お前のは両方とも全部、だろう? とりあえず半分だけな」

笑いながらのせてやる。

「当然よ」

亜由美はうれしそうに受け取る。

「あ、しんやー。手をつけないでっ。それはおかぁちゃまのケーキよっ」

次に真矢の分をもらおうと目を離したすきに真矢がしっかり亜由美のケーキに手をつけぐちゃぐちゃにする。

「半分ずつで正解だったな」

くつくつ当麻が面白そうに笑う。

「笑い事じゃないわよっ。私のケーキが~~~~~っ」

真矢がけーきぃと言って笑う。手も顔もクリームだらけだ。

「ああ、もう好きなだけいじりなさい。おかぁちゃまは後で堪能するから」

亜由美があきらめて真矢の好きにさせる。

龍星が亜由美を呼ぶ。

「僕の分あげようか?」

心配そうな顔に亜由美は笑いかける。活発なのに気が良くきく。どうも羽柴家は不思議な性格の持ち主が多い。

外で遊ぶことが大好きな綺羅と龍星はあまりわがまま言わないタイプに成長してきている。

が、家の中にいることを好む千夏は相変わらずわがままだ。

真矢はどっちのタイプかはまだ判断を下しきれない。B型なので自由奔放になるのではと亜由美は踏んでいる。ちなみに双子はAB型、龍星はA型だ。

「いいのよ。小さい子にはがまんがなかなか出来ないから。大人が我慢するのが正しいのよ。

りゅうはちゃんと自分の分を食べなさいね。

おねぇちゃま達ががんばって作ってくれたのだから」

にこりと笑われて龍星が頷く。

いい子だな、と当麻が言う。

龍星に向けていった言葉だが、実際は亜由美に向けられていた。

相変わらず、夫は自分を子供扱いする。

じとっと当麻を睨む。

その視線を当麻がひょいとかわす。

「相変わらず仲がよくてうらやましーわー。ね、ゲンイチロウ君」

当麻の母親がケーキをしっかり確保して言う。

当麻の父親がうむ、と頷く。

しばらく亜由美以外がケーキを食べて黙る。

ふと、龍星が顔を上げた。

「さっき、おねえちゃまが僕を欲しいって言って産まれたって言ったけど、どういうことなの?

僕、おかぁちゃまの子だよね?」

「もちろんよ」

「当たり前だ」

亜由美と当麻がすかさず返事をする。

それじゃぁ、と疑問の視線を受けて亜由美が答える。

「りゅうはサンタさんのプレゼントなのよ」

よけい意味がわからず龍星は首をかしげた。

 

その年の七月、一年も早く亜由美はコースを終了した。

まだ本来なら一年あるが、ますますやんちゃになる娘達の事を考えて卒業をあきらめたのだ。

別に学歴は必要ない。万が一離婚でもされても働き口は確保してある。

そこは学歴ではなくて実力次第だ。もっともそんな事を口にしたら当麻が激怒するのがわかっていたからいわなかったが。

コースを止めたということを話したときもいい顔をしなかった。

ただ、自分のわがままで産んだ子供達に余り寂しい思いはさせたくなかった。

イギリスにはうまいぐあいにナニーというのがある。日本で言えば乳母だ。イギリスの上流社会ではナニーを雇って子供を育てることがある。

ほとんどの子育てはナニーに任せ子供を抱いてやるなど愛情を示すのが親というパターンだ。

ナニーは養成学校があるぐらいしっかりした職業だから心配はあまりなかったが、自分が幼い頃、寂しい思いをしたのをこのごろよく思い出すのだ。

毎年止めるといって上手い具合に言いくるめられてここまで来たが流石にもう我慢できなかった。

当麻を説得するよりも行動を先にとった。

二年いたのだから留学の名目はもう果たしただろう。

そんな事を当麻に話すと当麻も納得して頷いた。

最近二人のきかん気が強まっていて流石の当麻もやや困っていたからだ。

亜由美が言うにはきっとさみしいから自分を主張しているのだと言う。

物を与えたり、環境を整えるだけが子育てではない。

子供はそんなものよりも愛していると思いっきり抱きしめてもらったほうがうれしいこともあるのだ。

亜由美は自分の経験からそう確信していた。

八月になり、娘達の誕生日が近づく。

二人は娘達に何を贈ろうかと考えた。

ただ、嫌いなものを贈ってもしかたがない。

それで二人に聞いた。

その答えに二人は飛びあがるほど驚いた。

「あかちゃん」

と言ったのだ。

「それはこうのとりさんが贈ってくれるから別のものにしような」

当麻がなだめても二人はいやいやと首を振る。

どうしたものかと考えているうちに誕生日を迎えた。

ほとほと困ってとりあえず、ケーキだけを用意する。

が、二人はずっとあかちゃんが欲しいと言いつづける。

あのね、と亜由美は言う。

「あかちゃんは神様がくれるプレゼントなのよ。だから欲しいと言ってもすぐにもらえるものじゃないの。

いい子にして、神様にお願いしましょうね」

「お祈りしたらプレゼントしてくれる?」

たどたどしく綺羅が聞く。

ええ、と亜由美は頷く。

二人は顔を見合わせた。

それからようやく納得する。

それから双子は突然わがままを言わなくなった。

恐ろしく聞き分けよい。

今までのきかんきはなんだったのだろうかと思うほどだ。

大人しい千夏はわかるが、元気に走り回っていた綺羅までが大人しい。

言い方を間違えたかと亜由美は悩んだ。

当麻と話し合う日々が続いた。

亜由美と当麻は二人に話すことにした。

どうやって子供が授かるのかを科学的に説明することにした。

露骨な表現は避けたが、それで綺羅は納得した様だった。

「あかちゃんを授かるにはおとうちゃまとおかぁちゃまも努力しなくては行けないの。

でもね、それ以上にがんばるのはあかちゃんの元なの。でも、あかちゃんの元があかちゃんになるにはやっぱり神様の不思議な力が必要なの。

わかるかな?」

そう言って亜由美は二人に聞く。

こくり、と娘達が頷く。

「だからいい子にしていたら、と言ったけれどそれは綺羅が綺羅らしくないのでも千夏が千夏らしくなくても駄目なのよ。

あなた達は自分の心に素直にありのままの自分でいることがいい子でいることなの。

自分らしい、と言うことがとても大事なのよ。それはわがままを言うということではないの。うーん、なんと説明したらいいのかな?」

亜由美はそこまで言って考え込む。

当麻が言葉を継ぐ。

「自由、という言葉があるな。それは好きなことを勝手にするんじゃないんだ。好きなことをするためには自分をたくさんがまんしたりして得るものなんだ

それが自分らしいと言うこと。我慢したり、しなかったりしながら上手に自分の好きなことをするんだ。

だから綺羅はもっと好きな様に走りまわっていいんだぞ。

千夏も好きなおしゃれを楽しんだらいい、おとうちゃまの言っていることもわかるな?」

双子は神妙な顔つきで頷く。

おそらく難しすぎて半分もわかっていないだろうが、少なくとも好きなことをしてもいいということは伝わった様だった。

綺羅が遊んで、と言ったから。

そこでようやく四人の家族で鬼ごっこをしたのだった。

くたくたになるまで遊んでようやく双子に双子らしい表情が戻った。

亜由美と当麻はほっと胸をなでおろしたのだった。

二人の寝顔を見ながら当麻と亜由美は語り合う。

「俺、一人っ子だったけど、あまり兄弟は欲しいとは思わなかったな・・・」

当麻が呟く。

私も、と亜由美が答える。

「妹なんていらなかったな。いつもお母さん横取りされて我慢ばっかりしなくてはならなくて、不満ばっかりだった。

でも・・・。今なら少しわかる気がするな。やっぱり、家族って大事だもの。家族が欲しくてこの子達が欲しいと思ったから。

今は妹がいてよかったって思う。この子達なら妹も弟も受け入れて大事にしてくれる気がする」

亜由美の言葉に当麻がそっか、と呟く。

「少し、考えてみるか」

当麻が言う。

え、と亜由美が当麻の顔を見つめる。

「三年ぐらい期間をあけるのがベストだと家庭の医学書にもあるからな。来年辺り、がんばるか」

真剣な声で言われて亜由美も真剣な顔で頷いた。

それからまたたく間に日が過ぎていく。

明るさを取り戻した双子と格闘しながらあわただしく日が過ぎていく。

今年もクリスマスが近づいてきた。あと二ヶ月というところだろうか。

何をもらったかわからない去年までと違ってもう子供達は自分の意思を強く持っている。

当麻がそれとなく欲しいものを聞き出す。

双子はいらない、と言った。

「どうして。クリスマスはサンタさんがいい子にしていたご褒美をくれる特別な日なのよ?」

亜由美が問う。

「サンタさんって、サンタクロースね?」

綺羅が問い返す。

親二人はただ頷く。

「セントニコラウスっていうせいじん様がサンタクロースさんなのよね」

千夏が得意げに話す。

そんな情報一体どこから、と問うと二人はきっちり答えた。

「この間、テレビでお話してたよ」

なんて夢のないテレビ番組してるんだ、と当麻は不満に思う。

「せいじん様って神様みたいな人でしょう?」

双子が期待に満ちた瞳で神学を勉強していた亜由美を見る。

常日頃自分は神様のことを勉強しているのよと話していたから。

つい先日いきなり守護聖人の事を聞かれてそう答えたのを思い出す。

そうね、と頷く。

「だからちーちゃんときーちゃん。せいじん様にお祈りするの。あかちゃんくださいって」

「そんなにあかちゃんが欲しいのはどうしてかな?」

亜由美が尋ねる。

うーん、と子供達が考える。

「だって、かわいいし」

と千夏。

「おとうとが欲しいの」

と綺羅。

「いっしょに遊ぶのー」

ねー、と双子は顔を見合す。

だがな、と子供達の頭をぐりぐりなでながら当麻が言う。

「いきなりお祈りして授かるものじゃないと言ってあったよな? おかぁちゃまのお腹にはあかちゃんはいないからクリスマスには無理だぞ」

わかっている、と二人は声をそろえる。

「ずっとお祈りしていたの」

綺羅が答える。

「お祈りしていたらいつか神様がお願い聞いてくれるよね?」

千夏が言う。

「いつかってもしかしたらずっと遠いかもしれないぞ?」

当麻が聞くと双子はもらえるまでお祈りすると答えた。

「それまでプレゼントはいらないの?」

亜由美が聞くと二人はうん、と元気良く答える。

年季の入りように流石の当麻も頭を抱える。

やがて、当麻はわかった、と言う。

「おとうちゃまとおかぁちゃまも努力するし、神様にお祈りするから待っていてくれるな?」

言うと双子はうれしそうに両親の胸に飛び込む。

亜由美は綺羅を抱きしめながら当麻に問うような視線を交わす。

当麻は小さく頷く。

つまり、計画は前倒しになるということだ。

流石にクリスマスに間に合わせることは出来なくても双子を授かった的中率から言っておそかれ早かれ出来ることは確実だろうと亜由美も当麻も考えていた。