次世代編 羽柴家の人々

 

羽柴家のとっぴ性はすでに仲間内では伝説と化している。

帰国早々、当麻は京大に講師として就職し、ちゃくちゃくと昇進している。

亜由美は退学していた大学に復学したかと思うと内調の正式メンバーになり、関西支部設立メンバーに加わってバリバリ働いている。

そしてこのとっぴな夫婦は子供達を実家に預けると時の長の役目をちゃっかりこなしていたりする。

子供達もこの二人の子供達であるから何もないわけがない。

特に上の二人は英語と日本語を幼いながら上手に扱い分け、皆を驚かせてもいる。

 

征士の運転するワンボックスカーが今や伊達家と化したもと柳生邸の前で止まった。

彼の車は別にある。今日は羽柴家の民族大移動のためにわざわざレンタルしたのだった。

羽柴家の移動は大変だ。

何しろ、今や大人二人に子供三人、おまけに猫一匹と来ている。

ようやくこの夏に完全帰国した羽柴家にその大移動をこなす車などなかった。

当麻の話によるとさらにこの後にハスキー犬が加わることになっているという。

征士は運転する車中で犬の名前の大論争をすでに聞かされている。

亜由美はハスキーは絶対ちょびだと主張するのに対し、当麻と娘達は猫がホームズだから犬はワトソンだと主張する。

征士は犬の名前でこれほど熱くなるのが不思議でさえあった。

彼のネーミングセンスはいまいちである。

つい先ごろ産まれた長男にも征士の一番目の子ということで征一と名づけられていたほどである。

征士が降り、当麻も降りる。

当麻は後部座席のドアを開けてやる。

双子が飛び出てくる。

亜由美はもう後ろに座っていたが、降りるとその前の席のチャイルドシートで眠っている長男を抱く。

当麻は征士に手伝ってもらいながら荷物を降ろす。

滞在するためだけの荷物だが、かなり多い。

双子はなれた様子で玄関に駆け寄る。

ただし、呼び鈴には手が届かないので大声でナスティの名を呼ぶ。

その声を聞きつけて、ナスティが出迎える。

その腕にはつい先月産まれたばかりの長男、征一が抱かれている。

「ナスティおばちゃまー」

そう言って双子がナスティに抱きつく。

ナスティは双子たちに歓迎の意を表し、また亜由美に向かってお帰りなさいという。

亜由美もそれにただいま、と答える。

挨拶を交わしている間に双子達は屋敷に子供の声を聞きつけ、歓声を上げながら飛びこんでいく。

「こら、まちなさい」

亜由美は小脇に長男を抱えなおすと双子たちを追う。

軽い追いかけっこをしてようやく亜由美が愛娘達を捕まえる。

「まずはおじちゃま、おばちゃまにご挨拶でしょう?」

そう言って皆の前につれてくる。秀以外のメンバーが集まっていた。

「こんにちは。お世話になります」

とかわいらしい声で挨拶する。

したかと思うとまた走り出そうとするが、荷物を運び終わった当麻に首根っこを掴まれる。

「次は手洗いとうがいだろう?」

そう言って子供達を連れて行く。

その絶妙なコンビネーションに誰もが感心する。

手洗いとうがいをした双子は先に来ていた秀の子供たちといっしょに屋敷を探検し出す。

ナスティのこの小田原の家はつい最近、改築を施したばかりである。

皆、この屋敷に何かと言うと集まっていたが、征士とナスティが結婚すると遠慮するようになっていた。

だが、逆に伊達夫妻は普段が静かだからと言って皆をよく招いた。

皆の家族構成の変化を受け、ナスティと征士はそれに応じた屋敷に改築したのだった。

一通り、探検してきた双子が大人達の元へと戻ってくる。

「ナスティおばちゃま、パソコン使ってもいい?」

ナスティの許可を得ると今度は母親にねだる。

「おかぁちゃま。あれ、出して」

あれ、とはお気に入りの教育ソフトである。

子供達を連れてソフトを取りに部屋に向かう亜由美の後姿を見て征士が言う。

「やはり、お前の家は変わっている」

齢、四歳でパソコンをヘビーユーザー顔負けに操るなど普通ではない。

そうか、と当麻がなれた様子で答える。

双子が産まれたとき当麻と亜由美は子供達を普通に育てようと固く誓っていた。

だが、枯れてもなんでもこの二人の子である。一筋縄では行かなかった。

まず、綺羅の成長スピードが驚異的である。

何事も普通の乳幼児の一ヶ月半から二ヶ月早くこなす。飲み込みの良さは当麻譲りである。

一方、千夏の成長スピードは普通だが、鋭い感性を持っていた。

その小さな目と耳は目に見えないものを捕らえていた。

年々力が増すのを案じた亜由美は手製のお守りを作ってやっている。

こんな調子の娘達であったからもう普通の子に育てるのは観念した。

英才教育を施すわけではなかったが、興味を持つことはなんでもさせた。

徹底的に才能を伸ばすことにしたのだ。

今、この双子が気に入っているのはパソコンと当麻の指導で行われる天体観測だった。

今は二人同時に同じ興味を持っているがすでに変化が現われていた。

綺羅が当麻の研究する宇宙物理に並々ならぬ関心を寄せたのだ。

当麻と亜由美の書斎から当麻の本を引っ張り出しては当麻に説明をせがんだ。

今や、亜由美に言わせればこの世のものとは思われない数式をたどたどしくそらんじるほどであった。

この調子では千夏も違う才能を発揮するであろうと両親はふんでいた。

 

さて、羽柴家の朝は騒々しい。

イギリスだろうが日本だろうが実家であろうと伊達家であろうと変わらない。

ころあいをみはからった亜由美によってまず当麻の眠る部屋に双子が放りこまれる。

愛娘達の総攻撃を受けて当麻がようやく目を覚ます。

当麻はこの早起きの娘達に思わず征士の血が流れているかと思う時がある。

半ば、寝ぼけ眼で双子の頬にキスをする。

その洗礼が終わると綺羅が飛び出る。

それが当麻が目覚めた合図であった。

待ちうけていた亜由美が服を片手に綺羅と追いかけっこをはじめる。

当麻はその音を聞きながら、千夏が持ってきた服の着替えを手伝ってやる。

服の着替えが終わると千夏は後生大事に持っているアクセサリーケースからお気に入りのリボンやゴムを取り出す。

当麻はそれを受け取って千夏と相談しながら髪を結ってやる。

毎朝違う髪形であるため、結構大変である。

そのあと、亜由美手製のお守りを首からかけてやる。

そうして準備ができるとようやく服を着終わった綺羅と共に朝の歯磨きをさせる。

そこでようやく当麻と亜由美は一息つけるのだった。

一息つくと、次は当麻が双子を連れてホームズの散歩に出かける。

いろいろ込み合った事情からホームズはリードを着けて散歩することになっていた。

長男が産まれるまでは亜由美の仕事だったが、さすがに三人の子供と猫一匹を一度には扱えない。

そこで当麻が担当を交代したのだった。

帰ってきて朝食を取る。

これで朝の儀式がやっと終了する。

 

昼間は普段、当麻も亜由美も留守がちである。

なので休日の昼間は日がな一日子供達の相手をしてやる。

が、ここ伊達家滞在中では子供達も遊び相手に欠ないので放ってある。

双子は他の子供達と遊んだり、二人遊びをしたりする。

このときも二人で綺羅と千夏はパソコンに興じていた。

千夏はナスティのパソコンの部屋にある本だなに興味をもった。

手の届く範囲から本を引っ張り出す。

それは古いびた本であった。

開けると見たこともない文字が並んでいる。

英語でも日本語でもない様に千夏には見えた。

まるで魔法の言葉のようだった。

千夏は興味を覚え、亜由美のところへ持っていった。

「おかぁちゃま。これなぁに」

「まぁ。それ、どこから」

亜由美が驚く。

「ナスティおばちゃまのパソコンのお部屋にあった」

本来はパソコンの部屋ではなく、ナスティの仕事場であったのだが子供達には理解できない。

「それはね。昔々の人が書いたご本なのよ。

でもとても貴重なものだから汚してしまわないうちにナスティおばちゃまに返そうね」

「やー。このご本よんでー」

千夏がわがままを言う。

しかたなく亜由美はページをめくって読んでやるが、正直心もとない。

一族に伝わるわけのわからない文字ならなんなく読めるが、こういうくずしかな文字やら古文字を読むのは得意ではない。

しばらく読んでやって亜由美は降参した。

ナスティに少し読んでやって欲しいと頼む。

ナスティはすぐに承諾し、内容を読み上げて丁寧に説明する。

千夏はこの魔法の言葉のとりことなった。

千夏はひらがなやアルファベットを覚える前に古文字を覚えることに躍起になった。

「千夏は間違いなくお前の血を引いているな。お前もわけのわからん巻物に夢中だったよな」

その様子に懐かしげに当麻が言う。

千夏はこの魔法の言葉を読み解くナスティの弟子となり、こう幼い心で誓ったのだった。

ちーちゃんもナスティおばちゃまのようになる。

これで双子の進路はほぼ決まったのであった。

余談ではあるが、滞在が終わり帰郷するにあたって千夏はだたをこねた。

「ナスティおばちゃまの家の子になるー」

「おかぁちゃまがご本を用意してあげるから。わがままは言わないの」

頭を抱えた亜由美は独自ルートで古文書を用意してやる羽目になった。

 

今のところ残るのは長男、龍星である。

この長男は姉二人に比べてやや個性が薄い。

といっても姉双子が強烈なのでしかたがない。

ごく普通に成長しているかのようであったが、やはりこの帰国早々の滞在で才能を発揮したのであった。

歩ける子供達は家中をかけまわって遊んでいた。それに子煩悩な伸が付き合っている。

まだ仲間内で妻帯者でない彼はそのせいかどうかしらないが、子供達に絶大なる人気を誇っている。

双子に唯一おじちゃまよばわりされないでしんちゃんと呼ばれていた。

秀はまだこの時は横浜の店にいたのでそこにはいない。

部屋には征士、遼、当麻、亜由美、迦遊羅、ナスティがくつろいでいた。

亜由美、迦遊羅、ナスティはそれぞれに子供を抱いていた。

ふいに腕の中の龍星がむずかった。当麻があやすがやはりむずかる。

どうもはいはいしたいようだったのでさせると無謀にも刀の手入れをしている征士の足元にしがみつき、

だぁ、と笑ったのであった。

戯れに当麻が広告でつくった竹刀を持たせるときゃっきゃとはしゃぎながら広告竹刀を振るったのであった。

「こいつの才能は剣だったのか・・・」

うーんと当麻がうなる。

龍星はその後、遼と迦遊羅の息子、龍星にとってはいとこの遼平と共に征士に弟子入りし、剣の道を極めることになる。

このとき、亜由美が次は弓使いを育てようと思ったかどうかははなはだ疑わしいが、

次に産まれたら真矢と名づけようと心に決めていた。

 

羽柴家のとっぴなエピソードはまだまだあるが、それはまた別エピソードである。