次世代編・新しき日々前編

 

「それではお借りします」

「あ、はい。どうぞ」

亜由美はスタッフの言葉にうなずくと送り出した。

当麻がクイズ番組にいるらしく、どういうわけか結婚式の写真を借りたいと言われたのだ。

亜由美は現在東京に一時的に滞在している夫、当麻に電話で確認を取ると遼にとってもらったマリッジ写真と披露宴の一部を貸したのだった。

部屋に戻って片づけていると一冊ないのに気がついた。

あえてはずしてあった例のキスシーンのコマ送りのアルバムが一冊丸ごとない。

「綺羅。千夏

亜由美は先ほどごそごそ動き回っていた双子の部屋に行き、ドスの利いた声で呼びかけた。

「なぁに。おかあぁちゃま」

素知らぬふりをして千夏が応対する。綺羅はすでにしらを切り通すために数学に夢中になっている。

「あなたたち、開かずのアルバムを渡したわねっ」

亜由美の大雷が落ちるが双子には効いていない。

「ちーちゃん。知らない。開かずのアルバムって?」

千夏が面白そうに尋ねて亜由美はぶすっとした顔で身を翻した。

あれだけ返して下さいと言っても無駄だろうな、亜由美はくらーい顔してどっぷりおちこむと早速当麻に連絡しておく。

電話の向こうの当麻が乾いた笑いを返してくる。

「とにかく。向こうに行ったら千夏達をしっかり叱ってよねっ」

わかった、と苦笑いする声が聞こえて亜由美はしぶしぶ電話を切った。

 

クイズ番組収録当日、何のために借りられたか理由は判明した。

クイズのテーマが歴史上の結婚ということだったのだ。

出演者の結婚式の写真が独身者を除いて一ずつ披露される。

たいていに使われていたのはマリッジ写真。これなら大丈夫だろうと思っていた亜由美はスタジオの端でみていたらぶっとびそうになった。

こともあろうにあのキスシーンがばばーんと出たのである。

結婚に夢を持っているらしい千夏がわーっと声を上げそうになるのをあわてて口を押さえる。黙っているという約束の上に見学させてもらっているのだ。それからわかっているでしょうね、とじろっと見据えるが堪たえていない。

あいかわらず、子供達にはなめられっぱなしなのだ。一番効果在るのは当麻の父親。それから母親。そして当麻。自分に至っては子供以下という判定が下されているので普段からあまり叱っても意味がない。というのもしょっちゅう叱るのは亜由美で滅多に他の三人は怒らないからその効果性が薄れないだけなのだ。

「このお写真は、あのRYOU真田さんがおとりになったらしいとか・・・」

司会者がばらすと出演者から色々、興味深い視線やら質問が当麻に浴びせられる。当麻は苦笑いしながらかるくうけながす。今や遼はRYOU真田の名で世間に通っている。

「義理の弟ですので・・・」

当麻は頭上におちてくるであろう亜由美の大雷を自覚してもう乾いた笑いしかでない。

そうでなければ家出もされてしまうかも知れない。

そっちのほうがクイズに正解するよりも不安になる。

 

クイズ番組はちゃくちゃくと進行していた。レギュラー女性と当麻の一騎打ち状態である。あと一問でパーフェクトと言うときになって当麻は答えに躊躇した。浮かんでいる答えはいくつか在るが候補が出ないのである。

“おとうちゃまっ”

千夏の声なき声が聞こえて当麻ははっとスタジオ袖を見た。

千夏が亜由美に首根っこを捕まえられてじたばたしている。

千夏が口だけを動かしてほとんど答えとも言うヒントを言う。

読唇術でそれを読みとった当麻は、なるほどとぽんとてをたたいて答えを書き出した。

千夏はあいもかわらず力を発揮して時折亜由美から大目玉を食らっている。

日に日にその能力は増していき、今では亜由美が必死になって押さえている。

本人はいたってのんきにその能力を楽しんでいるらしい。

それでもたまにしか使わないようだったが。

結果女性レギュラー一人と当麻のパーフェクトが出た。

初のクイズ番組出演でどうなることやらと思っていたテレビだったが、なんとか面目はたったらしい。あとは亜由美の怒りをどうすることかだ。

司会者の挨拶をうけ、ようやく終わる。

最後に幾週かあとになって放映される、パーフェクト者が出たときの海外旅行者のはがき抽選の映像をとって終わる。観客も出て、ほっと一息をついたかと思うと。子供達が制止をふりはらって飛び出してくる。

四人の子供達の手荒い歓迎に当麻は顔をほころばせる。

「千夏のおかげでパーフェクトだ。もらった商品好きなように使え」

千夏がわーいとよろこぶ。すでにトップ賞として海外の家具とアクセサリーがもらえることになっている。当然アクセサリーは年に不相応であろうとなかろうと千夏の物なのだ。

対する亜由美はぶすっとしている。

「まぁ、パーフェクトがかかっていたんだ。許してやれよ」

苦笑いしながら言っても亜由美の硬い表情は変わらない。
「千夏っ。帰ったらお説教ですっ。いいわねっ。綺羅もしらを通ている場合じゃないからねっ」

おーこわ、と肩をすくめているのは龍星と真矢である。

この姉たちのぶっとびぶりにはもう笑いしかでない。

当の本人達もぶっとんでいるとは思うが、姉に秀でる物はいないともうあきらめている。

「見事な正解ぶりやったなー。さすがは京大の先生やわー」

大阪出身と思われる男性出演者がべた褒めにする。

「一応、家族の面目がかかっていましたから」

当麻がにこやかに答える。

RYOU真田とご親戚とはねー。いい写真がたくさんありそうだね」

番組ではいつも答えがとんちんかんで表向きは馬鹿にされている出演者が子供達に語りかける。が、その性格は優しく出演者達も別段気にはしていないようだ。

あのねっ、と千夏が人なつっこい笑みを浮かべて言う。亜由美の制止を振り払って答える。

「遼おじちゃまの写真はいっぱいお家にあるのっ。ちーちゃんはあの写真が一番の傑作だと思うのっ」

傑作というのは例のキスシーンである。仲間内で使われるだけならいい。だが、今回の収録でもろに全国に広がってしまった。亜由美は悲しくなるほどだ。

あんなこっぱずかしいもののどこが傑作なのっ。

心で叫ぶが陶酔しきっている千夏には通じない。

「ちーちゃんというのかぁ。たしかにいい写真だよね」

ああーもうっ。穴に入りたいっ。

あの時ケーキカットしておけば良かったと怒濤の後悔が押し寄せるが意味がない。

「ケーキカットしておけば良かった」

ぶすっとして亜由美が当麻に呟く。

しかたないだろう?、と当麻が苦笑する。

「お前の責任だ。しかたない?」

「とーまが協力しなかたらよかったんでしょうーっ?」

小声で夫婦喧嘩がもう始まっているが、そんなのはいつもの比ではない。

一応表立っているとうことで亜由美はセーブしているだけなのだ。

と唐突にケーキが出てくる。

スタッフが持ってきたらしい。

花束まである。

「今日が結婚記念日だとお伺いしましたので」

司会者がにこやかに亜由美と当麻に告げる。

「え、あ、まぁ。そうなんですが。ご丁寧に気を使っていただいて・・・」

しかたないので苦笑いしながら亜由美は花束を受け取る。

「ちーちゃんが切るっ」

羽柴家のケーキ切り分け人千夏が叫ぶのを首根っこで押さえる。

「今日はいけません。ちゃんと切らないといけませんからねっ」

ええーっっと派手な抗議を千夏から受けるが亜由美は断固として譲らない。

「今日はみなさんの分をお切りしないといけないから。あとでケーキぐらい何だって買ってあげますっ」

「そんなの簡単じゃない」

今まで静かだった綺羅が難なく答える。

ケーキ切り分け指導人綺羅にとってはこの人数は大した人数ではない。

「おかーちゃま糸持っている?」

いつものように綺羅が言うと亜由美は持っていたポーチから糸を引き出す。

「こんな小さな糸では無理よ」

「きーちゃんを信用しないわけ?」

ぎろっとにらまれて亜由美は不承不承糸を渡す。

綺羅は静かにしている間にとっくに人数を数えていたらしい。

数学の方法を使って印を付けていく。

千夏がうずうずしている。

どこでケーキが出てくるかわからないために子供達の必需品は持っていることは持っているが羽柴家の突飛性を隠したい亜由美は包丁を渡すのをためらう。

となんなく綺羅の指導で大人用の包丁で綺麗に均等に切り分けられる。

もうこれではどっちが親か子かわからない。

ほうぅと感心した声が挙がるがもう放って置く。

今更隠しても無駄なのだ。この家族の突飛性は。

双子は愛想良く他の出演者にケーキを渡していく。

亜由美はいつもならまっさきに皿を突き出すところだがあきらめている。

「俺も。おねえちゃま。俺もちょーだいっ」

ケーキが大好きなだけの真矢がうずうずして叫ぶ。

待っててねとにっこり双子はかわすと順調にとりわけ渡していく。

なんだか亜由美以外はほのぼのとした気持ちになっているらしい。

可愛らしい女の子達からケーキをもらって皆満足そうだ。

最後の最後に自分の分をもらって亜由美は恨めしそうにケーキを見る。

なんだってここまで私をいぢめるわけっ?

じろっとケーキをにらむが、ケーキは答えない。

どこに行ってもスケープゴートになるのは自分らしい。

亜由美はしくしくと思わす呟く。

「あとで好きな物買ってやるから、今日は観念しろよ」

いつのまにか子供達の騒ぎぶりを放任してしまった当麻がわきで慰める。

「とーまの一時的ななぐさめなんかいらないもんっ。こうなったら」

おいっと当麻が焦る。

こうなったらと言われると出てくるのは実家コールだからだ。

「いいわよ。今回は一人で実家に戻るから」

あゆぅと当麻が情けない声を小さく上げる。

誰よりも何よりも亜由美が側にいないのが堪えるのだ。

「もうしらないから。これで離婚になってもしらないからねー」

剣呑とした目で亜由美が言うとますます当麻が困る。

「頼むから実家コールと離婚コールはやめてくれーっ」

泣きつく当麻に亜由美はふんとそっぽを向ける。

その様子を見ていた女性レギュラーが笑う。

「羽柴さんの一番の弱みは奥様でしたわね」

彼女は自分でトーク番組を持っている。

そこに出ていた自分を見てこの番組のプロデューサーからお声がかかったのだ。

はぁ、と当麻がなさけない声を上げて。

周りの皆がどっと笑う。

「この人面白いでしょう? わたくし気に入ってますのよ」

彼女はもう在る程度年齢は行っているが、独身である。

「いっそ準レギュラーにしてはいかがかしら?」

その言葉にひぃっと亜由美が顔を青くする。

別段、優秀な夫の頭脳を披露するのはまったく気にしていない。

が、そのたびに子供達が大騒ぎするのはやめてほしいぐらいなのだ。

疲れるといったらありゃしない。

なんだって自分は四人も産んでしまったのだろうと思わず思ってしまう。

上の子二人でもう手に余っているのだ。

「ご厚意だけありがたくいただいておきますから」

亜由美が情けなさそうに答える。

「あなたたちも騒ぐのをいいかげんにおやめなさいっ。龍星を見習ったらどうなの? ちゃんとおとなしくしないと征士おじちゃまのところにもいきませんからねっ」

この最大の脅しが利いたのか、千夏がおとなしくなる。征士おじちゃまイコールナスティおばちゃまなのだ。

それを聞いて今度は龍星が騒ぐ。

「おかぁちゃまっ。京都に送り返すのはおねぇちゃまたちで十分でしょっ。僕は征士おじちゃまのところへ行けるからついてきたんだからねっ」

ああいえばこういう。あちらをたてればこちらはたたず。

もうどうなっているのっと亜由美は心の中で叫ぶ。

「あぁ、あんまりあゆを脅迫しないでくれ。これ以上追いつめられたらお父ちゃまが困るんだぞ」

当麻が弱る。

そこでようやく子供達が収まる。

弱っている内が華なのだ。これが怒りに変わったらとんでもない雷が落っこちる。

わかった、と亜由美は唐突に答える。

「私は私で単独行動させてもらうから。当麻は征士のところでのほほんとしてたら?」

おひっ、とケーキを食べていた当麻がもろにあせる。

「だから言っただろうがっ。こうなったらおかぁちゃまがどうなってもお父ちゃまは責任とれないからなっっ」

半ば涙目で訴える父を見て子供達が恐縮する。

「おかぁちゃま、怒らないで。おとなしくお説教受けるから」

一番の取りなし人龍星がとりなす。が、今回は亜由美はその笑顔にも動かされない。

「お説教はあとでたくさんしてあげますっ。しばらく家族五人で反省してなさいっ」

亜由美は大雷を落とすとケーキをかっこむ。

「それから千夏にはもう一つお話があります。あんまりこういうことをしていたらおかあちゃまが怒ると言っていたわね?」

念を押すと千夏がしゅんとうなだれる。

いささか可哀想になったが、ここであきらめては教育できない。

誰もがケーキを切り分けだけでと思うだろうが、本来はそうでない。

使ってはいけない力を使ったため母は怒ったのだ。

その事は重々分かっていた。

自分のことを一番に心配してくれているのは母なのだ。

人にはない力を持っている千夏を案じて幼い頃からお手製のお守りで守られている千夏にはそれはよく知っていた。ただ子供らしさからついつい逸脱してしまうのである。

「舞子おばちゃのところに千夏は放り込みますからね。ナスティおばちゃまの所は今回はだめですからねっ」

ほへ?と千夏は母を見上げる。舞子おばちゃまがどうかしたのだろうか?と思った矢先からさーっと顔色が引く。

千夏は基本的に外で遊ばない。内向的な子供だ。運動という運動はだいっきらいだ。その千夏を放り込むと言ったらただ一つ、合気道というわけのわからないものの特訓に放り込まれるのだ。

これでもかという怒りを買ったときには千夏はぽんっとそこへ放り込まれるのだ。

「今回をふまえて千夏には礼儀と作法をしっかり教えてもらいますからねっ」

嘘だっ、と千夏は涙目で母親を見上るが、亜由美はびくともしない。

次回放り込まれるときは怖い目に遭ってもらうというのが母の口癖だったのだ。どんな特訓が待ち受けているかわからない。

ひえーっと千夏は亜由美そっくりのリアクションで絶句した。

お前、と当麻が声をかける。

「そんなに千夏をいじめなくてもいいだろう? 千夏のおかげでパーフェクトとれたんだから」

当麻がそれなりにとりなすが亜由美は断固として動かない。

「いいえっ。今回が良い機会よっ。思いっきりしつけてもらいますっ」

「お前がしつければいいだろう?」

いいえっと亜由美は答える。

「扇家の洗礼をこれ以上ないぐらいに受けてもらいます。これ以上は私でもおさえきれませんっ」

怒り怒濤の母親を見て千夏はあきらめることにした。

「そんなにおこらんでもいいんじゃないやんか」

先ほどの大阪出身のレギュラー出演者が千夏をかばう。

「いいえっ。あの写真を知っていたのも千夏ならそれを持ち出して綺羅と一緒に渡したのも千夏。千夏が動かなければ今回は至って静かだったんですっ。いいかげんこの子に世間という物をわからせなければ」

真剣な声で言われるのを聞いて千夏は至極反省した。

ごめんなさい、と素直に謝る。

「おかぁちゃまは千夏が心配なのよ。今回のようにまた暴走したら悲しむ人がたくさんいることを千夏はもう分かっていなければならないのよ。おかぁちゃまが起こした過ちを千夏には起こして欲しくないの。千夏は遼平君がすきなんでしょう? 彼を悲しませることになるのよ?」

亜由美が静かに諭す。

他の出演者はあぜんとしている。ケーキの切り分けと過ちとどんな関係があるんだろう?とますます興味がわいてくる。

周りに普通人が群がっていることに気づいて亜由美は怒りを収めた。

「とにかく怒っていると言うよりもこれからのことを心配して送り出すんだから心配しなくても良いわよ。そのかわり千夏にはちょっと怖い目にあってもらかもしれないから。綺羅も一緒に行ってもらいなさいね。二人で力を合わせて困難を乗り越えなさい」

それだけ言うと亜由美は周りに礼をして子供達を連れていく。

すみません、と当麻が周りを取りなしているのを見てそれを当麻に任せる。

まずは内調に電話して舞子達の動向を尋ねなければならない。

その如何によって千夏を放り込めるかどうかわからない。

怖いことというのは心霊現象退治だ。力の持っている千夏がいずれ出会うだろうと言う現実に今からでも慣れてもらうしかない。いずれ自分たちはこの子達を置いて死んでしまうのだから。先の遠い話だが先延ばしにしていたらいつまでたっても千夏は暴走してしまうだろう。今日のことがいい機会だ。

舞子達は忙しい内調の仕事の間を縫って東京に戻っていた。

そこでしばし翔子と話していたが、翔子が難色を示す。

「千夏ちゃん、まだ小学生じゃない。そんなに早く見せなくても良いと思うのだけど?」

いえ、と亜由美は答える。

「私は中学生で困りましたから。千夏の力の発現ぶりを見ていたらさすがに心配なんです」

心の底から案じている声を聞いてさすがに翔子も考え込む。

「ほんのお灸を据える程度でいいんです。翔子おねえちゃんが始めて怖いと思った程度で良いですから」

懇願されて翔子はしばし考え込んでいたようだったがわかった、と答えた。

「千夏ちゃんに代わってもらえるかしら?」

翔子が言うのでしかたなく代わる。

「翔子おばちゃまとお話ししなさい」

舞子おばちゃまじゃないの?と千夏が暗に問うが亜由美が首を振って受話器を渡す。

もしもし、と聞こえてあわてて千夏が出る。

「今回は翔子おばちゃんも一緒だけどいいかな? 千夏ちゃんに知って欲しいことがあるの」

その真剣な声でうん、と千夏が答える。

「きーちゃんも一緒で良いの?」

「もちろんよ」

翔子が返事をする。

「わかりました。お世話になります」

そう言って千夏は受話器を置いた。

一抹の不安が残るが母が真剣に考えたことなら何かあるのだろうと幼い心で千夏は悟った。

「ちーちゃん扇のおばちゃまのところにいく。きーちゃんも一緒ね?」

綺羅がいぶかしむがすぐに納得する。

この母が意味無く扇家へ放り込むわけがないのだ。

「千夏のご本はちゃんと渡して上げるし、綺羅のパソコンも持っていって良いわ。ちゃんとお世話になりなさい。困ったときはいつでもおかぁちゃま、おとうちゃまを呼びなさい。いいわね」

滅多にない真剣な顔で言われて双子はうなずいた。

「それからしばらくお守りはおかぁちゃまが預かります。困ったときは翔子伯母ちゃまと舞子おばちゃまを頼りなさい」

亜由美はそう言って可哀想に思うも双子からお守りをとりはずす。

いつもと違う母の様子に千夏の不安はさらに大きくなる。

「お守りは中学生になるまでだったわね? もうそろそろ練習しなさい。戻ってきたらまた返して上げるから」

うん、と千夏は気丈にもうなずく。

その顔を見て亜由美は微笑む。

「大丈夫だから。本当に怖い思いをする前にちゃんと知って置いて欲しいだけだから。ね? しっかりするのよ?」

抱き抱きして、と唐突に千夏が言う。

わかった、と亜由美は快く引き受けて千夏をぎゅっとだきしめる。そして綺羅を次に抱きしめる。自分の力で守れたらいいが、守るには限界がある。

この子達には何かが起きる、亜由美は予感がしていた。だからその時に備えてこの子達を鍛えねばならないのだ。導き手がいる内に・・・。

「龍星と真矢は征士おじちゃまの所に行っていなさい。おかあちゃまは一人ですることがあるから。後からおとうちゃまもいくから。二人でおとなしくしていなさいね」

一人になると聞いた龍星が不安そうに亜由美を見上げる。

「大丈夫。おかぁちゃまはお仕事の偉い人の所へ行くだけだから。後からちゃんと征士おじちゃまのところへ行きますからね。しんのことを頼んだわよ?」

うん、と龍星もけなげに答える。

それじゃぁ、と亜由美が言う。

「お夕食をおとうちゃまといっしょにとってそれからみんな別行動しましょうね?」

すでにスタジオから出て亜由美の側にいた当麻を亜由美は振り返った。

強い瞳の光が何を言っているのか分かった当麻はただうなずいた。

「今日はみんなで好きな物食べて良いぞ」

その声に子供達がわーいとはしゃぐ。

あれやこれやの食べ物の名前が飛び出てくる。

一時の平和が一家族に舞い降りていた。

本当に心配なのはこれからなのであった。