次世代編・新しき日々後編

「きーちゃん」

ふいに千夏は綺羅の手をぎゅっと握った。

綺羅は何のことだかわからない。

扇家に連れて行かれた翌日千夏は舞子達にある公園へ連れて行かれた。

陰鬱な気が漂ってくる。

「千夏ちゃんにはもう見えるのね?」

確かめるように翔子が言う。

うん、と千夏が震えながらうなずく。

そこには気の塊があった。どろどろと負の感情が混じり合った物。

翔子は相棒の舞子に見えるように喝破をかける。

突如としてそこにはまがまがしい気の塊が浮かび上がった。

綺羅が小さく悲鳴を上げて千夏に抱きつく。

「大丈夫。千夏ちゃんのお母さんはこれを見せたかったの。いつかは見てしまうこれをね」

翔子が諭すように千夏に声をかける。

震える手をぎゅっと握りしめる。

「ちーちゃん大丈夫。きーちゃんはちーちゃんが守る」

当麻が亜由美に言っているような強い口調で千夏が言い放つ。

「そこで見てなよ」

舞子が大丈夫と笑いかけて構える。一気に砕破を見舞う。

気の塊はあっというまになくなってしまった。

何故、母が舞子の所に放り込むか分かった気がした。

母はこれを自分でも出きるようになってほしかったのだ。

どうしたらいいのかはわからない。だが、いつか見てしまうこれを怖がらないようにと母は願ったのだ。

よくやったわね、と母の声がしたような気がした。

「きーちゃん。もう大丈夫だから」

綺羅に優しく千夏は声をかける。母が自分から守っていた物を知って千夏は幼いながらも感動していた。母はいつも自分を守っていてくれたのだ。

そう思うと小さな胸にも勇気がわいてくる。

「ちーちゃん。舞子おばちゃまのようになる」

力強い瞳で千夏が訴える。

「それはおかあさんに聞いて見ようね。おかあさんはそこまで望んでいないと思うから」

舞子がぽんぽんと千夏の肩をたたく。へなへなと地面にしりもちをついてしまう。

がんばったがそれなりに怖かったのだ。

よしよしと舞子が千夏と綺羅を抱き上げる。

「もう伊達君のお家に戻って良いよ」

うん、と双子は答えた。

 

千夏の恐怖の声が聞こえてきた気がして亜由美は気が気でならなかった。だが、力の発現を押さえているのには限界がある。千夏は亜遊羅ほどではないがそれに相当する力を持っていた。暴走すれば人を傷つけてしまう力。そんな力を我が子に持たせたくはなかった。だが、現実に持っている。今、見てしまえばいつのまにか力のセーブを自分でも覚えるだろう。何かを見てもいつもおびえて生活する必要はない。その事を学んで欲しかったのだ。どこまで分かってもらえたかはわからないけれども・・・。

亜由美は知り合いの調査室のメンバーの家にやっかいになっていた。当麻と一緒に龍星達を送り出した後こちらにやって来た。千夏が怖い目を見るのにのんきにしていられない。

心の中ではずっと千夏と綺羅を叱咤激励していた。

突然、亜由美の携帯が鳴った。

今か今かと待っていた扇家からの携帯だ。

動揺する心を押し隠して亜由美が出る。

「どうでしたか?」

はやる心を抑えて亜由美が問う。

「大丈夫だったよ。さすがはあゆちゃんの子供。しっかりとできたよ。何をされたのかわかったみたい。それよりもね・・・」

お化け退治のその夜に出来た出来事を舞子は語り始めた。

千夏が舞子に稽古をしてくれとせがんだのでもう一晩預かったのだ。

その夜、綺羅が最初に異変に気がついた。

当麻と夜な夜な空を見上げては天体観測に余念がない綺羅は今日も同じ事を一人でしていた。千夏は疲れてしまったのか眠りこけている。

綺羅の目に異変が映り込んだ。星図にはない星が奇妙に輝いている。

近頃千夏が夢中になっていた意味不明の古文書の星図に似ている。

あわてて綺羅は千夏をたたき起こした。

「なぁに? きーちゃん」

千夏が目をこすりこすり起きる。

「大変よっ。ちーちゃんが見ていた古文書通りの星空なのっ」

その言葉に千夏はがばりと起きあがった。

綺羅と一緒に空を見上げる。

間違いない。古文書に現れていたと同じ奇星が夜空に輝いている。

千夏の警戒警報が頭の中で鳴り響いた。

千夏は持っていた古文書を突如開けたかと思うと読み込みだした。

それは亜由美が吉野に言って貸してもらっている古文書である。

「おかぁちゃまに連絡しないとっ」

しばし古文書とにらめっこしていた千夏は携帯を探し出した。

が、舞子達によって取り上げられていたことを思い出して一気に部屋から飛び出た。子細を聞いた翔子と舞子が相談して亜由美に電話してきたのだ。

「すみませんっ。すぐに千夏を迎えに行きます。綺羅はそのまま当麻の所へ送り込んでそのまま天体観測を怠らないように言って置いて下さいっ」

亜由美は内容を半分聞いたところでそこを飛び出ていた。

同じ都内にいたにしろ、千夏の元に駆け寄る手段をよほどてれぽーとにしたかったぐらいである。

綺羅が見た異変は千夏によって証明された。

また新宿が襲われるのだ。

 

「綺羅っ。千夏っ」

亜由美は扇家へ久々にやって来たかと思うと飛び込んでいた。

「おかぁちゃまっ」

双子が飛び出してくる。綺羅を当麻の元へと言って置いたが綺羅がとどまっていたらしい。

「二人とも無事ねっ。よく見つけたわ。これからはおかぁちゃまとおとうちゃまで守るからしっかりしなさい」

亜由美は我が子をしっかり抱き留める。

一旦落ち着くと亜由美は指示を出す。

「綺羅はそのままおとうちゃまの所へ行きなさい。あそこが一番安全だから。そのまま天体観測をおうとうちゃまと続けなさい。千夏はおかあぁまと古文書のおじいちゃまのところへ行くわよ」

千夏を巻き込むのは考えたくなかったが我が子の古文書への観察眼は自分より優れている。一刻も東京を救う手だてを考えなければならない。

途中で内調の錦織と連絡を取って待ち合わせて置いた。その車に綺羅を乗せる。

自分は途中で千夏と東京駅で降りて奈良の吉野に向かう。

その間に当麻に事情を話し、トルーパーに一応連絡を取ってもらうように連絡した。何かあってはいけない。伊達家ならば都内からも近くまた安全だ。

あそこに一極集中して結界を張っておけば、それで大助かりする。

扇家にも話を付けておく。都内にあるが故に何に巻き込まれるかわからないので一家そろって脱出してもらうように頼んでおく。

奈良に着くなり亜由美は吉野に直行し、屋敷に向かう。

不安そうな千夏を笑顔で励ます。

「千夏はよくがんばったわね。翔子おばちゃまも舞子おばちゃまもほめていたわよ」

言って頭をぐりぐりなでてやる。

聞こえたの、と千夏が言う。

「しっかりしなさいっていうおかあちゃまの声が。きーちゃんをまもりなさいっていう声が聞こえたの」

千夏が必死に伝える。

うんうん、と亜由美は泣きそうになるのを堪えながら答える。

「さすがはおかあちゃまとおとうちゃまの子供よ。よくがんばったわね。おかあちゃまは舞子、翔子おばちゃまのようになってほしいわけじゃないの。いつかああいうものをみたときに力を暴走させて大事な人を傷つけることのないようにしてほしかっただけなのよ。だから安心しなさい。これ以上のことはおかぁちゃまが命を懸けて守るから」

その答えに千夏は涙ぐんでうんっと答えて亜由美に抱きついた。

この母の元に産まれてきてよかったと千夏は心の底から思った。

 

屋敷につくなり亜由美は大声で吉野を呼び出そうとしたがその前に彼は出てきていた。

「やはりお越しになりましたな」

彼の顔は緩やかだ。この非常事態にとは思うが彼は歴史を見守るだけの守り人なのだ。現れた敵と対峙するのは自分たちなのだ。

「綺羅と千夏が見つけたらしいの。早速続行して調査を行わせてちょうだい」

わかり申しました、と吉野はいって屋敷に入っていく。

亜由美は千夏の手をとってその後ろに続いていく。

調査をしてまもなく都内全域に避難命令が出た。

関西からすでに上京しようとしていた亜由美は最後の手段に出た。

交通網は乱れていてこのまま小田原には行けない。

人の目を盗んで亜由美は千夏に目を閉じさせるとテレポートした。

伊達家のある敷地にテレポートする。

そのまま千夏をつれて伊達家に到達する。

真っ先に綺羅が出てきて当麻が後から出てくる。

双子は始めて長期間関西と関東に別れたのだ。双子の絆が深まった一瞬だった。

当麻は亜由美を抱き寄せる。

「無理はしなかったか?」

うん、と亜由美は答える。

「ほとんど千夏が読んでくれたわ。私はこの子をつれてここに飛んだだけだから」

それよりもと駆け出しそうになる亜由美を当麻が抱き留める。

「大丈夫だ。皆、そろっている。あわてなくていい。結界ならかゆがはってくれている」

すぐに代わるわと亜由美が言う。

「かゆには荷が重すぎるかも知れないの。だから私が代わりに張るわ」

その後すぐにでも飛び出ていきそうな亜由美を当麻はだきあげた。

「ちょっと当麻っ。そんなのんきなことしている場合じゃないのよっ」

いいから、と当麻が黙らせる。

その後亜由美と彼らとの間に口論が起こった。

亜由美は亜遊羅としていますぐにでも都内に向かうと言い出したのだ。

結界を張ってさらに出向くなど無謀も良い物だ。自分の力を過信しすぎていると当麻は叱ったががんとして聞き入れない。

「これは今までとは性質が違う物かも知れないの。みんなには後ろで見ていて欲しいの。これは私の仕事よ。みんなの仕事は終わったじゃないのっ」

いきり立つ亜由美にトルーパー達がこぞって反論する。

「俺達のトルーパーとしての新しい歴史も始まってまだ数年だ。阿羅醐だけが俺達の敵じゃないんだ。これからトルーパーとして生きていくと決めているんだ」

遼がリーダーらしく静かに言う。

「でもみんなには家庭があるわ。それはどうするの?」

「お前にも子供が四人もいるくせに何を言うんだ?」

当麻が静かに怒りをにじませて言う。

「お前がいなくなったあの子達はどうなると思っているんだ」

約束したのよ、と亜由美は答える。

「千夏に約束したのよ。命を懸けて守るって。だからこれは私がまずは一人でく。後からみんながきたらいい」

だめだ、と当麻が却下する。

「結界を張るか行くかどちらかにしろ。二つ同時はゆるさん。それからお前を一人で行かせるのも金輪際ゆるさん。お前が行くときは俺も行くと決めているだろうがっ」

「子供達を残して二人していなくなるわけには行かないでしょうっ? 今度のことはいつもの状況とはまったくことなるのよっ」

「母親が子供を置いていく方が子供達にはこたえるとおもうよ」

伸が静かに言う。

その一言で亜由美がぐっとつまる。

「お前は結界を張れ。トルーパーとして五人で行く方が安全だ。いざとなったらテレポートでもなんでもして来たらいい」

当麻の一言で亜由美の言葉は封じ込められた。

 

五人が戦いに赴いて数日もしない内に千夏は子供部屋で飛び起きた。

真っ先に亜由美の元へ駆け込む。

「おかぁちゃまっ。おとうちゃまがっ」

千夏の目に涙があった。

亜由美も唐突に起きた出来事にまだ信じられなかった。

夫の気配が仲間と同時に消えたのだ。

そこへ飛び起きた瞬間千夏が飛び込んできたのだ。

亜由美は即座に判断を下していた。

「いい。千夏。おかあちゃまは今からおとうちゃまたちを助けに行く。だけどここが危なくなったらこの人達に助けてもらいなさい」

十二神将達が亜由美周りにあつまる。そして錫杖を出すと千夏に預ける。

「これはおかあちゃまのだいじな宝物なの。これでこの人達に命令しなさい。守って、と。かゆおばちゃまがいるから大丈夫だと思うけれどもそれでも危ないと思ったら千夏がこの人達と一緒に綺羅達を守るのよ。いいわね」

いつもよりもきつい口調の母に綺羅が飛び込んできた。

「おかあちゃまもいっちゃやだっ」

大丈夫、と亜由美は答える。

「きっと帰ってくるから。ナスティおばちゃまやかゆおばちゃまと一緒に待っていなさい。絶対に帰ってくるから」

亜由美にはそれが確かかどうかは分からなかったが今は彼らだけでも助けなくてはならない。

「綺羅も千夏も強い子でしょう? おかちゃまとおとうちゃまの自慢の娘達なのよ。気をしっかり持ちなさい。おかちゃまはおとうちゃまをつれて絶対に帰ってくるから」

強い気持ちを表して亜由美は言う。かつて自分は一人で戦い一人で死ぬつもりでここを出ていった。だが、今回は違う。この子達、夫達を守るのだ。何一つない平和な時間を導くのだ。

死ぬのではない。生きて帰ってくる。亜由美の心は強く決心していた。

千夏が亜由美にしがみついている綺羅の肩に手を置く。

「大丈夫。おかあちゃま、無敵だから。きっと帰ってくる。その間、ちーちゃんがきーちゃんを守って上げる」

静かな亜由美に似た声で千夏が綺羅を説得する。

綺羅はようやく亜由美から離れる。

亜由美は二人を抱きしめるとそっと伊達家を抜け出した。

鎧姿に変わるとすっとテレポートした。

翌朝、双子達によって亜由美が出ていったことを迦遊羅達は知らされたのだった。

 

亜由美が出ていってもう何日も経つ。

いらいらとしながら迦遊羅は待っていた。

自分の結界は姉のものに比べるとたわいもない。

それでもここにいる子供達を守って姉の帰りを待つしかない。

自分も飛んでいきたかったがそれでは無理なのだ。

姉ならなんとかする。妙な確信が迦遊羅にあった。

あの姉ならば何事にもうち勝つであろうと。

当麻と一緒の亜由美ほど強い物はいないのだ。

ある日、静かな昼下がり、テレビからはひっきりなしに都内の異変をレポートするニュースが流れている。

そんなサブリビングではなくて千夏達はリビングで遊んでいた。

ただし、家の外には出ないことと言い渡されてじっとおとなしく家で遊びに興じていた。

ふいに周りの静かな気配が犯された。

千夏はびくりとした。

冷え冷えとした気配が屋敷の中にただよってくる。

都内に広がっていた異変は小田原周辺にも出てきていたのだ。

千夏はすっくと立ち上がった。

亜由美に以前聞かされていた。綺羅はいつもは冷静で強いがいざとなると本当に強いのは千夏なのよ、と。だから何かあったときは千夏が綺羅達を守りなさい、と。

今がその時なのだ。

千夏は母の置いていった大きな錫杖をずりずりと持ちだした。

小さな子には手に余る大きさだ。

それを力強く持つ。

おかぁちゃま守って、と千夏は力強く願う。

冷え冷えした気配が子供達に群がってくる。

どろどろとした怖い気配。

千夏はさけんだ。

「守ってーーーーーーっ」

ぱんっとリビングの窓が割れた。

その瞬間錫杖から光が現れてその気配を追い払った。

「ちーちゃん?」

おびえた目をして綺羅が問う。

千夏は気配が消し飛んだのを確認するとへなへなと床に座り込んだ。

音を聞きつけて飛んできた迦遊羅が目にしたのは座りこんだ千夏の前に十二神将たちが頭をたれている姿だった。

 

それから数日して都内の警戒警報が解除された。

とそれと時同じくして亜由美は夫達を引き連れて戻って来た。

真っ先に走ってきた千夏を抱きしめる。

「よくやったわ。えらかったね。あの人達はこれから千夏を守ってくれるわ。彼らもあなたの力を認めたのよ」

亜由美にはすでに力を発揮した千夏に契約が移行されたのを知っていた。

千夏に危ない目をさせたくはなかったが彼らには仕える主を決める権限があった。

千夏はもしかすると亜由美を越える人間かも知れない。

ただ普通に生きて欲しいけれど、と亜由美は思ったが。

夫には後で謝るしかない。でもこれで我が子を守る事もできるのだ。

安心した亜由美は千夏を抱きしめたまま眠りに落ちていった。

 

はっと目を覚ましたのは夜中だった。いつの夜中かはわからない。

帰ってきて千夏を抱きしめたのは覚えいている。それから意識がない。

ふいにてに小さく握られている手を感じて亜由美は微笑んだ。

千夏達が一斉に椅子を引き寄せてその周りで眠っていたのだ。

隣のベッドを見ると当麻がすやすやと眠っている。

亜由美はそっと子供達の名を呼んだ。

体を起こすとまだ重い。ことのほか激しかった戦いの性だ。

子供達の目がぱっと開いた。

ベッドの周りがいっせいにうるさくなる。

「こらこら。おとうちゃまを起こすでしょう?」

亜由美がささやくと子供達は一斉に泣き出した。

一番大声で泣き出したのは綺羅。

亜由美は綺羅をぎゅっとだきよせた。

「大丈夫よ。おかあちゃまは生きているでしょう? お約束したとおりに帰ってきたでしょう? 泣きたいときは大声で泣いても良いけれど本当に泣きたいときのために涙は取っておく物よ」

泣き虫の亜由美に似合わない台詞を聞いて起きあがった当麻がぷっと笑い出す。

「綺羅もお前には言われたくないと思うぞ」

言うと起きだして亜由美を力強く抱きしめる。

よかった、と呟いて肩をふるわせる夫を亜由美は抱きしめ返した。

「まだまだ働いてもらわないとこの子達成長できないんですからね。しっかりがんばってよね。おとうちゃま」

亜由美が言うとああ、と一言答えが返ってきた。

 

数日間、亜由美はベッドの住人となった。

みんなでこぞってベッドから出ることを許さなかったのだ。

結局行方不明になったトルーパー達を助け異変を納めたのは一人亜由美だけだった。

その一人でつっぱしったことが皆に恨まれて一斉に安全第一をいいわたされたのだ。

その亜由美の側を綺羅は浮かぬ顔でひっついていた。

普段は父親っ子なのに、こう言うときに限って綺羅はひっついてくる。

だが、こんな浮かない顔は初めてみる。

どうしたの?と皆がいない、ベッドの上で亜由美は綺羅に問いかけた。

「綺羅もおかぁちゃまの子になりたい。千夏はおかぁちゃまそっくりなのに綺羅は似ていない・・・」

辛そうに綺羅が言うのを見て亜由美はそっと耳打ちした。

亜由美の秘密の名前をそっと教えたのだ。

「綺羅だけなのよ。この名前と同じ字を持っているのは。綺羅もおかぁちゃまの大事な子。大事な天使よ。だからもうそんな悲しい顔はしないでおとうちゃまの側で笑っていてね」

亜由美が微笑むと綺羅はようやく笑顔を取り戻したのだ。

 

もうこれで平和な時が過ぎてれくれればいいけれど・・・亜由美はそっと心の中で心配する。

わが子達になめられては逆上する母親でありたい。もうこんなつらい事は味合わせたくない。

願っていると亜由美の枕元にかつての先代の長がたった。

“これから何百年かは平和なときが訪れよう。その時になればまたそなたが皆を守ってやるがよい”

亜由美は安堵して今度こそゆっくり眠りに落ちていった。

 

「綺羅、千夏、龍星、真矢、ホームズとワトソンの散歩に行くわよー」

真夏の暑い朝、亜由美の明るい声があった。

子供達がばたばたと動き出す。

当麻はその声を心地よく聞きながら惰眠をむさぼる。

愛ある生活はまだまだ長続きしそうだった。