Vivid boys and girls スクールデイズ

朝、一番に起きるのは征士。なんとも朝五時に起きて近くの空き地で素振りをする。

戻ってくると服を着替えて新聞を読みふける。

次に起きるのはナスティと伸。ほぼ同じ時間だ。

ナスティが朝食を作り、伸は弁当を作る。

その次に迦遊羅が起き、夜更かしでなかなか起きない亜由美を起こす。

悠然とダイニングルームへやってくる迦遊羅と対照的に亜由美はばたばたと走ってくる。

最後に起きるのが当麻。伸と征士が二人がかりで起こしてつれてくる。

そうして騒がしい朝食が始まる。

テーブルには各個人の御弁当がおいてある。

緑が征士、青が当麻、水色が伸、ピンクがナスティ、オレンジが迦遊羅である。

残る亜由美は黒。

ほぼ一年、休学状態だった亜由美が高校入学の際、弁当の入れ物の色を考えた所、こうなってしまった。

はじめは寒色系を選ぼうとしたがそれでは男三人と重なる。かといって暖色系もあまり色は残っていない。

それに亜由美は自分の色は闇色と思っていたことがあったから自然にそうなってしまった。もっとも少女らしい趣味を発揮して上蓋には和風の猫の絵が描かれている。

それを持って学生が早く家を出る。

伸とナスティはそれぞれ自分の車で職場である高校に向かう。

一家そろって同じ高校にいることになっているが、その六人が一緒の家に住んでいることは一部の人間しか知られていない。

たとえば、征士と当麻が同居しているだとか迦遊羅と亜由美が双子で一緒であるというぐらいの事実は知れ渡っているが。まぁ、学生四人がまとまって登校するからこの四人は同居しているというのも知られている。

そこでいつも亜由美は肩をせまくして登校する羽目になる。

なんと言っても校内三大アイドルのうち、二名と同居の上、一緒に登校するのだ。

自然とまわりの女子学生のすさまじい視線をあびることになる。

当麻と許婚と言う事実は学生の中ではほぼ知られていない。

知れたらただではすまないだろう、と亜由美はいつも思う。

しかし、最近どうも噂が立ち始めているようだった。

二人は付き合っているのではと言う噂が立って視線はいよいよ最悪な状態だった。

 

わー、と家を出た亜由美は歓声を上げた。

昨夜、降った雪がほんの少し積もっていたのだ。

うれしそうに門を飛び出て、滑って転ぶ。

「いたいー。すんすん」

泣き言を言う亜由美の腕を当麻が苦笑いしながら引き上げる。

「はしゃいで飛び出すからだろうが」

その様子に征士も迦遊羅も笑いを禁じえない。

「姉様、スカート大丈夫ですか?」

迦遊羅がハンカチを差し出す。

「うん。ちょっと濡れちゃった。ハンカチ持ってるからいい。ありがとう」

亜由美は迦遊羅に微笑むと自分のハンカチを取り出してスカートを適当に拭く。

亜由美が乱れたスカートを直してようやく四人は登校の路につく。

当麻が亜由美の手を握って亜由美は慌てる。

「だめだって。見られたらどーすんのよっ」

「それでまた転ぶのか?」

じとっと当麻に睨まれて亜由美が黙る。

寝起きの悪い当麻は朝、すこぶる機嫌が悪い。上に亜由美が怪我などしようものならとたんに不機嫌になる。

今朝は怪我をしなかったが少なくとも一つと半ぐらいの不機嫌は覚悟しないといけないようだった。

内心びくびくしながら亜由美は当麻に手をひかれて歩く。

一応、電車通学だからこの辺りには同じ高校の学生はまだいない。

まだ安心圏内だ。

てくてく歩くうちに駅に着く。

いつもの時間通り、いつもの電車に、いつもの場所に乗る。

朝の都内の電車は生き地獄だ。ぎゅうぎゅうに詰め込まれる。

早めの電車に乗ればいいが、それだとどうしても亜由美と当麻が乗り遅れてしまうために結局ジャストタイムの電車に乗ることになる。

執念で亜由美は電車に乗ると反対側のドア付近に陣取る。そうでないとどうしても降りられないから。

その亜由美が押しつぶされない様にさりげなく当麻が守る。

後から乗ってきた征士は迦遊羅を守ることになる。

二人のナイトと姫君という状態だ。

もっともこれが彼らの間の正しいカップリングと言うわけではない。

しかし、半分は当っているわけでそれに隠していても当麻と亜由美の仲むつまじさは隠しきていない。

結果噂になってしまっているという事を当人達はまだ理解していない。

征士と迦遊羅の場合はどちらも相手が違うためにどうしても先輩と後輩という雰囲気から抜け出すことはなく、二人は常に安心圏内だった。

駅を降りて学校へ向かう。

流石にこの頃になると亜由美は一人離れて歩き出す。

が、今朝は当麻が亜由美の腕を掴んで離さなかった。

離してとぎゃぁぎゃぁわめく亜由美を当麻が一喝する。

「滑って転んで頭でもうったらどーするんだっ。それでなくてもお前は生傷が絶えないんだからなっ。

お前があくまでも離れると言うならこっちにも手があるぞ」

脅されてしぶしぶ亜由美が当麻に従う。

段々、道に学生が増えてきて視線が集まってくる。

しかも、今朝は亜由美と当麻の状態に殺気すら感じられる視線が集まる。

途中で四人は当麻達の級友と合流する。

同じく双子の女の子と三大アイドルの一人だ。

有名人がぞろぞろ登校する図はすでにこの高校の見所の一つとなっている。

それに付き合わされる普通人亜由美の気は教室に着く頃にはもうくたくたになる。

迦遊羅もその美しい容貌から有名人の仲間入りを果たしているからだ。

唯一目立たない学生というのが亜由美であった。仲間内では巨大な猫かぶりと言われている。

校門のところに入るとそこにはアイドル達を待ちうける学生がうようよしている。

いつもは黄色い歓声を後ろに聞きつつ、すっと通りすぎてしまうのだが、今日はそうは行かなかった。

なんといっても当麻が亜由美の腕を離さなかったからだ。

いつもと違う状態に一瞬学生達の動きが止まるが、バレンタインの翌日ともあってか勇気ある女子学生がチョコを手に当麻達に近づく。翌日だろうがなんだろうが、女子学生も必死なのだ。

それを丁寧にアイドル達は断る。

それでいつもは過ぎていくバレンタインの翌日だが、今回は違った。

噂がたっている二人がぴったりくっついているのだ。一人の女子学生が尋ねる。

「羽柴先輩ってその子と付き合っているって本当ですか?」

問われて、一瞬当麻が考え込む。

その子呼ばわりされてしまった亜由美など顔面蒼白だ。

はい、と言えばこの場が収拾つかなくなる場合もある。

だが、いいえと言ってしまえば嘘になる。亜由美のことを好いている自分を否定したくはない。

ので、当麻は肯定した。

「申し訳ないがそういう事だ。だが、言っておくが、あゆに手を出したら俺は女の子だろうが後輩だろうが容赦しない」

静かに、だがしっかり釘をさして言う。その場が騒がしくなる。

痛いほどの視線に亜由美は泣きそうになって思わず当麻の背中に隠れてしまう。

これからの事を考えると恐ろしくなる。

「こらこら。あゆちゃんをいじめたら私だってただじゃおかないよ」

先輩双子の舞子が加勢する。

その明るい声に凍りついた場の緊張が解ける。

そのすきに有名人達はさっさと教室へ向かった。

それぞれがそれぞれの靴箱へ向かう寸前、当麻が亜由美にささやく。

「悪かったな、ばらして。何かあったら携帯でもなんでもいいから俺を呼べ」

うん、と亜由美が小さく頷く。

今日から戦争が始まる、と亜由美は思いながら教室へ向かった。

亜由美はいつもよりも気配を消して教室へ入りこむ。

亜由美はどうもこの学校と言うのが苦手なのだ。

あまり人に干渉されたくないという思いが先行してしまう。人嫌いではないが詮索好きな学生が苦手なのだ。

自分のことを話すのはあまり好きではない。

だから気付かれない様に席に着いて静かに大人しく授業を受けるのだ。

しかも今日は当麻の交際宣言のおかげで何を言われるかわからない。

ひたすら人の視線をひきつけないように静かに席に着く。

ついてほっとため息をつく。

席に着けばなんとなく自分の居場所にたどり着いた気がするからだ。

だが、当麻の交際宣言はあっという間に校内を駆け巡った。

ただ、当麻の脅しが効いたのか親衛隊とも言えるファンからは呼び出されると言う事態にはならなかった。

ただ、恋愛に興味を持っている女子学生に囲まれる。

いつから付き合っているのかとか、なぜ同居しているのかとか答えられないような質問が次々に発せられる。亜由美は休み時間ごとに苦慮して答える羽目になった。

 

昼休み亜由美は逃げる様にして当麻達がいる中庭に向かおうとして戸惑った。

雪は暖かい日によって溶けてはいるが地面はまだ濡れている。こういう場合は校内の食堂に行くことになっているが、そこでかなりの視線を集める事態を予想して足がとどまる。そこへ珍しく迦遊羅が呼びに来る。

「姉様、御昼に参りましょう」

にこにこ微笑む迦遊羅に付き添われて亜由美は弁当を手に当麻達の元へと向かった。

席に着くなりぼそっと当麻に悪態をつく。

亜由美が困り果てている様子を察していた当麻は甘んじてそれを受け止める。

「何かされなかったか?」

心配げに当麻が問う。

昨夜、亜由美がいじめられそうとこぼしていたのをきにしていたから。強気に出ろとは言って置いたが当の亜由美がそう振舞えるとは思えなかったのだ。

「大丈夫。当麻先輩がちゃんと守ってくれたから。ありがとう」

幸せそうに亜由美は微笑む。亜由美はそれぞれを名前プラス先輩と呼ぶ。入学当初に羽柴先輩と呼んで思いっきり当麻にいやがられたのだ。

呼び捨てにしろといわれて折衷案としてこの呼び方に決めた。

そっか、と言って当麻も微笑む。

その仲むつまじさが噂を立てたというのに相変わらずの様子にメンバー一同あきれると同時に微笑ましく見てしまう。

「幸せそーでいいなー」

舞子が定食をがっつきながら言う。

「扇にも相手いるだろう?」

当麻が答える。

「えっ? 誰?」

舞子がきょろきょろ周りを見まわす。

「ほら、そこでカレー食べている奴、とか」

当麻が向側でカレーを食べている近江を指す。言われた近江が咳き込む。

舞子が大声で驚く。

「相変わらず騒がしい奴だな。扇と池田ならぴったりだと思うが?」

当麻の言葉に当の本人達以外は力強く頷く。

その言葉に二人が困り果てる。

「あまり先輩をいじめてはいけませんよ。羽柴先輩」

迦遊羅がフォローに回る。

わかった、と言って当麻が話を変える。

「今日、遼来るのか?」

その問いに迦遊羅が頷く。

今日は遼の高校ところの高校のサッカー部で練習試合が行われるのだ。

遼はとっくに引退していたが、元主将という名目で来るのだった。

「じゃぁ、チョコ手渡しできるんだ。よかったね」

亜由美が自分のことの様にうれしそうに言う。その言葉に迦遊羅が顔を赤らめる。

「あゆちゃんは渡したの?」

双子の片割れ翔子が問う。その言葉に昨夜の事を思い出して亜由美が真っ赤になりながら頷く。

「ほう、今年は本命なのか?」

以前のいきさつを知っている征士が問う。もちろん、と当麻が顔をほころばせながら答える。

「そーいう征士はどーなのよ。せーじは」

当麻がぼろぼろ話し出さないうちに亜由美が矛先を変える。慌てて聞いたため先輩扱いするのを忘れている。征士はうむ、とだけ答える。

「柳生先生の手作りチョコはおいしかったー?」

その答えにも征士はうむ、とだけ答える。顔色は変わっていないが照れてそれだけしか答えられないのを亜由美は知っていた。

「照れちゃってかわいいー」

かわいい、をひたすら連発する。亜由美が調子に乗っているので当麻が止めに入る。

「お前、征士をからかうと後が怖いぞ。素振り百回とかさせられるぞ」

言われて亜由美がからかうのをやめる。朝の五時からそれはしたくない。

「じゃぁさー。今日、遼が来るんなら、当麻先輩と征士先輩と一緒にサッカーやって」

唐突の言葉に二人が顔を見合す。

「時間があればな」

当麻が軽く言い聞かす。

「絶対やってー。かゆ先輩だって遼のりりしい姿みたいよね?」

迦遊羅が言われて頷く。

「柳生先生だって征士先輩の凛々しいお姿拝見したいと思うなー」

その言葉に征士が一瞬考える。

当麻が亜由美の頭をぽかりと叩く。

「お前の見る相手は違うだろうが」

「私はもちろん当麻先輩だよー。だって弓ひく当麻先輩見れなかったんだもん。サッカーぐらいいいでしょう?」

人数が足りない、と当麻は答える。

「奇数人数でどうやってするんだ?」

言われてうーんと亜由美が考え込む。亜由美と当麻以外が一人物に視線を向ける。

「俺か?」

近江が驚いて答える。

「いいじゃない。久しぶりに一暴れしたら?」

「人助けもいいかもしれないわね」

先輩双子に言われ、さらにもう一組の双子もお願いと言わんばかりにじっと近江をみつめる。わかった、と近江が答えると亜由美と迦遊羅が喜び合う。

「じゃぁ、かゆ先輩は絶対に柳生先生呼んできてね」

亜由美の頼みに迦遊羅は嬉々としてうなずいた。

 

当麻はコネを使ってサッカー部の主将に一時グラウンドとボールを貸してもらうことを頼んだ。遼には征士が話をつける、という手はずだった。

が、めったにない機会とばかりにサッカー部の主将はエキシビジョンマッチに変えてしまった。しっかり向こうにも連絡をとって元三年生サッカー部員プラス三大アイドルというチームを編成してしまった。向こうも元三年生サッカー部員と遼という具合だ。おまけに校内放送まで使って宣伝されてしまう。三大アイドルというのは校内で勝手に決められただけで当麻達は事あるごとに回りの手から逃れていた。したがって部活動以外の目立つような表舞台にはほとんど立っていない。それゆえに余計に面白がられてしまったのだった。

半ばやけになった当麻と征士は身内は全部巻き込んでしまえ、と伸も引っ張り出した。

もうほとんどドリームチーム状態である。ファンからもよだれが出そうなメンバーである。当の亜由美にしてみれば秀がいなくてもの足りないがいたしかなかった。

 

放課後、鈴なりの群衆の中でゲームがはじめられた。

言いだしっぺは亜由美と言うことで亜由美は特等席で観戦することを許された。

しかも、きっと派手に騒いで何を言い出すか分からない亜由美のことを考えた当麻は根回しして回りのファン達から隔離してもらった。

亜由美の周りにいたのは先輩双子、迦遊羅、ナスティである。

案の定、興奮した亜由美は当麻、征士、伸を先輩、先生扱いするのをすっかり忘れて呼び捨てで応援する。

「いけいけー、征士っ。そこだっ。ボール取れっ。伸にパスっ。近江先輩シュートっっ」

普段学校で大人しいはずの亜由美が派手に騒ぐ声を聞いて当麻はやはり根回ししておいてよかった、と胸をなでおろした。

しかしそれにしても一向に自分を応援しない亜由美にいささか不機嫌でもあった。

まぁ、あいかわらずサッカーと雖も結局軍師役に徹しているから目立つ動きはないから当然とは言えたが。

ふてくされていると遼がドリブルをしてくる。

「当麻っ。ボール取ってっ。絶対取ってっっ」

その声を聞きながら当麻と遼はボールを取り合う。

すばやさでは遼が上である。

が、当麻には智力がある。フェイントをかけて当麻はボールを奪う。そこへ亜由美が無茶を言う。

「当麻っ。ロングシュートしてっっっ!!!!」

無茶言うなよ、と呟いてしかたなくドリブルをする。

走ってきた征士にパスする。征士にも亜由美の声が聞こえていたのだろう。

目配せをすると走りながら間合いを取って再び当麻に送ってくる。

当麻はシュートを放つ。

見事に決まったシュートに亜由美が傍らの迦遊羅の肩をつかんで揺さぶる。

「今の見たっ? 今のっ。とーまのロングシュートよっ。きゃー。とーま。もう一本決めてーっ」

迦遊羅にしてみれば折角の遼のボールを奪われて点を入れられたのだから面白くないはずだが、それよりも姉の興奮振りに参っていた。

「あ、姉様。落ち着いて。そんなに騒ぐと頭に血が上りますから・・・」

迦遊羅は遼を見る所ではない。姉が今にも卒倒しそうで心配でしょうがない。

もう一人、騒いでいる人間がいる。舞子だ。もっている闘争本能に火がついたかのように声援を送る。やはり、翔子があきらめた様に舞子の隣にいる。

迦遊羅と翔子はしかたなさそうに視線を交わす。

「お互い苦労するわね」

翔子が苦笑いしながら言って、迦遊羅はええ、と答える。その間にも二人は派手に騒ぐ。

「かゆっ。ちゃんと遼にエール送らないと駄目だよっ」

もはや応援する気力をなくした迦遊羅に気付いた亜由美が言う。わかってはいるのですけど、と迦遊羅がぶつぶつ言う。

「ほら。遼ちゃんがんばってーっ、って」

促されて迦遊羅が言葉を口にする。

「遼、がんばってくださーい」

言われた遼はうれしそうに迦遊羅に手を振ると大きくゴールを決めた。ゲームは白熱したが、接戦で遼たちのチームが勝った。元々、全国大会一位のチームである。半分素人チームが接戦したほうがすごいと言える。

無事試合を終えた遼たちが亜由美達の元へ帰ってくる。

帰ってくるなり当麻が亜由美の頭を叩く。

「お前ねー。俺より他の奴ばっかり応援してただろう? 婚約解消するぞ」

やや不機嫌に当麻が言う。別段、このメンバーには関係が知られているから何を言っても構わない。

「ちゃんと応援したでしょう? 後半からだけど。とーまがいけないのよ。相変わらず軍師役なんだもん。もっと派手に動いてよね」

言われて流石に当麻が苦笑いをする。自分はどうも表立った動きをする人間でないから、言われることもしかたない。

でもねー、と亜由美が付け足す。

「てきぱき指示与える当麻もめっちゃカッコ良かった」

特大のハートマークを飛ばして亜由美が言う。

「でねっ。でねっっ。あのロングシュートの当麻は激カッコ良かったっ。永久保存シーンよっ」

言って当麻に飛びつく。

そうか、と当麻は機嫌を直して亜由美を腕に抱く。

惚れなおしたか、と当麻が尋ねるとうんっっっ、と大きな返事が返ってきて当麻はようやく満足した。

「なんだかこの二人のために動かされた気がするな・・・」

大勢の人間の前でいちゃつく二人を心配してさりげなく外野の視線からかばっていた征士がつぶやく。

その征士にナスティがうれしそうに微笑みかける。

「皆、格好良かったわよ」

ナスティは征士だけを見つめながら言葉を言う。その視線にまた征士はうむ、とだけ答える。

「相変わらずだな」

遼がさりげなく迦遊羅の側に来て言う。

「もう、毎日家中大変です」

迦遊羅がやれやれと肩をすくめる。

「困っているのは僕なんだけどね・・・」

征士と同じくいちゃつく二人をかばっていた伸が言う。

「伸も気苦労が多いな」

遼が微笑い、まったく、と伸が答える。ようやく当麻と亜由美が離れる。

気を良くして思わず当麻がキスしそうになったため慌てて亜由美が離れたのだ。離れた亜由美がめっ、と当麻を叱る。

ちぇ、と当麻が再びすねて遼たちの笑いを誘った。

「キス魔当麻は健在なんだな」

笑いながら遼が言う。

「そう言うなよ」

「その通りであろう?」

「ほんっとにそうだよねぇー」

当麻が否定すると征士と伸が反論する。

「人前ではしてないはずだが?」

当麻が言う。

「いわゆる口にするキスはね・・・。その他のキスはしっぱなしじゃないか」

伸がうんざりという具合に言う。聞いてくれるかい?、と伸が遼に言う。

「当麻ってば、おはようやらおやすみやらなにかにつけてあゆを抱きしめてはキスしているんだよ。

こっちが恥ずかしいって」

いくら慣れたといっても当てられっぱなしは精神的によろしくない。征士も同意して頷く。

「いよいよもって軽薄振りに拍車がかかった」

「いじめるなよ」

征士の言葉に当麻がわざといじける。

「さっき、当麻にこき使われたからね。ささやかなし返しだよ」

伸がニヒルに微笑う。

「あー。私も一暴れしたいなぁ」

始まった練習試合を見ていた亜由美がぼそっと呟く。

その言葉に関係者が顔色を変える。

見ると亜由美は動きたくてうずうずしている。

普段は普通の女子高生を演じているがためエネルギーが有り余ってしまうのだ。

最近は仕事の第一線から退いているので発散する場がなかった。

「好きなだけ遊んでやるから、それだけはやめてくれっ」

代表して当麻が頼み込む。

「それだけって・・・。別に破壊行為するわけじゃないんだけど・・・?」

亜由美が苦笑いして答える。

「お前の暴れる、は得てしてそうなんだ」

当麻が断言し、関係者一同頷く。

「もう、そんな無理しないって」

そう言う亜由美を当麻達は不信そうに見つめる。

「あー、わかったから。大人しくしてるからっ」

しかたなさそうに亜由美が叫ぶ。

「そんなに暴れたければ家来る?」

やりとりを不思議そうに見ていた舞子が言い出す。

えっ?と亜由美が舞子を見る。

「小さな道場みたいなのがあるから、遊びに来たら?」

その言葉にうれしそうな顔をした亜由美を見た当麻が思いっきり却下する。

「絶対に行くなっっ。他人の家、壊すなっ」

その慌て振りに舞子たちは怪訝な顔をする。

「壊さないのに・・・」

残念そうに呟く亜由美に関係者一同が異口同音に止める。

「絶対に止めろよっ。絶対にっ」

「いい子にしたらプリンいくらでも作ってあげるからっ」

「御願いだから無茶はしないで頂戴」

「姉様、暴れるなら私がお相手しますから」

「お、俺が手合わせするから・・・」

あまりの慌て具合にやはり、舞子達が首をかしげる。

「こいつが通った後には草一本生えていないんだ」

当麻がそのすさまじい破壊力を説明する。

「私は破壊神?」

苦笑いしながら亜由美が呟く。

「まぁ、遼とかゆが手合わせしてくれるならそれで手を打つけど?」

亜由美の剣は二刀流。対するなら遼か迦遊羅しかいない。征士とも対することも出来るがあまりそれは好んでいない。やはり、剣筋は征士に及ぶものはいないからだ。亜由美は二人同時に合計四本の刀を相手にするつもりらしい。その意図を間違いなく汲み取った当麻が舞子たちに説明する。流石にそれを聞いた三人は絶句する。外見は恐ろしく普通のか弱い女子高生風の亜由美がそれほどの力量とは信じがたい。

舞子は思わず行動に出た。

あゆちゃん、と名を呼んで側に来させると合気道の気をつかってこつんと額を突く。

普通ならこれで相手は倒れるのだが、亜由美は平然と立っていた。

うそ、と舞子から驚愕の言葉が漏れる。

んー、と亜由美は言って額に手をやる。

「ちょっと効いたかな。やっぱ、舞子先輩だなぁ・・・」

合気道、と亜由美が言いかけて当麻がきっぱり却下する。

「お前はこれ以上強くならなくていい」

「気の使い方覚えたら少しはましになると思うんだけど・・・」

「ならん」

「ならぬ」

「ならない」

「なりません」

「ならないと思うわ」

またも一斉に否定されて亜由美が膨れる。

「皆は用事が終わっていいだろうけど、私はまだ用事が残っているんだからね。

自らを鍛えるのも必要でしょう?」

「本当にほんとーに間違いを起こさないならほんっの少しだけ許可出してもいいが、基本的には出したくない。お前が何がなんでもしたいと言うならどうしてもと言うなら少しだけ考えてもいい」

「そこまで言われたら大人しくするしかないじゃない」

亜由美が言う。

「でも、久しぶりだから遼とかゆには今度手合わせしてもらうからね」

楽しそうな亜由美に対して遼と迦遊羅はぎこちなく頷いた。

「本気出さないでくださいね・・・」

わかったわよ、と亜由美がしぶしぶ納得する。

いつのまにか練習試合は終了していた。