クリスマスケーキ1

なぁ、と秀は傍らの伸をこづいた。

なんだい?、と伸が答える。

「あの、二人一体どうしちまったんだ?」

小声で尋ねる。

あの二人とは秀のほぼ前にいる当麻と亜由美だ。

「いつもの通りだよ」

伸がこともなげに答える。

「いつも・・って」

言って秀が絶句する。

会話の贄とされている二人は秀から見ると異常なほど仲がいい。

先ほどなど、揚げたての春巻きを口にしてやけどしそうなった亜由美を見て、

当麻がその春巻きを自分の息でさましてやっていたのだ。

この調子ではいつ、あーんと口を開けて食べ物を食べさせあうかわからない。

いくらなんでも仲間内とはいえ、そこまでいちゃつくだろうか。

秀にとっては二人の様子は劇的変化であった。

確かに昔から仲はよかった。

が、どこか亜由美が当麻を避けているふしがあった。

その癖、次々に問題に当麻を巻き込み、秀としては腹立たしかったのだ。

一度などは当麻の命さえ危ぶまれたのだ。

大事な仲間を奪われそうになった秀としては許しがたい。

そんな事で秀と亜由美は仲が悪かった。

その仲の悪さもこの夏の終わりに解決したのだが。

夏、遼の誕生日にいつものメンバーが集まった。

その後、皆、ナスティの小田原の家で合宿生活が始まったが、数日もしないうちに、亜由美は帰ると言い出し、当麻がそれに付き合ったのだ。ほっておけばいい、という秀に対して当麻は悪い、と一言言って帰ったのだ。

それから一週間とちょっとしてまた当麻と亜由美が小田原に戻ってきた。

しかも、秀の誕生日が九月で学校が始まるから今のうちにケーキでもと言って亜由美の手作りケーキを持ってきたのだ。普段、およそ料理とは縁遠い亜由美が作ったと言うだけで驚くのに、そこで      亜由美は今までの非礼を許して欲しいと秀に言ったのだ。

秀は飛びあがるほどびっくりした。

わびを入れる亜由美は頼りなさげで、今まで皆を邪険に扱ってきた様子など皆目見られなかった。

そしてほんとうに小さな、今にも消え入りそうな声で当麻を時々貸してほしいと言ったのだ。

二人は皆に語った。

亜由美が亜遊羅として動くときに当麻を巻き込んで皆が嫌でないかと率直に聞いたのだ。

当麻は巻き込まれるのではなく、自分から首を突っ込んでいるんだと言ったが。

皆、それぞれの答えを出した。

だが、共通点は亜由美が皆の元へ帰ってきてくれたことを喜ぶ声であった。

二人で考え込むのではなく、皆に相談した。

それは亜由美が築いていた壁を取り払って皆に心を開いたと言う証拠であった。

秀も別に心底嫌っていたわけではない。

わびを入れる女の子にわざわざ目くじらを立てるほど秀も心は狭くない。

二人が直面している難しい問題は秀にとってあまり理解できなかったが、少なくとも今後、亜由美が独断行動を取るつもりもなく、当麻を避け、自分達を避けるつもりがないことは理解できた。

秀はやや照れながらぶっきらぼうに仲直りしたのだ。

そのとき、泣かれて大いに困った。

なんせ、自分が答えを告げ、仲直りの握手の手を差し出したとき、ぼろぼろ泣き出したのだ。

後から聞くと自分との関係のことをかなり悩んでいたらしい。

それから当麻との仲も変わったらしい様だったが、横浜の実家にいる秀はそれをまともに目にするのが今日までなかったのだ。

「あいつらもう結婚でもしてんじゃねーの」

半ばやけになって言う。

二人ののりはもう新婚ほやほやと言ったところである。

見ているほうが恥ずかしい。

「さぁね。でも本格的に自分達で婚約したらしいよ」

言って伸は亜由美の手を見た。

つられて秀も見る。

亜由美の左手の薬指には青い小さな石がついた指輪がはまっていた。

「気付かなかったのかい? 夏の終わりに小田原へ来たときにもうはまっていたよ」

そうなのか?、と秀が驚く。

「あの夏の一週間で何かあったらしいね。今は当麻もあゆもいい顔しているし、それでいいんじゃない?」

「お前、あんなの毎日見て平気なのか?」

うんざりしたように秀が言う。

「慣れだよ。慣れ。別に喧嘩しているわけじゃないし、いいと思うよ。それにあゆの精神状態も安定したようだから」

伸は平然と言ってのける。

その時、亜由美がエビチリを食べて感涙にむせんでいるのが眼に入った。

その素直な反応にやはり秀は驚いた。

以前、彼女は気持ちを本当に押し隠していたからだ。

それを心の奥底まで察知できるのは当麻以外にいない。

何はともあれ、やはり店の料理をおいしそうに食べてもらえるのはうれしい。

今は、クリスマスパーティを秀の店でしているのだ。

クリスマスに中華はいささか変だったが、店を安く使えるし、秀も店を離れずにすむためここに決まったのだった。

感動していた亜由美が秀に声をかける。

ややびくついて秀が答える。

別に怖いわけではなかったが、また泣かれたらと思うと少し気がひけるのだった。

「このエビチリのレシピ教えてくれる?」

その頼みに純粋にうれしくなった秀は胸をドンと叩いていた。

「おうよ。いくらでも教えてやる」

ありがとう、とにこにこして亜由美が言う。

「それじゃぁ。当麻に教えてくれる? 筆記用具ないから」

おいっ、と当麻が声あげた。

「俺はお前のハードディスクじゃないぞ」

「いいじゃない。それとも・・・」

と言って亜由美はちろん、と当麻を見た。

「このおいしーぃ、エビチリが将来、我が家の食卓に並ばなくてもいいのかなぁ〜?」

「あ〜。はいはい。わかりましたよ。進んで覚えさせてもらいます」

あきらめた様子で当麻が答える。が、その顔は嫌そうではない。

その答えに亜由美は心底うれしそうな笑顔を浮かべる。

秀にはそれを見た当麻の鼻の下がやや伸びているような気がした。

当麻が秀の名を呼ぶ。

「悪いが、「後で」レシピを教えてくれ。この状態じゃ、何品か覚えなきゃいけなからな」

ああ、と秀は答える。

やっぱり、あいつ鼻の下伸ばしてやんの。

いちゃつくカップルを見るのは好かないが、当麻のすました顔が崩れるのを見るのは案外楽しかった。

後でからかえそうだ。

秀の思惑を知ってか知らずか、当麻は秀に大いにネタを提供してくれたのであった。

 

あゆ、と呼ばれて亜由美は我に帰った。

十メートルほど先に当麻達が歩いている。

いつの間にか足を止めている亜由美に当麻が気がついたのだ。

慌てて当麻達の方へ駆け寄る。

「ごめん。ごめん。よそ見しちゃって」

皆がまた歩き出す。ここには純、伸、秀はいない。

純とは先ほど別れ、伸は秀の家に泊まった。

馬鹿ップル三組を目にするよりは秀の弟妹と遊んでいた方が気が楽だから、と伸は言ってのけた。

「何見てたんだ?」

当麻が問う。

その答えには答えず、唐突にケーキ買ってとねだる。

当麻があきれたように言う。

「お前、さっき山ほど食ってただろうが。俺の杏仁豆腐まで食っているのに、まだ足りないのか?」

秀の店でデザートとして杏仁豆腐が出された。

プリンやヨーグルトに目がない亜由美はそれこそ世界で一番幸せといった風に食べていた。

その顔をもう少し、見ていたかったというのもあるが、その様子ではきっとあと一週間は杏仁豆腐が食べたいと言い続けると確信した当麻がわざわざ自分の分を譲ったのだった。

結局、たかられるのは自分だとわかっていたからだ。それなのに今度はケーキ。

夏に気持ちを確かめ合ってからやたら出費が増えている。

別に高価なものをねだるわけではない。

が、気を許した証拠なのかケーキやらアイスやらやたら買わされる。もちろん、亜由美と迦遊羅の分も一緒に。

女の子、と言うのは摩訶不思議だ。何がそんなにケーキに走らすのだろう?

「だって。クリスマス・イブにケーキないのは変だもん。クリスマス・イブの夜は鳥さん食べて、ケーキ食べて、それから教会行くんだもん。かゆだってケーキ食べたいよね?」

斜め前で遼と歩いている迦遊羅に問う。

迦遊羅もええ、と頷く。

そしてこの半年で完成された双子の必殺技、瞳でおねだり攻撃をまともに食らった当麻はわかった、と言って降参した。

双子が歓声をあげ、手を取り合って喜んでいる。

早速、何を買ってもらうかなど口々に話す。

「女の子というのはわからん」

一人呟く当麻にナスティが声をかける。

「女の子にとって甘いものは特別なのよ。特にケーキはね」

「みたいだな」

当麻が苦笑する。

そこへ亜由美のケーキの種類を数える声が聞こえ、慌てて釘をさす。

「買うのはデコレーション一個だけ。ショートなんぞ買ったらいつもと同じだろうが。それに皆で食べるんだからな」

はーいと亜由美がしぶしぶ納得する。

その様子に安堵しながら、遼に声をかける。

「かゆの彼氏なんだからたまにはお前も出資しろ。俺はお前の分までたかれてるんだ」

その言葉に思わず遼も同情して頷いた。

 

再び、傍らの亜由美が足を止め、さらには横道にふらふらそれていくのに気付いた当麻は慌てて後を追う。

まったく、あいつは夢遊病か?

そう思ってつかつかと背後に近づいた当麻は思わず、動きを止めた。

その背中がぽつんと取り残された子供のようであったから。

最近はそんな感じはみせる事はなかったのに。

眉根を寄せて脇に立ち、表情を盗み見る。

亜由美は懐かしそうにそして哀しそうに見ていた。

その視線の先にあるのは暖かな光のともった小さな教会。

そこから人々が出てくる。その中には小学生ぐらいの子供が大勢混じっている。

ふっと我に返った亜由美は当麻が黙って立っているのに気付いた。

「ごめん。ごめん。またよそ見しちゃって」

謝って元の道に戻ろうとする。

「もう一回、ミサあるかな?」

その言葉に亜由美は振りかえった。

「ほら、普通は夜中にするんだろう? クリスマスのミサは」

そう言う当麻に亜由美が首をかしげる。

「さぁ? 私が行っている教会じゃないからわからないけど・・・?」

どうしたのだろう? と亜由美はいぶかしげに小首をかしげる。

「俺、ちょっと聞いてくる」

それだけ言うと当麻は教会の中に消えた。

二人がいないのに気付いた皆がやってくる。

だが、そこに亜由美はいても当麻がいない。

その答えに亜由美はあそこ、と言って教会を指差した。

ものの数分もしないうちに当麻が戻ってきた。

「やっぱ、12時にもう一回あるってさ。どうせなら寄り道でもしていくか」

その言葉に亜由美が驚く。

「寄り道って・・・皆と別行動なんてしていいの? それに12時まであと二時間近くあるよ?」

その亜由美の頭をくしゃくしゃ当麻が撫でまわす。

「そこらへんでぶらついていたらいいし、中で待っていてもいいと神父さんが言っていた。それに、たまには自分ん家の宗教を尊重しろ。・・・ということで俺たち、ちょっと寄り道していくわ」

当麻ははじめ亜由美に言い、最後は皆に言った。

亜由美が首を振る。

「だめだって。皆と一緒にいられる最後のクリスマスだよ。私と当麻だけ二人っきりと言うのは皆に申し訳ない」

そう、来年には実家に戻ることになっている。

保護者役の当麻が京大を受験することになり、必然的に亜由美と迦遊羅の東京生活も幕を下ろすのだ。嫌だと言っても許してもらえなかった。それに、亜由美とてようやく両思いになったのに関東と関西に別れたくはなかった。だから今夜が皆とずっといられる最後のクリスマス。

あゆ、と当麻が名を呼ぶ。

「お前、さっき自分の過去を失ったとでも思っていたろう? そうじゃないっていうことをこの際確認しておけ」

その言葉に亜由美が言葉を失う。

どうして、この人は考えていることがすぐにわかってしまうんだろう。

切なくなる。

当麻の言う通り、暖かな光がともる教会を見て、かつてただの幼い子供だった過去を思い出していた。

でも、それは亜由美の思い出であゆの思い出ではない。

というかもう自分はあの頃の無邪気な何も知らない子供ではいられない。

そんな思いがして過去を失ってしまったような気がしていたのだ。

「俺と二人じゃ嫌か?」

その問いにぶんぶん首を振る。

「じゃ、決定」

当麻が笑う。

この人には永遠にかなわない。

諦めとうれしさの混じる思いがこみ上げる。

でも、とやはり気後れしてしまう。

二人きりになりたいのはきっと他の皆だって山々だろう。

自分だけ特別に扱ってもらうわけにはいかない。

そんな亜由美の姿に迦遊羅が声をかける。

「もし、よければ私もご一緒していいかしら?」

亜由美がはっと視線を向ける。

「だって、家がキリスト教だと聞いても姉様、一度も教会など連れていってくださいませんでしたから。この際、私も勉強したいと思うのですけれど」

その言葉に亜由美は戸惑う。

そうか、と当麻が笑う。

「この際、かゆも実体験しておいたほうがいいな。と言うことは遼も付き合え」

俺も?、と遼が聞きかえす。

「お前、曲がりなりにも今日は世界中の恋人達が待ちに待ったクリスマス・イブなんだぞ。恋人を兄弟に預けて放っておくやつがいるか」

その答えにそっか、と遼が納得する。

「ねぇ、あたしも一緒していいかしら? 久しぶりに教会に行ってみたいわ」

ナスティも言い出す。

「そう言えば、ナスティもクリスチャンだったか。じゃぁ、皆で参加決定だな」

征士はすでにナスティの付録として当麻は数えていた。

征士にとっては失礼極まりない。

亜由美が頼りなげに当麻を見る。

「ほら。皆、一緒だから遠慮するな」

皆の気遣いに亜由美は誰にも見えないように涙ぐんだ。

 

小一時間ほどぶらついて、教会に入る。

まだ、人はあまり集まっていない。

聖堂の椅子に腰掛けながら待つ。

亜由美はいつになく饒舌になった。

昔の事を話し出す。

小さいとき、クリスマス・イブの夜、夢うつつに鈴の音を聞いて本当にサンタクロースがいると信じたが、実際は父親が鈴を片手にやってきたのだと話す。

そんな話を皮切りにクリスマスの思い出を語り出す。

「私、これでもマリア様をやったことあるんだよ」

その言葉に当麻が噴出した。

「お前が聖母マリアだと? えらいミスキャストだな。エルサレムの町を駆けずりまわっているガキの間違いじゃないのか?」

「なんでそんな役が聖劇に必要なのよ。私のデビューは東方三博士の一人だったんだからね。天使だってしてるし、大天使ミカエルもやったんだから」

「どれも似合わない」

当麻がくつくつ笑う。

ひどい、と言って亜由美は頬を膨らませた。

キャンドルサービスからクリスマスのミサは始まる。

暗闇の中、火が灯った蝋燭を持って神父たちが教会堂に入ってくるのを迎える。

なんだか、こいつの長い髪を焼いてしまいそうだな。

そんな事をつらつら思いながら当麻は傍らの亜由美を見た。

蝋燭の明かりに照らされた亜由美の顔はどことなく神妙で綺麗だった。

聖母役をしたといったときは笑ったが、この顔を見ていれば似合っていたかもしれないと思う。

散々、家の宗教をけなしていた亜由美だったが、クリスマスは違う。

毎年、教会に行かなくても賛美歌を口ずさむこともあったし、どことなく楽しそうだった。

それだけクリスマスは思い出深いのだろう。

それに亜由美の大嫌いは大好きだということも最近よくわかるようになってきた。本人が自覚しているのはほとんどなかったが。

そんなに思い出や家族が大事ならたまには家に帰ればいいのに、と当麻はつくづく思った。

ミサが終わり、当麻達は教会を後にする。

「はぁー。楽しかった」

と言って亜由美は慌てて口をふさぐ。

普段、散々けなしていてこんな発言をしたとなっては矛盾もいいところだし、当麻にあきれられる気がしたからだ。

だが、その発言を当麻は聞き逃さなかった。

「そんな事言うならたまには実家にもどれよ。今度の年末年始ぐらい帰ったどうだ?」

やぁよ、と亜由美が嫌そうに言う。

「皆と過ごせる最後のお正月なのに、なんで帰らなきゃいけないのよ。帰ったら嫌でも家族と一緒なのに」

まったく、天邪鬼なんだからな。

当麻が独り言を言う。

ねぇ、と亜由美が言う。

「ケーキ買って」

「もう店閉まっているだろう? 今回はあきらめろ」

ええー、と文句を亜由美が言う。

「もしかして、ケーキ買いたくないから教会に行ったんじゃないでしょうね」

「なわけないだろうが。お前が相変わらず悩んでるから付き合ったんだろう? 亜由美として生きてきた思い出も亜遊羅としての思い出も全部あゆの思い出だと俺は言いたかっただけだ。その証拠に楽しかったんだろう?」

当麻の言葉に亜由美が言葉をまた失う。

その通りだ。ミサを受けている間、昔の自分と同じだった。

亜由美はミサの荘厳な雰囲気が昔から好きだった。

宗教儀礼として考えるよりもミサは自分にとって子守唄のようだったのだ。

だから、ミサを受けていると純粋に楽しいのだ。そこに宗教的な思惑は一つもない。

その感情は昔に帰ったわけでもない、今の自分の感情だった。

そこで別に過去を失ったわけではない、と思い知らされた。

本当に当麻にはかなわない。

「もうっ。人の考えていることずばずば当てないでよ。

もうちょっと鈍感になってよね」

そう言って亜由美は当麻の肩に頭を預ける。

「悪いな。この優秀な頭脳が何事もはじき出してくれるから。それに鈍感な馬鹿にはなりたくない」

そう言って肩に回していた手に軽く力をこめる。

別に何事も分かっているわけではない。亜由美は当麻にとって一番の謎だ。

だが、そんな事を今、言う気はない。そんな事を言うとますます付け入られる気がする。

いずれ言うことがあるかもしれないが。

ねぇ、と亜由美が言う。

「クリスマス・プレゼント何が欲しい?」

別にいらない、と当麻が短く答える。

折角、プレゼントしてあげるのに、とかなんとかぶつぶつ亜由美が言う。

その声に当麻が答える。

「俺にはお前がいたらそれだけで十分幸せだから」

お前は何が欲しい?、と逆に尋ねると同じ答えが帰ってきた。

「私もいらない。当麻と皆がいてくれたらそれでいい」

二人はお互いに手を回して歩く。

ナスティは大胆に征士の腕に腕を絡ませ、征士に極度の緊張を与えている。

一方、遼と迦遊羅は幼稚園児カップルのように仲良く手をつないでいる。

三組の恋人同士がそれぞれ思い思いに歩く。

あ、でもと亜由美が声を上げた。

「やっぱり、ケーキ買って」

その言葉に当麻が笑う。

「わかった。来年のクリスマスには欲しいほど買ってやるから」

わーい、とうれしそうに亜由美が声を上げる。

この時、この約束が拡大解釈されて毎年クリスマスケーキを買うことになるとは当麻も思いもしなかった。