あゆの戯言1 結婚相手考

二人して芝生の上で馬鹿っぷるぶりを発揮していた私と当麻のおなかがぐぅっと鳴った。

「飯、食うぞ」

当麻が立ちあがり、私も着いていく。

当麻は勝手知ったる場所とばかりにずんずん歩いていく。

食堂街に近づく。

街というほどでもないけれど、結構いろんな食堂が集まっている。

当麻がその一つに入りかけたのを慌ててひっぱる。

「なんだよー。たまにはこっちでいいだろう?」

「だめっ。人に見られるっ」

私は学生があんまり入らないお寿司屋さんに連れて行く。

安いことは安いけれど、他のところと比べたら高いから学生はあまり来ない。

来るのは職員や先生方。

「また、ここか?」

当麻がうんざりした声を出す。

「いいかげん、秘密にしなくてもいいんじゃないか?」

という台詞をあっさり却下。強引に入る。

でもっていつもの盛り合わせを頼む。

二人してお寿司をつつく。

「たまには他の場所で飯食わせてくれ」

当麻が不機嫌そうに言う。

「これだけいろんな食堂が集まっているキャンパス少ないんだぞ」

「当麻ってそれが目的で私をここに入れたんじゃないでしょうね?」

最近思っていることを口にする。当麻は最近やたら他の食堂に行きたがる。

食堂めぐりがしたいんじゃないだろうか、と私は踏んでいる。

「それもある」

とあっさり認められてしまった。

ひどっ。でも、それもって?

「少なくとも二年は悪い虫がつかないから」

そういう理由でここに入れといったわけ?

「言っときますがね。確かにここは隔離状態だけど、キャンパス内には若くてぴちぴちした美形男子学生がごろごろいるのよ?」

「お前、ジジくさいの好きだから大丈夫」

うっ。的を得ているかも。芸能人で好きな人を上げろといわれたら結構、ロマンスグレーのおじさまだったしなぁ。

「で、でも美男子に迫られたらころっといっちゃうかもよ?」

意地悪を言ってみる。

「どんな美男子だ?」

美男子と言ったら・・・。

「そりゃ、せ・・・」

きゃー。やばいっ。

「晴明様みたいなっ」

慌てて名前を言いかえる。

ほぅ、と当麻の目が剣呑になる。

「安部晴明のせ、か。俺はてっきり伊達征士のせ、だと思った」

わーん。口は災いの元っ。

当麻って征士と仲がいいけれど、その分、妙にライバル視してるふしがあるのよね。

それも当麻が一方的に。皆や征士の前ではなんともないけど、二人っきりのときに私がせ、の一文字でも言おうものなら、

とたんに不機嫌になる。せいじと言いきってしまえばまさに怒髪天を抜く、状態。

いつ、真空破であたりを破壊するかわからない。

昔、なんでと聞いたらお前のせいと言われた。

確かに征士を信頼してるけど、それってどちらかと言うとビジネスライク。

当麻に関して言えば、そういうのを遥かに通り越してるんだけど・・・。

「お、怒らないでっ。好きなおすし上げるからっ」

「じゃぁ、はまちとまぐろとサーモン」

うっ。最後にとっておいた好物を全部指名された。

でも、これで当麻の怒りが収まるなら安い代償よね・・・。

でも・・・やっぱり未練が・・・。

好物が連行されるのをじっと見つめる。

「よだれ、でてるぞ」

言われて慌てて口に手をやる。

「うそ」

「もうっ。からかったわねっ」

当麻が面白そうに笑う。

よ、よかった。機嫌が直った。

ほっと胸をなでおろしていると当麻がにやり、と不敵に笑う。

うっ。こういう時の当麻は怖いっ。

「見つからないためにここにいるってことは逆言えば誰もお前の知っている人間は見ていないって事だよなぁ?」

「そ、そうだけど?」

「すし一個食べさせてくれたら、残りの二個は返してやる」

そ・・・それって・・・。よく甘甘カップルがしているというあーん、では?!

「だ、だめっ。学生がいなくても先生がいるっ」

「お前の学部の先生、いないようだが?」

いたらとっくに出てるのを見越して当麻が言う。

「それでもやだっ。恥ずかしいもん」

「お前、さっき俺が甘えてくれないとかいってだだこねていたじゃないか」

「そーいうのは、家でしてあげるから」

いやだ、と当麻に却下される。だったら、たら、なんて仮定で話さないでよ。

明らかにしてもらわなきゃいやだ、って言ってるじゃないっ。

私はあたりを見渡す。かなりいい加減な時間だから、人も少ない。

言われたときにしておけば後で言われないかも。

いや、家でするのなら問題ないけど、他の場所で言われたら困る。

「じゃ・・・。ほんとーに、一個だけだよ? どれがいいの?」

顔がかぁっと熱くなる。きっと首筋まで赤いに違いない。

「お前の好物第三位でいい」

それじゃぁ、まぐろかなぁ?

ちょっと手を伸ばしてまぐろを箸ではさもうとして止まる。

食べさせるのには結構不安定だよね。

くずれちゃったら困る。もう一回なんて言われそう。

「箸がだめなら手使えば?」

当麻がひょうひょうと言ってのける。

この人には恥ずかしいという気持ちはないんだろーか?

ああ、でも考えているひまあったらとっとと終わらせたほうがいいかも。

私はお箸を置くとまぐろを指でつかむ。

それから当麻の口元に持っていく。

「口開けて」

言われるままに当麻が口を開ける。

放りこもうとした瞬間、店のドアがガラっと開いた。

うそぉ。学部の先生っ。しかもゼミのっ。

私はおすしを持ったまま凍り付いてしまった。

先生と視線がまともにぶつかる。

次の瞬間、かぷっ。

え?

気がつくと当麻が指ごとおすしにかぶりついていた。

「うまひ」

口を離すともごもご言って食べる。

ああ?、もうっ。

「当麻のばかー」

泣きそうな声で抗議する。

当麻がどうした?と聞くのと同時に先生が来る。と後ろに学生がっ。

しかも同学年じゃないのよっ。

「こんにちは。河瀬さん。今ごろお昼?」

「ど、どうもです。ちょっと食べ損なって・・・」

恥ずかしさで気がおかしくなりそうなのをこらえて挨拶する。

当麻が、誰?という視線を送る。

「ゼミの先生と学部の人」

なんてタイミング悪いのぉー?!

ここはしらを通すしかないっ。

と思って当麻をいとこのおにーさんにしたてようとする矢先、当麻が挨拶をしてしまう。

「どうも。いつもあゆがお世話になっています」

ああ、それ以上は言わないでー。

口を押さえるより早く当麻が言う。

「羽柴です。お聞きお呼びかもしれませんが、あゆの未来の夫です」

なんでそんなこっ恥ずかしい台詞が言えるのよっ。

昔、気障な台詞は言えないと言っていたのはどこのだれっ?!

「お噂はかねがね聞いています」

先生がにこやかに答える。でもって談笑なんかはじめてしまう。

そのやりとりについてきた学生が色めき立つ。

「河瀬さん、結婚するのー?」

「かっこいい人じゃない。すごい」

「どうやってつかまえたの?」

などなど質問が飛び交う。

お願い。ノーコメントでいさせて・・・。

「そーいう話はいずれまた・・・」

ええーと抗議を受けてしまう。

「今度ちゃんと話すから」

と頼み込む。

せめて、心の準備させてほしい。

「別にいまさら隠し立てしなくてもいいんじゃないのか?」

のんきな当麻の声。

この、のんき大王がっ。

「ごめん」

がた、と席を立つと店を出る。

「おいっ」

と当麻が後ろから追いかけてきて腕を掴まれる。

「当麻のばかー」

涙ぐんでぽかぽか胸を殴る。

「涙ぐむことじゃないだろう? なんで自分の大学だとそんなに恥ずかしいんだ?

遼たちの前では全然構ってないし、街中でおまえ恥ずかしげもなく俺の腕にぶら下がっているじゃないか」

「遼たちの前は特別なのっ。今更、恥ずかしがる仲じゃないし。それに街中は全然知らない人ばっかりだからいいのっ」

中途半端に知っている人の前が一番恥ずかしいのだ。

「お前、そんなに俺のこと嫌いか?」

当麻がじっと見つめる。

そういうの卑怯だ。

「嫌いなわけない。だけど、恥ずかしいものは恥ずかしいの」

「そういうつまらない恥じらいは捨ててしまえ」

「捨てられるものならとっくに捨ててるもん」

でなかったら当麻のこと二年もひた隠ししない。

「お前ってほんっとうに変わってるな」

この私を選んだ物好き当麻に言われたくない。

まぁ、いい、と当麻が言う。

「新学期までに心の準備しておけよ。きっと聞かれるだろうから。皆、残念がっていたぞ」

うっ。

だから知られるのが嫌だったのよぅ。

いやがる私を見て当麻が面白そうに笑う。

「どうやって、私達のこと説明するのよっ」

「それはお前の努力次第」

わーん。神様の意地悪。なんでこんな人が結婚相手なんですか?

神様は知らんぷりだった。