あゆの戯言4.5 幸せってなんだっけ?考

新年も明け、冬休みも完了して私は生協でお弁当をつついていた。

なんだってこんな不自然なことをしてるかと言うと、さぁや達につきあっていたから。

いつのまにかさぁや、えりー、かおるっち、みきちゃんというメンバーでつるむようになっていた。

私もお弁当をやめたいところだけど、それだと出費しないといけないし、

今のところはおこづかい等々は貯金に回していたから。

一応、東京で稼いだ貯金があるからお小遣いなんていらないんだけど、私が働いていたことはかゆ以外は家族で知らないから、便乗してもらっていた。

ほとんど詐欺。でも、そのお金は手をつける予定じゃなかったから。

最初は家族に残していて、後から当麻との生活に使おうと思った。

東京へ行くときだけは使うけど、あとは使っていない。

正式に結婚話が持ちあがったときにお父さんに通帳を見せたけど、これは将来に使うからと言ってやっぱりお小遣いをもらっていた。

バイトすれば良かったんだけど、なんだか忙しくてそれどころじゃなかった。二十歳過ぎてから家族の視線が痛い。

「で、お正月どうだった?」

「・・・うん。今ごろになってもう一回当麻の家に挨拶に行った」

どうだった? と異口同音に聞かれる。

「たいしたことは別に・・・。おじ様とおば様にご挨拶しただけだもん」

大晦日の晩、クリスマス以降からすっかり仲が良くなった(?)というか元に戻った当麻とお父さんはその日も紅白歌合戦を見ながら談笑していた。

「ねぇ、うちでごろごろしてていいの? おじさま寂しくないの?」

尋ねると当麻はんにゃ、と答える。

「あの親父がさみしがるわけないだろう?」

「でも。お正月ぐらいお父さんと一緒にいてあげたら? お母さんも帰って来るんでしょう?」

私のその言葉に当麻がえーっ、と抗議する。

「今更家族なんてする柄じゃないっての」

ぞんざいに言う当麻に私はくわっと目を見開いた。

「結婚してもそんなこと言ったらほっとに怒るからねっ」

私がもろに怒りそうなのに気づいた当麻はあわてて居住まいを正すとわかりました、と答える。

「よろしい」

私はにんまりと答える。私がこう強気に出ると当麻は結構折れてくれる。

愛のない家庭なんてやだもん。

「じゃ、明日、ちゃんと実家に帰りなよね」

私が当麻の側に座りながら言うと当麻はぶっとんだことを言い出す。

「お前もいっしょになら帰る」

はぁ???????!

「俺一人じゃやだ」

幼い子供がすねたような口調に思わず吹き出してしまう。

「お前がいないとなったら親父達がうるさいに決まってる」

私は困ったようにお父さんを見ると彼は静かにうなずく。

「いずれ家族になるのだから。もう一度ご挨拶に行ってきなさい」

そんなわけで正月も早から私は羽柴家にご挨拶に行くことになった。

翌日、待ち合わせて私と当麻は大阪へ向かった。お父さんの車借りて。当麻の実家は家から割と近い方。

枚方だから。

で、行くなり当麻は開口一番。

「知ってるはずだけど、俺とあゆ結婚するから。そういうわけでよろしく」

と言ってすたすた部屋を出て行こうとするんだもん。

もう少し、言いようがあるんじゃぁ・・・。少なくとも結婚費用出してもらうのにその言い方ってないよね? そう。結婚費用のほとんどは羽柴家から出るのだ。

「お、おじ様っ・・・」

焦ってご挨拶しようと思ったらいきなり。

「ゲンイチロウでいい」

はぁ?

と問い返すと。

「あれもゲンイチロウ君よばわりだから。今更、お父さんというガラじゃないから気にしなくていい」

い・・・いや。それはちょっと。あれ、と言うのは離婚した当麻のお母さんのこと。

離婚した割には仲がいい。

当麻の家って変わってると思う。

「えーっと。ゲンイチロウ・・・おじ様。今後ともよろしくお願いしますっ」

「私はまったく構わない。だけど、そんなに息子がいいかね?」

逆に問い返されて口がぱくぱく。

きっかり十秒は黙っていたと思う。

「当麻じゃなきゃ、だめなんですっ」

答えると苦労かけるね、と言われてしまった。

苦労かけてるの私なんですが・・・。

それだけでご挨拶は終わってしまった・・・。

うーん。当麻と当麻のお父さんって別に仲は悪くないんだけど、淡白な関係。

どっちかって言うとお母さんとの仲の方がいいんじゃないかな?

でもそれもどうも親子っていうより、親友って関係。

私と当麻のお母さんとは女同士と言うことで昔からいろいろ話す仲。

その場に居合わせた当麻のお母さんまで言われてしまった。

「ほんとーに。うちのとーま君でいいのぉ?」

私はもうはりこの虎のように首を降り続ける。

彼女はやたら若い。当麻を18で産んだと言うから当然なんだけど、その精神は底抜けに明るく、若い。

このお父さんとお母さんってどうやって出会って結婚したんだろう?というのが羽柴家の最大の謎だと思う。

と、そこでメールが入る。

当麻だ。

見ると短いメッセージがひとこと。

”風邪ひいたから家へ来るな”

な、なにごとぉ?

驚いて電話をかける。メール打つなんて悠長なことしてらんないっ。

風邪ぐらいで家へ来るなってそんなにひどいの?

ううん。普通、それだけひどかったら来るなって言わないよね?

それに昨日はぴんぴんしてたじゃないっ。

当麻が出るなり、叫ぶ。

「そんなに具合悪いのっ?! 今、どこっ?!」

いや、とおそらく電話の向こうで苦笑いしていると思われる声。

”インフルエンザらしいから。今、病院の帰り”

その言葉にさぁーっと血の気がひく。

”来るなっていっても来る・・・よな・・・?”

「行くに決まってるじゃないっ。当麻の家の玄関ぶっ壊してでも行くからねっ」

その言葉に当麻はわかった、と返事をする。

普通、こういうのはただの脅しになるんだけど、私の場合、できるから脅しじゃなくなる。

まじモード全開の私に当麻が適うわけがない。

というか双方とまじモードだときっと京都市内の半分は焼け落ちるかもしれない・・・。

冗談でなく。私と当麻が夫婦喧嘩したら世界が滅ぶとまで遼たちにはささやかれている。

こんな私達って一体・・・。

ばたばたとお弁当を直して立ちあがる。

「ごめん。当麻が風邪ひいたから、行ってくるっ」

それだけいうと猛ダッシュで出て行く。

キャンパスを走りぬけ抜けながら同じく昼食時であろうかゆに連絡を入れる。

「当麻がインフルエンザひいたっ。当分帰らないってお父さんに言っておいてっ」

言うだけ言って電話を切る。

きっとあっけにとられているのが手に取るように分かる。

だけど、そんなこと気にするひまはない。

とんでもないスピードでお山を駆け下りる。

でもって、電車に飛び乗る。

一駅して急行に乗り換える。その急行を待っている間、駅のコンビニでいろいろ買いあさる。

当麻ってここのところまったく病気一つしていないからそういうグッズはほとんどない。

アイスンとかビタミンCグッズとか消化のよいものを買いこむ。

でもってばたばたと当麻の家に向かう。

 

行くと当麻はけろっとしている。

「インフルエンザって・・・聞いたけど?」

「ああ。だが、ひきはじめらしいからこれから熱上がるんじゃないのか?」

その言葉にまたさぁーっと血の気がひく。

慌てて、おでこに手をやると熱い。どことなく顔も赤い。

「た、体温計っ」

ばたばた体温計を探し出して熱を測らせる。

見たらもっと血の気がひいた。

「38度5分もあるっ。ちゃんとお薬飲んだっ?! あったかくして寝なきゃ行けないじゃないっ」

それだけ叫ぶと当麻のタンスからセーターやらなにやら出してぐるぐる巻きにする。

その様子を当麻が面白そうに見ていてそれからやおら言う。

「こういう熱は下げようとして無理やり下がるんじゃないんだ。ほっといたらそのうち下がる」

「そのうちじゃだめっ」

無理やりベッドに押しこむ。

いつもは私が放りこまれるけど、今度は違う。

断固として当麻を寝かしつける。

それからアイスンをおでこに乗っける。

「気持ちいいな・・・」

そう言って気持ちよさそうに呟く。

それから当麻はぶっとんだ事を言う。

「気が落ち着いたら帰れよ」

なんでっ!?

「倒れたら介抱してくれたらいいっていってたじゃないっ」

「看病してくれるのはありがたいが、お前、どこで寝る?」

「どこって・・・?」

「インフルエンザは感染力が強いんだ。うつるとわかっていてお前と一緒に眠るわけがないだろうが」

「ベッドで寝なくても床がある。遼たち用のお布団があるでしょう? それ貸してよ」

やだね、と当麻が却下する。

「なんで?」

「他の男が寝た跡になんでお前を寝かせられる?」

って、この間遼が来たのは去年の11月。それからうんと日が過ぎてるのに・・・。

言ってもだめ、の一点張り。

まぁ、わからないこともない。私だってかゆのお布団に当麻が寝たら嫌だもん。

「わかった。帰るから十時まではいてもいいでしょう?」

そう言うと了解、と言って当麻はまぶたを閉じた。

 

看病と言ってもほとんどすることはない。

アイスノン取り替えて、食事作って薬のませて、寝かしつけるだけ。

あとは時折、目覚める当麻に水分補給とかさせるぐらい。

だから、時間つぶしにお掃除と洗濯とか洗い物をしていたけど、それもあきらめた。

部屋を出ていたら、うつるからと言って近づかないのにベッド抜け出していつの間にか私を見てるんだもの。

その度にベッドに連れ戻さなきゃ行けない。

だから、もうあきらめて当麻の本だなから面白そうな本を持ってきて読みふける。

当麻ってマニアックな本山ほど持っているから。理系のみならず文系も豊富。

理系はまったくだめだけど、文系なら対応できる。

時折、当麻が目を覚ましてうれしそうに私を見る。

「看病されるのってのもなかなかいいな・・・」

あるとき、ふっと当麻がもらした。

「こうやってついててくれるならずっとインフルエンザにでもかかっていようか・・・」

熱で頭がおかしくなったんじゃないっ?!

「だめっ。当麻だって死んじゃうっ」

「インフルエンザごときでくたばる俺じゃない・・・」

「だったら毎年何人インフルエンザで死んでるか統計だそうか?」

その言葉に当麻が黙る。私が真剣に怒ったのがわかったから。

当麻だって人間。風邪をいくらひこうがインフルエンザにかかろうが怒らない。

でも、看病して欲しさに病気になるだなんて言語道断。

「当麻が普通に病気になったらちゃんと看病してあげるから。無理言わないで」

うん、と言って当麻がまた眠る。

病気中の当麻はなんだかとても幼かった。

あんまりお粥が続いてうんざりした当麻が文句を言ったので次はおじやにしてあげるって言ったら、

ひどくすねて、それじゃぁ元気になったら好きなものを作ってあげるって言った。

その時の当麻ったらまるで子犬がちぎれんばかりに尻尾振ってるって状態。

もうかわいいったらありゃしない。

もうもうっ。いくらでも甘えさえてあげるっ。

と心に誓ったほどだった。

 

夜の十時に帰って、朝一で来る。今までみたいな時間じゃなくて始発に乗る。

だって、心配で心配で眠れないんだもん。

二日、当麻はただ、眠っていた。

でも三日目に熱が下がらないから強引にもう一度病院に連れて行く。

本当は私が薬のひとつやふたつ作ってあげたかったけど、この真冬に薬草求めてうろついていたら

流石に当麻に叱られるからやめた。

近現代医学より、一族の秘法のほうが役立つのに・・・。折角の私の得意分野なのに・・・。

しかたないから近現代医学に頼る。

熱下げてくださいって強引に頼み込んで点滴をしてもらう。ほっといたらいつまでも熱がある気がして、ものすごく怖くなったから。

その効果があってか四日目には熱が下がりはじめる。

それを確認した時はほっとしてベッドの上に突っ伏したほどだった。

それから気になっていたことを問う。

「なんで当麻がインフルエンザなんかにかかるの? あんなにぴんぴんしてたじゃない」

「それは・・・」

当麻が言いにくそうに答えを探す。

「卒論に熱中してたら免疫力が落ちた・・・」

えっ? 卒論、この間完成したって言ってたじゃない?

「そうなんだが、面白い仮説が浮かんで加筆修正してた」

それを私がいないところでやっていた、と?

ちろん、と見ると当麻は申し訳なさそうに言う。

「お前と卒論両立させてたら、こうなった・・・」

「書きたかったら書きたいって言ってくれたらいいでしょうっ? 私が邪魔するとでも?!」

だから、とやっぱり言いにくそうに当麻が言う。

「お前の顔見たかったから・・・」

「こんな顔、見たかったらいくらでも見せてあげるわよっ。そんな理由で病気になんかならないでよぅ」

悪かった、と一言当麻が謝る。

その様子があんまりにも頼りなさげで思わず、私は当麻を胸に抱きしめていた。

「結婚したらいくらでも顔が見れるんだから、無理しないで・・・」

うん、と当麻が小さく答えた。

 

こういうのを三日天下と言うのだろうか?

それから三日とたたないうちに当麻は全快してしまった。

それでもって今までの甘えっこ当麻はどこかに飛んでいってしまった。

折角逆転していた力関係がまた元に戻る。

大人の当麻と子供の私。

当麻が病気で苦しむのは絶対嫌だけど、甘えっこ当麻は残しておいて欲しかった・・・。

内心がっくりしていたら、時々甘えっこ当麻を垣間見ることができるようになった。

当麻の家で家事をしていると時々、当麻がひっついてくる。

その後は当麻の手が不穏な動きを見せるから困るんだけど・・・。

でも、なんだか少し対等になった気がするからおおむね満足してる。

この調子だと、またいつか甘えっこ当麻が復活するかもっ。

にへら、と思わず笑みを浮かべてしまう今日この頃だった。