あゆの戯言7 馬鹿っぷる新婚編

「ごめんね。写真なくて」
私はもごもごサンドイッチをほおばりながらさぁや達に謝る。
「いいって。できたら見せてくれたらいいから」
気楽に言われてちょっと困る。
だって、学校で見せたくないからここに呼んだのであって、もう一回呼ぶのはちょっと無理かもしれない。
というのも、さっきから女子大生の興味津々の視線に当麻が辟易してるから。
写真というのは先日行われた式の写真。見せてと言われたので家に呼んだんだけど、
肝心の写真がまだ出来上がっていなかった。昨日にはできあがって郵送してくれるって遼が言っていたんだけど・・・。
ちょうどそのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、俺が出る」
席を離れられるチャンスを逃さず、当麻が出て行く。
と、すぐに当麻が戻ってきた。
「お待ちかねの写真、遼とかゆが持ってきた」
茶色い封筒を手にして当麻が来る。
その後に遼とかゆが続く。
「えーっ。郵送してくれたら良かったのに・・・」
と言ってある事実に思い当たる。
なーるへそ。私はにんまり笑う。
「なんにもない家ですが、思い存分デートしていって」
その言葉に遼とかゆが顔を赤らめる。
もう。かわいいったらありゃしない。
写真を届けるのは遼がこっちに来る口実。
それに家がわからないからかゆに案内してもらうと言えばなんなくデートができる。
「ちょうどお昼だったから、食べていって。お茶入れてくるから」
そう言ってお茶の用意をしに行く。
戻ってくると写真がまわされている。
さぁや達には当麻が紹介したみたい。
遼が撮ったウェディング写真とスナップ写真。それから、私が山ほど撮ったスナップ写真。
その日、ガーデンパーティで私はおしとやかな花嫁から一転して写真小僧に早変わりしたのだ。
伸と秀がじゃれているところ、ナスティと征士、遼とかゆのツーショット写真、当麻が征士にプロレスの技をかけているところ、
あとみんなで早食い競争しているところなどなど、私は全部の瞬間を残しておきたくてインスタントカメラを片手に激写していたのだ。
披露宴とは名ばかりのどんちゃん騒ぎ。堅苦しいことは一切ない。ただ、お祝いをしてもらって皆に楽しんでもらえたらいいと思って計画したパーティだったから。
写真がまわされているのを満足げに見ていると遼がもう一つ封筒を差し出した。
「なに?」
「新しい写真集ができたから持ってきたんだ」
わーい、と喜び勇んで封筒から写真集を出す。
遼は今年、芸術大学を卒業したばかりだけど、今や新進気鋭の動物写真家なのだ。
私も当麻も遼のファンで写真集を心待ちにしていた。
見ると表紙はホワイトタイガーの赤ちゃんで、題名は「BYAKUEN」となっている。
「これ?」
思わず、遼の顔を見る。
「うん。たまたまホワイトタイガーの赤ちゃんを撮る機会があって、それじゃいっそのこと世界中のホワイトタイガーを撮って見ようと思ったんだ」
そっか・・・。呟きながらページをめくる。
どこもかしこもホワイトタイガー一色。
懐かしさが胸に込み上げる。
「あれから白炎、姿を見せないの?」
遼たちが新しい鎧を手にしたあの日を最後に誰も白炎の姿を見ていない。
うん、と遼が答える。
「さみしくない?」
いや、とまた遼がこたえる。
「どこにいても白炎が見守ってくれる気がするからさみしくない」
そう言って遼が微笑む。
そっか、とまた呟く。
「でも、遼とかゆの結婚式には姿をあらわして欲しいな・・・」
「きっとどこからか俺達のことを見守っているさ」
当麻のとても優しい声が聞こえる。
そうだね、と言って私は当麻の肩に頭を預けた。
当麻が肩に手を回す。
しばし、思い出に浸っていると突然、カチリ、という音がした。
慌てて見るとさぁやがインスタントカメラを手にしている。
うそっ?!
うろたえてしまう。
「ちょ、ちょっとっ。さぁやっ。それどうするつもりなのーっ」
慌ててカメラを取り上げに近寄る。
が、さぁやはカメラをすばやくしまう。
「こっちの写真をみんなに見せるか撮った写真を見せるかどっちがいい?」
とさぁやが指し示した写真を見て顔が青ざめた。
こともあろうにキスシーン。
あの日、いわゆる夫婦共同作業のケーキカットもなにもないと知った秀と純によって無理やり皆の目の前でキスさせられたのだ。
それを聞いたとき、私は会場中を走り回って逃げたのだけど、かゆとナスティによって捕まえらえて
当麻の前に連行されたのだった。
「ちょっとっー。なんでわざわざコマ送りで撮ってるのよぅー」
写真は一枚だけでなくわざわざコマ送りでわんさかある。
もう、最悪・・・。
そう言えば、キスがやたら長かったことが思い出される。
「計ったわねっ。当麻、遼!!」
叫ぶともっととんでもない答えが返ってきた。
「俺は写真を撮っただけ」
と遼。
「俺は協力しただけ」
と当麻。
どういうことよ?と二人を睨むと当麻が答えた。
「発案者は伸。コマ送りにしろといったのは征士。秀と純は計画を発動させただけ。遼は写真を撮っただけで、俺はただの協力者」
平然と言ってのける当麻の言葉に私の怒りが爆発した。
「五人・・・いいえっ。メンバー全員、非常召集かけてやるっ」
でもって、必殺技、山ほどお見舞いしてやるっ。
怒り狂う私を当麻がどうどう、と言ってなだめる。
それをギッと睨んで手を振りほどくと部屋を出て行く。
「お茶いれかえるっ。かゆ、オーダー取ってきてっ」

「俺と遼はコーヒー。あとは紅茶」
怒り狂っていると当麻が台所へやってくる。
「なんで当麻なのっ?」
「お前、いくらかゆが妹でも今日は客だぞ。客を働かせる奴があるか」
それはそうだけど・・・。判断力が失せたのよ・・・。
でもって当麻の胸をぽかぽか殴る。
「当麻のばかー。当麻が協力なんかしなかったらこんなことにならなかったのにぃー」
しょうがないだろう、と当麻が私をかき抱く。
「皆を散々心配させた罰ゲームだと押しきられたんだから。だいたい、俺は皆を心配させてない。
ほとんどお前の所業だろうが。あきらめろ」
そう言われたら痛い。まぁ、撮られてしまったのはしかたがない。
だけど、ネガを取り上げることはできるかも。
言うと当麻が否定する。
「無駄だ。あきらめろ。もう皆に出回ったらしい」
「なんで他人のキスシーンの写真がいるのよっ」
「それは、たぶん皆が物好きだろから。というより、あれは俺達を一生涯いじめるためのネタだろう・・・」
当麻が深いため息をつく。
うっ。それって否定できない推論。
ああ、こんなことならケーキカットしておけば良かったっ。

さぁや達を見送り、遼とかゆを見送る。その仲のよい後姿が微笑ましい。
家に戻りながら当麻に言う。
写真集を見ながら思っていたこと。
「私、もう一度人生やり直していいって言われてもきっと同じ人生を歩くと思う・・・」
ずっとつらかった。苦しくてつらくてなんども死にたいと思った。
でも、その中で私はたくさん大事なものを得た。
家族、かゆ、当麻、そして遼たち。それにたくさんの愛情に包まれてきた。
つらかったけど、そのたびにどれほど大事にされてきたか思い知った。
かけがえのない思い出。どれも大事な思い出。
そうとつとつ語ると当麻が答える。
「俺も同じ事を考えていた」
そう、と言って私は微笑む。
当麻も優しく微笑む。
ねぇ、と当麻に言う。
「アルバム、一冊買わないとね」
なんで?と当麻が問う。
「だって、これからの写真は二人の写真だから」
今までみたいに別々のアルバムに飾る写真じゃない。
これからは二人の思い出の写真になるから。
当麻が幸せそうに微笑む。
「それじゃぁ、今度の休みに二人で買いに行こう」
「うんっ」
そう答えて当麻の腕にぶら下がる。
これからアルバムを飾る写真、楽しいものだといいな。
そう呟くと当麻が頭をぐりぐり撫でて言った。
「間違いなく、全編ギャグみたいなアルバムになるさ」
だといいな。
うれしい予感が心の中を通りすぎていった。


2018/2/21 写真・・・どっちが回されたんだろう。わが学部学生結婚多し。今でもその伝統はある気がする。 行ってないけどね。遠いんよ。ともかく。 図書館いい本そろってるけど返しに行くのがやばし。地元の図書館で我慢してます。 あゆたちには大阪の中之島図書館があるではないか。うらやましい。