あのねぇ、と私はふふふと笑う。
まさに顔はにやけ状態に違いない。
当麻が、ん?、と尋ねる。
「なーんでもないっ」
やっぱり言わない。
なんだよー、と当麻が問い返す。
「なんでもないったらなんでもないのー」
聞いちゃや、と駄々をこねる。
私の顔がやたらにやけていることに気付いた当麻はそれ以上聞かない。
言いたいような、言いたくないような不思議な気分。
言葉にするのがなんだかもったいなかった。
たいした言葉じゃないけど・・・。
当麻は私の宝物。
たった一つの宝物。
ずーっと大事にするからね・・・。
当麻の腕の中で幸せをめいいっぱいかみ締める。
そうして私は眠りに落ちていった。

あちゃー。
私は教室の窓から雨が振り出したのを見て途方にくれていた。
まさか、降るだなんて・・・。
昨日、天気予想見るの忘れてた。
それとなくバックに入れている折りたたみ傘を捜したら・・・なかった。
この間、乾していてそのまま入れ忘れてしまった。
あゆのおばかー。
どうしようと考え込みながら教室を出る。
その一、走って出て地下鉄の駅に滑り込むか。
その二、生協で傘を買って帰るか。
その三、それともずぶぬれになって帰るか。
その一、は濡れる上に切符代をださなきゃいけない。
というのも大阪に居を移した現在は別の路線で通っているから。
その路線の駅には学校から二十分も歩かなきゃ行けない。
その三は当麻にばれたら怒られるからできない。
当麻はそう言うことにやたらうるさいから・・・。
風邪ひくっ、ぶっ倒れるっとかなんとかぎゃーぎゃうるさい。
雨に濡れても大したことないのに。
となるとその二か・・・。
あんまり出費したくないんだけどなぁ。
傘高いし・・・。
今、お財布に入っているのは私のお金じゃなくて当麻のお給料から出してもらっているお金。
月に一度、福沢諭吉先生を一枚いただく。
いらない、っていってもなにかあったらいけないからと言われてとりあえず持っている。
学校関係は一応、結婚しなかったらまだ親元から通っていたと言うことから
両親に出してもらっているからあんまり意味ないし、必要最低限のものはちゃんと買わせてもらっているのになぁ。
このお金はこういう時に活躍するわけだけど、やっぱりなんだかこういうことに使う気がしない。
バイトでもしようか、とぽつりと言ったことがある。
その時、当麻にもろ反対された。
私が働くと主婦業をやめなくてはならなくなるのは困る、と言われた。
別に家庭教師とかなら一日中はたらかなくてもいいからいいんじゃない?
と言ってもだめだった。
とにかく羽柴家唯一の主婦を失うわけには行かないと言われた。
言われてみると確かに、そうかもしれない。
当麻の家は当麻が12の時に両親が離婚している。
それ以来、当麻の家に主婦と言う文字はない。主夫という文字はあっても。
折角、男二人の灰色の家庭に一輪の花が咲いたんだ、とまで言われた。
私が花かどうかは別として確かに女っ気が復活したのも確かだといえる。
それでもぶつぶつ言っていたら当麻のお父さんまでが出で来て費用を出そうかとまで言われた。
それは丁重にお断りしたけど、なんだか当麻のお父さんとは最近仲が良くなっている。
当麻が居眠りこいてて私が朝早く出る必要のない日は当麻をほったらかして、
当麻のお父さんと仲良く朝食タイムをとるからだ。いまやゲンイチロウ君パパと呼んでいる状態。
義理の父親にそれはないだろうとは思うけど、お父様というと返事してくれないから・・・。
とっつきにくい人かと思ったけど、ちょっと変わっているだけで、当麻と大して変わらない。
そう言ったら当麻は目を丸くして私が偉大だとまで言った。
当麻とお父さんってよく観察したらそっくりなのに、当人達はまるで自覚していないようだった。
学館の出口でつらつら考え込みながら立ち尽くす。
買うしかないかぁ・・・。
と意を決して外へ出て行こうとしたら背後から名前を呼ばれた。
何度か呼ばれてはっと振り向く。
自分が羽柴姓を名乗っていることにどうもまだ慣れない。
「旦那さんがラウンジにいたよ」
その言葉にぎょっとする。
慌てて階段を駆け上がりラウンジに急ぐ。
私が当麻と結婚したことはもう知られていた。
でも顔はあんまり知られていなかったのに、時折、学食デートを目撃され、さらにはさぁやによって
こともあろうに二人のいちゃつき写真を回されていつのまにか学部の人間のように扱われてしまっていた。
写真がまわされてからはこっちに来ないようにきつく言ってあったのに・・・。
ばたばたと急いでラウンジのドアを開け放つ。
こともあろうに当麻はラウンジにすっかり解け込んでいた。
しかも、お茶まで入れてもらって・・・。
私はもう言葉も出ない。
なんだって、こんなになじんでるのーっ???
立ち尽くす私に先輩が声をかける。
お茶どう?って・・・。
お菓子もあるのよ・・・って・・・。おい・・・。
当麻も私に気がつくとこっちへ来いと手招きする。
正直、今すぐに当麻を引っ張って出て行きたいところ。
が、ラウンジには他の学生も果ては教授もいる。
こんなところでうろたえては逆効果な気がする。
確か、ずっと前にこんな事を思ったことがあったなぁ・・・。
内心ため息をつきながら当麻の横に座る。
「なんで玄関で待ってくれなかったの? もう少しで当麻置いてっちゃうところだったのよ」
私はむすっとして言う。
その様子に当麻が、お、と言って驚く。怒り狂うでもなく、うろたえない私に流石に驚いたのだろう。
でも、すぐにそんな表情は失せる。
「待っていたが、声をかけられてついつい。この人、お前が良く話す先輩だと分かったからお前のこといろいろ聞いていた」
なんでほいほいついていってしまうのかね・・・。この夫は・・・。
以前はおよそ協調性とは程遠かったのに・・・。
人見知りの激しい少年はいつのまにか人懐っこい夫に変わっていた。
内心、またため息をつく。
その当麻はやたらうれしそうだ。
「私のこと聞くのそんなに楽しい?」
その問いに当麻が頷く。
「お前、ほとんど多重人格だからな。一応、大学でのお前のことも把握しておきたい」
とかなんとか言ってようするにやっぱり私のことをただ聞きたかった・・・というのが真実っぽい。
だって、もう人前だって言うのに甘えっこ当麻状態なんだもの・・・。
その顔を見たらかなり不機嫌だった私でも思わずにへら、としてしまう。
ああ、どうしてこんなに私はこの人に弱いの?
思わず自問自答してしまう。
渡されたカップを手にしてお茶をすする。
「おいし・・・」
胃がほっとする。
「中国茶なのよ。張さんが持ってきてくれたの」
と先輩が解説してくれる。
「いいなぁ。欲しい」
思わず声が出る。
でも、中国茶って高いし、入れ方知らないしなぁ・・・。
なんてこと考えていると当麻が考え込んでいる。
「どうしたの?」
いや、と当麻が答える。
「秀に言ったら手に入るんじゃないのかと思って」
「いいよ。中国茶って高いし、それに茶器が必要だし、入れ方知らないもん」
その答えに当麻が眉をひそめる。
ん?と見上げてその眉間をなでてやる。
もう人前だろうがなんだろうが構わない。
半ばやけになって開き直ってしまった。
ここまでなじまれたらもう止めようないし、いいかげん隠すのも疲れたし、夫婦なんだから堂々としてればいいのよっ、
と考えてしまった。
こうなったら思いきり甘えてやるーっ。いちゃついてやるーっ。どうだっ。うらやましかろうっ?
「中国茶飲む前に紅茶を飲んでくれたら買うけど?」
当麻はめったに紅茶を飲まない。
いつもコーヒーばかり。一日十杯以上飲んでいる気がする。これじゃぁ、胃が荒れる。
流石に心配。
その言葉に当麻がひるむ。
そこへ思いっきり微笑む。こういうときに一番効果ある微笑み方で。
「お前ー。こんなところでそんな顔するなよー」
流石に当麻が困る。
私はさらににっこり、微笑む。
「その件に付いては後で考えよう・・・」
そうは問屋がおろしません。
当麻の腕に手をかけ、にこにこにこ、ととどめの笑みを浮かべる。
根負けした当麻がわかった、と声を上げた。
「コーヒー五杯にするから、それで勘弁してくれ」
「一杯のみ」
「せめて三杯」
「じゃぁ、間とって二杯、ね?」
にこにこにこっと言う。
当麻はしばし額を押さえていたけど、やがてわかった、と答えた。
ふっ。勝った。
思わず、ガッツポーズを心の中でしてしまう。
それからお菓子に手を伸ばして食べる。
ああ、久しぶりのお菓子はおいしい・・・。
思わず、感動してしまう。
それでもって先輩と同じ講義の話をはじめる。
宗教と医療という人気講座で先輩と一緒になったのだ。
先輩は社会人入試で入っているので年が親ほど離れている。
でもって先輩主婦なのだ。
いろいろ、主婦のノウハウを伝授してもらった恩がある。
医療のことからやがて哲学論に入る。
なんだかんだといってこういうディスカッションは好きなので際限なく話してしまう。
申し訳ないけれどこうなったら夫と言えど完全無視になってしまう。
かれこれ一時間半ほど話してはっと我に返る。
やばっ。話しこみすぎた。
ふっと当麻を見ると当麻は当麻で教授と談笑している。しかも、英語で・・・。
出来のいい夫なんて嫌いだ・・・。
思わずいじけてしまう。
さすがに、もう帰らないと夕食に間に合わない。
ので、先輩に礼を言って立ちあがると当麻のところへ行く。
「帰ろ」
言っても当麻は話に夢中で耳を貸してくれない。
うー、と恨めしげに見つめる。
服の袖口をくいくいと何度かひっぱって当麻がようやく気付く。
「悪い。もうちょっとな」
悪びれもせず、にっこり言われるともう頷くしかない。
うっ。やっぱりこの人が私の弱点ね・・・。
そのまま所在無さげに眺めてしまう。飛び交う英会話。
だけどスピードが速くて何を話されているのかまったくわからない。
私、イギリスで大丈夫なのかな?
いいようの知れない不安が襲う。
と、そういう私の感情にやたら敏感な当麻が私を見る。
ぽんぽんと頭を叩かれる。
「なにすんのよぅ」
「成せばなる、何事も」
言われてうんと頷く。頼りなげに頷いた私を見て流石に当麻も話を切り上げる。
「帰るぞ」
当麻が言ってドアに向かう。
私も足早に後を追う。
ドアを出てすぐに当麻の腕にぶら下がる。
一変した態度に当麻が驚く。
「驚かなくてもいいでしょ? こうなったら思いっきりいちゃつくんだから」
「どういう風の吹き回しだ?」
「別に。悟っただけ。当麻と私は神様の前でも法律の前でもまっとうな夫婦なんだから、
今更恥じる必要はどこにもないって悟っただけ。
愛し合って何が悪いの?」
「俺にけんかふっかけるなよ」
その答えに思わず苦笑いする。確かに声がとげとげしかった。
「ごめん。ついやつあたりしちゃった。許して」
と思いっきり甘える。
うーん。今日の私の精神状態ぼろぼろかも。一定しないし・・・。
当麻が気遣わしげな視線を送るけど、私にもどうしてこうも感情が乱れ飛んでいるかわかりかねるのですっとぼける。
そのまま玄関に着き、当麻の差し出す傘を受け取る。
受け取るけど、当麻の顔をじっと見つめる。
「だめ。これは俺の傘」
そう言って当麻がさっさと自分の傘をさす。
当麻のは青色系のチェック模様。
で、私のはオレンジのほぼ同じ模様。
この間、当麻の傘を変えたときに買ったもの。
私は当麻と同じ傘が欲しかったのに、男物は駄目といわれてこっちにされてしまった。
でも、事あるごとに当麻の傘を利用していた。
流石に今日は使わせてもらえないらしい。
じぃぃぃっと当麻を見つめる。
当麻がため息をつく。
まったく、と口癖が飛び出す。
「なんでこれ、がいいんだ?」
「だって。当麻に似合ってて傘自体が当麻みたいなんだもん」
ぶーっと膨れる。
「いくら俺みたいだと言ってもな・・・。俺がお前の傘差すわけには行かないだろう?」
「だったら傘の中に入れてよぅ」
わかった、と当麻が答える。
「存分に入れ」
言われてわーいと声を上げながら傘の中に入る。
ものすごく昔に戻った気がしてうれしくなる。
ねぇ、と声を出す。
「再会したときの事覚えている?」
「いつの時点の再会だ?」
その問いに思わずうなる。確かに再会はやたら多い。
「当麻が転校してきて私に声をかけてくれたとき」
あの時か、と当麻も懐かしそうな顔をする。
「あの日もこんな風に傘さして歩いたよね・・・。まさか、結婚するなんて思わなかったなぁ・・・」
しみじみ語ってしまう。人生ってまか不思議。
あの時は当麻のこと好きかも、っていう程度の自覚だったもんなぁ・・・。
「俺だって青天の霹靂だ」
当麻も言う。
「お前は四歳の時点で俺のことが好きだといっていたが、俺は考えると余計にわからん。
最初に会ったときから好きだった、とは思うが、決定的な気持ちはどうもわからないな・・・」
当麻が苦々しく言う。
「だからぁー。その件に関してはどうだっていいじゃない。こうやって一緒にいられるんだから、ね?
大体、好きなんて感情いつからとかって決まってるわけじゃないから」
じゃぁ、と当麻が言う。
「お前の確信に満ちた答えは一体どこから出るんだ?」
「謎」
と短く答える。
「謎ってお前・・・」
当麻が絶句する。
「だってわからないんだもん。でも確かに気持ちはあのときに遡るから、そうなんだと思っているだけ」
「お前ってほんとうに偉大だな・・・」
何が?と尋ねる。
「いや、どこがという訳ではないが、お前って時々えらく悟った人間だよな・・・」
「なんかそれってババァって言ってるみたいなんだけど?」
ちろん、と一瞥する。
「誉め言葉だって」
当麻が苦笑する。
「じゅ、ありがたくいただいておく」
るんるん気分で歩く。
しばらく二人とも無言で歩く。
お前さ、と当麻が切り出す。
何?と問い返す。
「やっぱ、変」
変って・・・いきなりなに?
「変わり者当麻に言われたくないよ」
「そう意味じゃない」
へっ?
「お前、ここ最近変だ。漫画やアニメをぱったり見なくなったし、好物のプリンやケーキも一切食べない。
やたら節約節制してるし、おまけに俺が大学へ来てもうろたえなかった。この点はまぁいいが・・らしくないぞ?」
らしくないって・・・言われても。
「別にたいしたことないと思うけど? 
漫画やアニメは卒業したわけで、デザートに至っては太るから食べなくなっただけだし、
それにお金はあんまり使いたくない。大学に関して言えばさっき悟ったと言ったはずだけど?」
「やっぱ、お前らしくないその考え方」
なによぅ。
「私だっていつまでも子供じゃないもん」
「らしさと子供とは別。無理しているお前見てても面白くない」
面白くないって・・・。
「別に私こういうストイックな生活結構気にいってるの。
なんだかお母さんが乗り移ったみたいで嬉しいのよね・・・」
やたら自分が母親のまねをしていることに気付いて結構うれしかったりする。
「いつもばたばたしていて、うれしそうな顔してケーキやら何やら食べて、
漫画やアニメに一喜一憂して、俺が大学来たらうろたえて、やたらと笑い上戸なのがお前なの」
それってすごく偏った見解かと・・・。
「えらく、自分を押しこめていないか?」
はたと気付く。
大学にわざわざ来たのってこの事があったから?
ただ、傘持ってきたんじゃないんだ・・・。
もうっ、と私は涙ぐむ
「心配しなくてもいいって。だけど、言われてみれば当麻の言うとおりかもね。
私はお母さんじゃないし、当麻が好きになってくれたのは私だもんね」
無理してるって自覚はなかったけど。やっぱ、ストレスだったのかなぁ?
ここの所やや感情が不安定だったし。
「やっぱ、当麻のほうが偉大だよ」
そうか、と当麻が問い返す。
「私の気付かない心の動きまで読み取っちゃうんだもの」
「俺はまだ修行が足りないと思うがな」
やめてよ、と苦笑いする。
「これ以上修行なんてしたら私の心の中、全部つつぬけじゃない」
「お前の事ならなんでも知りたい・・・ってやっぱりおかしいか?」
その言葉に赤面してしまう。
「おかしくないけど・・・中学生みたいな事言わないでよぅ。照れちゃうって」
「大いに照れてくれ。その方がいい」
にっこり言われたらもう言葉も返せない。
「一体、いつからこんなに気障気障野郎に大変身したの?」
「お前が俺をそう教育したんだからしかたないだろう?」
言い返されてもっと困る。
「教育って何もしていないよぅ。紫の上状態だったのは私じゃない」
当麻がいるからここまで来れたのに。
「お互いがお互いを変えたってわけだな」
当麻が分析する。
「それっていいことなの?」
思わず問いかける。
「いいんじゃないのか? 少なくとも悪い方に行っていないから。間違ってもすぐ軌道修正してるし」
そっか、と納得する。
あ、でもと声を上げる。
「変わらないものがあるよ」
その言葉に当麻が納得して頷く。
言葉にはしないけど私と当麻は知っている。
当麻と私がどれほど愛し合っているか。それはきっと変わらない。この先、いくら年とっておじいちゃん、おばあちゃんになっても変わらない。
うーん、幸せっ。
私は当麻の腕にぶら下がる。
「おいっ。傘差してるときにぶらさがるな」
「やだ」
久しぶりに私の口癖が飛び出す。
その言葉に当麻が顔をほころばせる。
「やだったら、やだもーん」
それを見てさらにやだを繰り返す。
わかった、わかった、と当麻が答える。
やっぱ、この構図が私達には似合ってるのかもね。
なんとなく思う。
だったら、大いにわがままになって当麻を振り回そう。
「覚悟していてね」
それだけの言葉に当麻が怪訝そうな顔をして問う。
「教えてあげない。知りたかったら当ててみて」
意地悪げに微笑む。
「お前って時々とてつもなく意地悪だよな」
当麻が深いため息をつく。
「それが私らしいって事でしょ?」
「お前に適う奴はこの世にいない・・・」
当麻がしみじみ言う。
いるよ、と一言いう。
当麻が驚いて私を見る。
「当麻」
その答えに当麻が一笑破顔する。
うーん。いつ見てもこの笑顔はたまらない。永遠に残しておきたい一瞬よねっ。
宝物。ふいにそんな言葉が浮かんだ。
当麻は神様がくれた宇宙一の宝物。
幸せ一杯で笑顔全開になる。
「やっぱ、お前に適う奴いないって」
当麻が言う。
「だからぁ。いるっていってるでしょう?」
「いない」
「いる」
意味のないじゃれあいが始まる。
ほんと私と当麻って馬鹿っぷるだ。
でも、ま、いっか。

ピピピと目覚ましが鳴って目がさめる。
習慣的に片手で目覚しとめて片手で当麻を探す。
えっ?
感触があるっ。
うそぉ?
思いつつぱたぱた叩く。
いる!
確認してから当麻のほうを見る。
当麻は久しぶりにベッドで熟睡していた。
えっ? えっ? 一体何事ぉ?
思わず、おでこで熱を測ってしまう。
「ちょっと。当麻どうしたの? どっか具合でも悪いのっ?!」
乱暴に揺さぶってしまう。
ん?、と当麻が目を覚ます。
珍しく焦点が合うのが早い。
「どうしたのっ? こんなところで寝てっ」
その言葉に当麻が苦笑する。
「こんなところって、寝ていたら悪いのか? ここ俺のベッドだけど?」
そーだけど、夜更かしはっ?!
「今日から普通に戻す」
えっ?
「驚くなよ。いいかげん元に戻さないと向こうに行けないだろう? もう七月だぞ?」
あうっ。その事実から目をそらしたかった・・・。
と同時にショックが襲う。
「水無月買いそこねたーっ」
わーん、昨日は六月の晦日の祓えだったのにぃ〜〜〜。
大丈夫、と当麻が言う。
「買ってあるから」
わーん。当麻ありがとうっ。
っていつ?
「お前が熟睡した後、気付いたからコンビニ行ってきた」
思わず、脱力する。
それでもって当麻の胸にすりすりしてしまう。
幸せ〜〜〜〜〜っ。
当麻と一緒にお目覚めなんて。
何ヶ月ぶりだろう?
昨日の幸せの続きみたいー。
「お前って本当に反応が馬鹿正直で面白い」
当麻がくつくつ笑う。
「なによぅ。幸せを堪能して悪い? ずっとここのところ一人だったんだからぁ」
ぷぅっと膨れる。
でも思いっきり甘えて堪能してしまう。しつこいほどすりすりしちゃう。
「いつまで、そうしてるんだ?」
当麻が面白そうに笑う。
えっ? きゃーっ。朝食作らなきゃー。
がばりと起きあがると台所へすっとんでいく。
その背後から当麻の大笑いが聞こえてきた。
こんな朝もいいかも、ね。


2018/2/21 福沢諭吉先生・・・あってるよね? 今も。時々スカイプでなくICQなんぞが出るぐらい古いので聖徳太子かと思ってしまう。 元号も変わるし。古き良き時代です。はい。