その夜、いつものようにメールをチェックした私はぶっとんだ。
新着メールは一件のみ。
件名は「重要、読め」
件名読んだだけで誰だか分かってしまう。
こういう用件のみの件名は当麻しかいない。
当麻とのやり取りはほとんど業務連絡状態。
たいていは読め、とか待ち合わせ時間、とか場所というシンプル過ぎる件名。
その相変わらずの件名に笑いつつ、メールを見る。
そこでぶっとんでしまった。
内容はいきなり「I love you」から始まり、まともに私が判読できたドイツ語も同じ意味。
あとは多分、フランス語とか中国語で愛しているという短文がならんでいる。
一体何事ぉ〜?!
思わず頭を抱える。
そこである事実に思い当たる。
たしかこれとそっくりなメールが数年前に来ていたはず・・・。
めんどくさくて整理していなかった受信ボックスをあさる。
あった。
もう三年も前のメール。
だれだかわからず放っておいたけど、このメール当麻だったんだ・・・。
メルアドは違うけど内容はほぼ同じ。
当時、このメールをもらったあとぐらいにやたら当麻が伸や征士にからかわれていたのを思い出す。
流石の当麻も当時はこれだけの愛の告白はできなかったらしい・・・。
かわいい。
思いつつ、とりあえず、まだ内容が続いているので・・・・スクロールさせる。
おそろしく多種多様な言語で語られているので全部見えなかった。
で、そこで日本語で愛している、と誕生日おめでとうというメッセージに
ようやく安堵する。前のメールになかった言葉。
いや、恥ずかしいけどわけのわからん文字よりは安心するから。
でも、何もわざわざメールで言わなくても今日、会ったのに・・・。
今日は誕生日。
遼が東京からやってきて私とかゆ、当麻と一緒に誕生パーティをした。
そこで私は当麻から彼の言うところの本物の指輪をもらった。
当麻が言うにはまともな貴金属店で購入して鑑定書と保証書がついているから本物、ということらしい。
16の夏、私と当麻は本当に将来を誓い合った。
その時に当麻は安い(?)指輪をくれて、二十歳の誕生日には本物をプレゼントしてくれると言った。
で、そんな約束はころっと忘れていたんだけど、当麻はきちんと覚えておいてくれたのだ。
それで今日一日はこれ以上ないほど幸せに過ぎるかと思ったのにこの駄目押し状態は??
さすがの私でも驚く。
だけど、よく読んだらその後がまだ続いている。
しかも、重要と書かれている。
一体何事?と思いつつ目を走らせる。
どうやら遼がキスの仕方という素朴な疑問を発して当麻がそれにお答えしようと言うことらしい。
それで私に協力しろと言ってきた。かゆには内緒で。
私はもちろん承諾する。詳細を聞きたいところだけど携帯だとかゆに聞かれてしまう。のでネットを使う。
で、ネットで話す前にまず、この証拠物件を消すことにした。
私は今、メインのマックちゃんとサブのウィンを使っている。
ウィンを普段は使って、マックちゃんをいろいろなもののバックアップに使っている。
メールもそのひとつ。マックで受け取るまではメールボックスは空にならない。
そーいや、今年は高価なものばっかりもらっている気がする・・・。
マックを操作しながら苦笑する。
このマックすら今年当麻達にもらったのだ。
これをもらった経緯はややこしい。
もうかれこれ三年前にさかのぼる。
その当時、私はおそろしく不登校児だった。
無理やり高校に入れられ、勉強嫌いだったから自然と学校は行かなかった。
ただ、当麻が私を側におきたがってたし、私もしばらく当麻の側にいたかったから、受験しただけ。
別に学歴なんていらないと思っていたから。
ところが、大転機が訪れた。
その夏、将来を誓い合って私と当麻はいろいろ話し合った。
そのひとつに逃げない、ということがあった。
それは基本的にみんなとの関係から逃げない、ということだったけど、ひいては他のものにも相当した。
で、結果的に高校へもせっせと通うことになった。
だけど、今までサボっていた分のつけは高い。
当然、授業について行けない。
それを見かねた当麻が丁寧に指導してくれた。
それもただ普通に教えるのではなくて、興味を持たせるように教えてくれた。
当麻は基本的にそういう教え方はしない、と思う。淡々と問題の解き方を純やかゆに教えていたのを覚えている。
だけど、私が興味を持った科目は異様に高得点をマークするので方針を変えたようだった。
その結果、やたら国語と世界史がよくて数学と英語は万年赤点となった。
そんなある日、当麻達が進路について話す機会に遭遇した。
当麻は京大に進むと言い、かゆを阪大に進ませると言う。
伸はもう東京の大学に行っていたし、征士も進学すると言っていた。
その中で私はぽつんとしてしまって、思わずうらやましい、ともらしてしまった。
それを聞いた当麻がここぞとばかりに大学進学をすすめた。
高校を卒業したあとの進路もろくに決まっていなかったから勉強してみるのもいいかな、と思ってうなずいた。
そしたら、その翌年、実家に戻ると同時に進学コースのある私立に放りこまれてしまった。
かゆは公立なのに、私だけなんで?
と聞くと、公立の普通科だと受験がまともにできないし、その上の二塁だと私の頭が付いて行けないから真中のレベルのところに入れたといわれてしまった。
言われるとおりだったので大人しく通ったけど、そこはまさしく受験地獄だった・・・。
いやというほど授業を受けてテストの毎日。折角の休日だって模試だもん・・・。
おかげで当麻のところへまともに通えない。
それでも勉強が好きになっていたからなんとかがんばっていたけど、三年のある秋、ついに堪忍袋の尾が切れた。
「大学受験なんてしないっ。当麻のお嫁さんになるっ!!」
その言葉に家族はひっくりかえった。
「折角私立に通わせているのにその言葉はなんだ」
とお父さんに散々言われ、売り言葉に買い言葉で「それなら退学するっ。一人で雄雄しく生きてやるっ」
と叫んで外に飛び出してしまった。
どうせ、当麻と結婚しなくても働き口は確保してあったし、別に中卒だろうが、高卒だろうが、大卒だろうが、そこは関係なかったから。
その言葉をもろに心配したかゆがすかさず当麻に連絡を入れた。
いや、普通の18の女の子の言葉だったら笑って見過ごせるけど、私の場合そういうわけにはいかない。
昔から家出癖もあったし、私が内調の非公式メンバーでせっせと稼いでいたことを当麻もかゆも知っていたから。
また昔の生活に戻ると心配したらしい。
そのつもりはなかったけど、夜の街をふらついていたら駆けつけた当麻に保護されてしまった。
そこで散々説得された。
でも私も譲らなかった。
「今年になって当麻、お休みにデートの一つもしてくれないっ。ずっと受験勉強なんてやだっ」
ハードな高校生活を送っていた私は土日しか当麻の元へ行けない。
それなのに当麻ったらその土日も受験勉強にあてる始末。
せっかくの花の女子高校生ライフはどこーっ?!
と叫びたくなるのもわかってほしかった。
それで当麻が折れた。
「わかった。日曜はデートしてやるからっ。大学受かったら好きなだけ付きやってやるっ。
欲しいものなんでも買ってやるからっ。とりあえず、退学はやめてくれ。俺達の努力を無駄にしないでくれー」
そう言うので意地悪を言った。
「パワーマック買ってくれたら受験する」
パワーマックはおそろしく高い。当時、私はお仕事用に支給されたウィンのノートを使っていたけど、
デスクトップが欲しかった。それでどうせなら違うOSがいいなぁと思っていたのだ。
でも、当麻はバイトもしていないから絶対に買えないとふんで言ったのだ。
そしたら当麻はわかった、と答えた。
今度は私がうろたえてしまった。
「ほんとーにいいの?」
聞くと男に二言はない、ときっぱり言われてしまった。
「そのかわり、絶対にストレート合格しろよ」
と鬼気迫る顔で言われてしまい、もう頷くしかなかった。
約束どおり、日曜はデートしてくれたし、その後の誕生日もクリスマスも遊んでくれたから私も約束を守った。
あわただしく日は過ぎ、私はそういう約束をしたことをころっと忘れていた。
当麻の指導のおかげで私はストレート合格し、四月に入学式に行った。
帰ってみると部屋にでーんと大きな箱が三つ。
マック本体とディスプレイ、それにご丁寧にプリンターまであった。
「な、なに?! これ?!」
「お約束の品です」
とまだ春休みだったかゆが平然と言ってのける。私は一年休学してたからかゆは今は学年が一つ上になっている。
あわてて、箱を確かめると差出人に羽柴当麻、真田遼、河瀬迦遊羅の名。
当麻はともかくなんでこの二人も?
と聞くと、当麻から私との約束を聞いたかゆが流石にそれではお金がたりないだろうということで
遼と一緒に出費してくれたとの事だった。
遼とかゆはバイトしてたからまぁいいかと思った・・・いやよくないけど、当麻の懐にこんな大金あるのかと思わず、
問いただすとどうも当麻はシェアウェアを開発して大金をがっぽり稼いでいたらしい。
で、一人で占領するのは嫌だったのでかゆと共同にしたのだ。三分の一はかゆのお金だし。
だから、このマックちゃんには私の資料とかゆの資料が入っている。
おまけに私はメールのバックアップに使っているからこっちに証拠物件が残ってしまう。
いくらなんでも人のメールをかゆが見ることはないけど、それでもこのメールが目に触れたらやっぱり恥ずかしいし、
企みを順調にすますにはやっぱりないほうがいい。
それでメールを受信して件のメールだけ削除する。
それからまたウィンにもどってQを起動させる。
でもって同時に携帯で当麻にネットに出るように頼む。
すぐに当麻のステータスがオンラインになった。
すかさず、チャットに持ちこむ。

あゆ:メール読んだけど、どうするの?
当麻:お前の少女漫画貸してくれ。
あゆ:いいけど、何に使うの?
当麻:遼を教育する。
あゆ:漫画よりビデオとかがいいんじゃない?
当麻:それはお前の持ちこんだのがあるからいい。
あゆ:えーっ。たいしたのないよ。
当麻:だったらレンタルするから。
あゆ:明日、漫画持っていくからついでにレンタル屋さん、付き合ってあげる(はーと)。
当麻:了解。朝、十時に烏丸口で待っているから。
あゆ:うん、わかった。ね。どんな漫画がいい?
当麻:刺激の少ない恋愛もの。要キスシーン。
あゆ:そういうのって最近少ないんだよね・・・。
当麻:お前、マニアックだから多少はあるだろう。
あゆ:とーまに言われたくないよ(苦笑)。ほかならぬ遼のためだから探してみるけど。
それから、メール、うれしかった。ありがとう。でも、なんでもう一回わざわざ同じメールくれたの?
当麻:返事欲しかったから。
あゆ:へ、返事って・・・^_^;
当麻:お前、三年前レスくれなかったから。
あゆ:あたりまえでしょーっ! 当麻だってわからないのにどーやってレスするの?
当麻:今回はちゃんと分かったろう?
あゆ:分かったけど・・・。
当麻:で?
あゆ:?<で?
当麻:返事。
あゆ:だからうれしかったって・・・。
当麻:それだけか?
あゆ:ああーもうっ。当麻、大好き。愛してるっ。ネットで恥ずかしいこと言わさないでよ。
当麻:なんかかなり嫌そうだが?
あゆ:すき。好き。大好き。愛してます(本気だってば(T_T))
当麻:落ちるぞ。
あゆ:ちょっとたんまっ。
当麻:まだ用があるのか?
あゆ:ほんとーに、愛してるっ。指輪一生大事にするからっ。
当麻:力説しなくてもわかってるって。先に落ちろ。見送ってやるから。
あゆ:うん、じゃぁ、また明日(落ち)。

翌日、私は漫画を紙袋いっぱいに詰めて京都駅を降り立った。
改札口にもう当麻がいた。
「おはよっ」
抱きつきたいところだけど、両手がふさがっていて無理だった。
くすん。
当麻が手を出したので紙袋を渡す。
「お前、少ないって言っていなかったか?」
その量に驚いた当麻が聞く。
「ん。少ないと思うけど?」
その答えに当麻が絶句する。
「お前の感覚あなどった俺が悪かった・・・」
なによーっ。折角部屋中ひっくり返して探してきたのにっ。
「茶店、行くぞ」
そう言って当麻がすたすた歩く。
「遼放っておいていいの?」
「お前のビデオ二、三本押しつけてきたから昼まではビデオの前から離れられないだろう。
俺は同じビデオを何回も見る気はない」
うーん。遼、かわいそう・・・。
いつもの行きつけのお店に入る。
当初はどこに行くかと聞かれたけど、私が何度もそこへ行きたがったからもうそこが定番になっていた。
「あ、今日は私がおごってあげる」
「それはまた、珍しいな。雨でも降るんじゃないか?」
失礼ねっ。私だって流石に反省したのよっ。
「いいから。何頼むの?」
「コーヒー」
ずるっとこける。
「あのねぇ、ここ紅茶専門店なのよ? なんでいつもコーヒーなの?」
「好きだから」
一言のたまう。
ま、いいけど。
私はロイヤルミルクティ、当麻はコーヒーを頼む。
待っている間、当麻に持ってきた漫画のチェックを頼む。
「一応、まともなのを持ってきたけど・・・・」
言われて当麻が漫画を手にする。
その姿に思わず笑ってしまう。
「何だ?」
漫画を手にしながら当麻がごくふつーに尋ねる。手にしているのが少年漫画だと問題ないけど、
今手にしているのはやたらかわいい少女漫画。
その姿はかなり笑える。
「かゆがご愁傷様って・・・」
笑いをこらえながら言う。
「何が?」
「朝、漫画もって京都へ行くって言ったら古本屋にでも持っていくのかといわれたの。
それで当麻に貸すの、って言ったらかゆがご愁傷様って・・・」
もう、だめっ。笑いが止まらない。
少女漫画を持っている当麻って笑える。
「それはどっちかというか遼の方じゃないか? お前のコレクション徹底的に見せられるんだから」
「それを計画したのは当麻じゃない」
お腹を抱えながら言う。
「犠牲者は一人より二人のほうがいい」
ひどっ。
「遼もいずれはお前の弟になるんだから、この際洗礼を受けておいてもらう」
「当麻、遼をいじめてない?」
「お前の俺へのいじめに比べたら足元に及ばない」
それってあんまりじゃぁ・・・。
「それにいじめといってもかゆのためだ。努力してもらうしかない」
うーん。未来の姉婿が当麻ってかなりかわいそうな遼ちゃん・・・。
「で、漫画とビデオでなんとかなるの?」
素朴な疑問が飛び出る。
いや、と当麻がこたえる。
「最後はお前にも協力してもらうから」
へっ? これ以上何を?
「実演に決まってるだろう?」
平然と言ってのける当麻に私は仰天した。
「それって・・・遼の前で・・・するって・・・?!」
ちょっと人前でした事なんて一回こっきりじゃないっ。抱き寄せられるのはしょっちゅうだけどキスなんて人前でしないもんっ。
「至って健全なのだから、安心しろ。挨拶程度にしたらいいから。それにお前、かゆの前だと平気だろう?」
「かゆは妹だからいいのっ」
「お前、一度遼の前でキスしたの覚えていないのか?」
えっ?
「お前が死にかけたときキスしたぞ?」
死にかけたときっていっぱいあるから検索しにくいんだけど・・・?
思いながら懸命に記憶をたどり寄せる。
あ、あの時かぁ・・・。
思い出す。
でもっていきなり恥ずかしくなる。
「今ごろ恥ずかしがってどうする?」
当麻のあきれたような声が聞こえる。
「わるかったわねっ。今や私だって花も恥らう乙女なのよっ」
「俺に迫ったくせになんでキス一つが恥ずかしい?」
信じられん、と当麻が言う。
「当麻の前は別なのぉ〜」
泣きそうな声で言う。
「未来の妹夫婦のためだ。協力しろ。このままかゆと遼が別れてかゆが泣いてもいいのか?」
うっ。それは嫌だ。
かゆを泣かせるためにこっちにひきとめてるんじゃないもん。
「だったら、決まり。日が決まったら連絡するから」
「う、うん・・・」
と私は頷くしかなかった。

計画実行最終日、私はかゆを伴って当麻の家に行った。
内緒の計画だからかゆにばれないように平静を装っていたけど、実際は心臓ばくばくもんだった。
でも、そんなのは取り越し苦労だった。
だって、当麻ったらお出迎えにさっそくキスの大洪水を起こしてくれるんだもん。
そのキスは今までになく優しくて甘いキス。天使の羽のような軽いキス。
もう幸せいっぱいで舞い上がってしまった。
もう、当麻しか見えません状態でなんなく事は進んだ。
ただ、二人ともそんな子供のキスじゃ満足できなくてかゆと遼を二人きりしてに外へ出た後、
某所へ行ってしまったんだけど・・・。
どこへかはいいません。
でもその某所のベッドの中で私はこれでもかっていうほど愛してるを当麻に連発した。
きっと百回ぐらいは言っていると思う。
私には当麻みたいにいろんな言葉で告白できないからせめてたくさん言ってあげようと思った。
そう言ったら一回で十分だって言ってくれたけど、そのときの私はもう幸せで舞い上がっていたから
やたらしつこく告白してしまった。
当麻はそれを嫌がらずただ黙って聞いてくれた。
それもとっても幸せそうな顔をして。
それからずっと私の左手の指輪に唇をつけていた。
もうっ。絶対に当麻のお嫁さんになるっ。
そう心で叫んだ一時だった。
遼とかゆの幸せを願った計画だったのに当の本人達よりも幸せを満喫してしまった・・・。
ごめんね。かゆ、遼・・・。






後書き、コメントなど。

[XX年 XX月 XX日]