lovelovekiss


はぁ・・・。
私はタンスの前でため息をついた。
なんか気が進まない。
「姉様? 早くしないと遅れますわよ?」
うん、と気のない返事をして無け無しの服をいじる。
当麻とけんかしてまだ二日。あんまり顔を合わせたくない。
でも、今日は誕生日で遼もやってくる。
当麻と併せて四人でパーティするのだ。
でもなー。
ちら、とかゆの方を見る。
かゆは女の子らしい格好を決めている。
あーっ。めんどくさいっ。通学スタイルにしようか?
でも。でも。折角二十歳の誕生日だし・・・。
困り果ててかゆに助けを求める。
「かゆー。服貸してー。似合うの選んでー」
困りましたわね、とかゆがため息をついて服を貸してくれる。
鏡で見ると別人のよう。
「馬子にも衣装ってとこか・・・」
ちょっと情けなくなる。
無造作にくくった髪をひっぱってみる。
唯一女の子らしいといえるのはこの髪ぐらい。
降ろして見ようか。
ゴムをとって髪を下ろす。
それから丁寧にブラシを通す。
ついでにめがねもとってみる。
するとめがねでせきとめていた髪が落ちてくるのでカチューシャをつける。
でもって気まぐれに、ずっと前に高校のクラスの子と買ったピンクのリップをつけてみる。
うわーっ。別人28号。
は、恥ずかしいかもー。
やっぱ、いつもの格好に戻そうっ。
あたふたと元に戻そうとしたのをかゆが強引に止める。
「まぁ、すごく素敵じゃないですか。これなら当麻もきっと仲直りしてくださいますわよ」
「そ、そうかな?」
自信なさげに尋ねる。かゆが力強く頷く。
「それじゃぁ、行きますわよ。電車に乗り遅れますから」
あ、ちょっと待って。
引き出しに大事にしまってあるペンダントをつかんで家を出ながらつける。
似合っていようがいまいがこれだけははずせない。
これと指輪はこういう大切なときは必ず付けることにしてるから。

待ち合わせ場所の京都駅。
すぐに待ち人はわかる。
背がひときわ高くて人目をもろにひいている美形青年二人組み。
当麻と遼。
かゆが笑顔で二人に近づく。
一方、私は泣きそうな顔をしてるに違いない。
遼がかゆを見つけて笑顔になる。
つられて当麻が私を見つける。
やっぱ、難しい顔してる・・・。
回れ右して帰りたい・・・。
当麻がつかつか歩み寄ると髪を一ふさつかむ。
「髪、降ろしたのか?」
「う、うん・・・。似合ってない?」
いや、と当麻が言葉少なく答える。
「その方が似合ってる。ほんと、綺麗にのびたな」
「まぁね・・・」
のびたというよりは覚醒時にのびきってしまってその後、またのびたら面倒だからあるていどのばしてそろえているだけだったりする。
今は腰のあたりで切っている。
あいまいに答えていると当麻が手を取る。
それから遼とかゆに目配せして歩き出す。
遼とかゆと当麻はごちゃごちゃ話してるけど、私はなんとなくしゃべりつらい。
やっぱ、まだ怒ってるのかな・・・なんてことばっかり考える。
ごめんなさい、言っていないし・・・。
予約してあったお店につく。
当麻と私、遼とかゆと言った具合に座る。
今年は私のお気に入りのお店でイタリアンのコース。
料理を待っている間に遼がかゆにプレゼントを渡す。
流石にその時は私も嬉々としてプレゼントを見る。
「何もらったのー? 見せて見せてー」
かゆが丁寧に包み紙をとる。
長方形の箱が現われる。
「うわー。それティファニーのオープンハート? すごい。いいなぁ」
遼がかゆにつけてあげる。
なんだか自分のことのようにうれしくなる。
思わず、笑顔がこぼれる。
かゆが幸せそうだと自分も幸せな気持ちになれる。生まれる前から大事にしていた妹だから。
「当麻はプレゼントしないのか?」
遼が不思議そうに尋ねる。
当麻が答える前に私が答える。
「うん。今年、パワーマック買ってもらったからいいの。それに遼たちとこうやっていっしょにいれるだけでいいから」
そうなのか、と遼が納得する。
なんとなく気まずくなる気がして慌てて答えてしまったけど、前から今年はやらないからと言われてから、ないよね。
ちょっと残念だけど。
お気に入りのパスタとピザとケーキを堪能して一次会が終わる。
御会計は遼と当麻が払ってくれる。
まだ時間はたっぷりある。
二次会はどうしようか?とかゆと相談する。
「やっぱ、カラオケかなー?」
その頃には私の機嫌も通常なのできゃっきゃとはしゃいで相談する。
「そうですわねー。いつものところに行きましょうか」
かゆも珍しくはしゃいでいる。
何歌う?などと話してると頭に手が置かれる。
「ちょっと、こいつと話があるから。店、先に行っててくれ」
そう言って当麻に連行される。
うっ。やっぱり、まだ怒ってるのかな?
はしゃいでいた気持ちもすぐになえてしまう。
手をひかれながら上目遣いに当麻の顔を見る。
あんまり、機嫌よくないみたい・・・。

「ここ?」
いきなり鴨川沿いにつれてこられてびっくりする。
ここで泳げとかいわれるのだろうか?
思いながらてくてく歩く。
ある程度歩いてから当麻が岸に近づく。
「もうわがままいわないから。川に放りこまないでーっ」
そう叫ぶと当麻がびっくりしたような顔をする。
「そんな事する訳ないだろうが?」
言いながら当麻が岸に座る。
私もつられて座る。
しばし、沈黙が降りる。
当麻はコートの中のポケットに手を突っ込んでいたかと思うと小さな箱を取り出した。
ピンクのたぶん、指輪とかが入っているような箱。
「これ? 私の?」
阿保かと思うような質問をしてしまう。
「他に誰がいるんだ。誰が」
そ、そーだけど。
「プレゼントしないって言ってたでしょう?」
「これは誕生日プレゼントじゃないから」
へっ?
「お前、忘れてるのか? 二年前約束しただろう? 二十歳の誕生日に本物の指輪を贈るって」
「わ、忘れてた・・・。開けていい?」
ああ、と当麻がややぶっきらぼうに答える。顔はずっと川岸を見てる。
開けるとシンプルな指輪にトパーズの石がはまっている。
箱から指輪を取り出して指にはめる。
二年前もらったブルートパーズと今日もらったトパーズの石がふたつ輝く。
ものすごく幸せでうれしくなる。
気恥ずかしそうに向こうを向いている当麻の手を取る。
それから二年前に口にした誓いの言葉を述べる。
当麻が驚いて私を見る。
涙でにじんだ目で当麻を見つめる。
「続き言ってくれなきゃ、契約成立しない」
今度は当麻が誓いを言葉にする。真剣な顔。
「これで本契約成立、ね」
涙をこぼしながらにっこり笑いかける。
いや、と当麻が涙をすくいとりながら答える。
「もうひとつ、手順を踏み忘れてる」
なに?
と聞きかけてはっとする。
えっ・・・えっ・・・えーっ。ここでーっ?!
驚きのあまり涙も引っ込んでしまう。
「だ・・・っ」
だめ、と言う前に当麻がキスをする。
あの夏の日に交わしたような熱い約束のキス。
長いキスを終えて唇を離したかと思うとまたキス。
ひ、ひとが見てるってーっ。
あたふたとするけど離してくれない。
晩秋の寒い川岸なのにもう恥ずかしいやらうれしいやらで体がぽかぽかしてしまう。
ようやく解放された時はもう意識は半分飛んでいた。
当麻の胸にこてっと体を預ける。
「・・・何も・・・十回以上キスしなくてもいいじゃない・・・」
悪い、と当麻が答える。
「お前の唇って甘いから、ついつい」
その答えに思わず体を動かす。
「ケーキのクリームついてた?」
ばーか、と頭を叩かれる。
「お前、キスのとき何も考えないのか?」
「考えって・・・。そんなことしてるひまないよー」
ほとんど無意識の産物だもん。
キスの後にこうじわーっと幸せみたいなのはやってくるけど・・・。
「甘いとか苦いなんて考えたことない」
ふぅん、と当麻が私を見る。
「実験してやるから何か考えろ」
いうなり、またキスが再開される。
恐ろしく多種多様なキスをされて私はもうもうろうとして力なく当麻にしがみついていた。
「もう、身も心もとろとろー・・・味なんかわかんないよー」
力なく答える。
そっか、と当麻が納得する。ってただキスしたかっただけじゃぁ・・・。
「歩けないよー」
体中力抜けてふにゃふにゃだもん。
「しばらく、ここにいたらいいから」
うん、と頷く。
二人して川を眺める。
その、と当麻が言いにくそうに言う。
「何?」
「ロマンティックに渡してやれなくて悪かったな。俺なりにいろいろ考えたが、
場所的にも時間的にも余裕がなくてな・・・」
いいよ、と私は答える。
「それなりにロマンティックだったからいい・・・。もう、怒ってない?」
ああ、と当麻が答える。
よかった、と私は安堵する。
それから、と当麻がさらに付け加える。
「ここの所、かまってやれなくて悪かった。流石にバイトしなきゃいけなかったから」
いいよーと惰性で答えそうになって慌てて意識を戻す。
「これ、のためにがんばってくれてたんだ・・・。ありがとう。当麻」
思いっきり心をこめて礼を言う。
「かまってくれないとか、ロマンティックじゃないとかいっぱい文句言ってごめんね」
「俺も悪かったから」
二人して顔を見合すとどちらからともなく顔を近づけてチユっとキスをする。
それからにっこり笑いあう。
「当麻、大好きだよ。愛してる」
「俺もあゆを愛してる。きっと幸せにするから」
二人しておでこをくっつけながら言い合う。
「もう、十分幸せだよー」
言ってるとまた当麻の顔が近づくから慌てて止める。
「これ以上、キスしてたら戻れなくなるよ」
私の言葉に当麻がしぶしぶキスをやめる。
「当麻って本当にキス魔だよね」
私は面白そうに笑う。
「お前がそうさせるんだからしかたないだろう?」
面白くなさそうに当麻が言う。
じゃぁ、と私は言う。
「リップの代わりにからしでも塗っておこうか?」
だめ、と当麻が答えてすばやく唇を奪う。
「もう、だめだって言ったでしょー」
わかった、と当麻が言って立ちあがる。
「いいかげん戻らないとな」
差し伸べられた手を取って立ちあがる。
二人して寒風吹き荒ぶ川岸を後にした。

「あーっ。またおかぁちゃまとおとうちゃまキスしてるー」
綺羅の声にはっと我に返る。
見るとほぼ全家族の視線が・・・。
思い出に浸ってついつい・・・。
羽柴家以外はもう信じられんって顔つき。
「恥ずかしくないのか?」
と呆れ顔の遼。かゆの顔も真っ赤。うちの両親なんてあっけに取られてる。
なれた様子なのは羽柴家のゲンイチロウ君パパととーまママとうちの子供達だけ。
家族そろって花見に出かけてたんだった・・・。
いまだにイギリスの核家族から日本の大家族状態になっているのになかなかなれないのよね・・・。
ここにいないのは今だ嫁に行っていないもう一人の妹と遼のお父様ぐらい。羽柴家、河瀬家、真田家とそろってる。
いや、羽柴家だけならいいんだけど・・・。
「別にたいしたことないだろう?」
当麻がこともなげに答える。
「当麻、ここ日本だって」
いまだ、欧米ナイズ状態の夫に苦言を呈する。
あ、そうか、と当麻がようやく納得する。
「ちーちゃんもお口にキスしてー」
千夏が当麻のひざに乗ってねだる。
「だーめ。お口はおかぁちゃまとしかしないの」
めっ、と当麻が言う。
なんでー、と千夏が駄々をこねる。
「お口にするのはお約束のキスだからだめなのよ」
ただをこねる千夏を綺羅がなだめる。
「ちーちゃんもお約束してー」
約束?
ほぼ全家族が異口同音に尋ねる。
娘達の口をふさぐ前に暴露されてしまう。
「おとうちゃまがおかぁちゃまに結婚しようってお約束したときにお口にたくさんキスしたのよ」
「思い出のキスなんだって」
ねー、と二人で顔を見合わせる。
「綺羅ー。千夏ー。御願いだから黙ってー」
もう恥ずかしくて顔も上げられないっ。
興味津々の視線が痛い。
あのね、あのね、と娘達が騒ぎ出すのを必死で止める。
これ以上言わないでーっ。
「でも、今は結婚してるだろう?」
遼が素朴な疑問を出す。
娘達がそれにはたと止まる。
しかたなく、説明する。
「今はね、おとうちゃまの側から離れませんっていうお約束のキスなのよ」
言うと綺羅が当麻を見る。
「おとうちゃまはおかぁちゃまを大事にするよっていうキスをしたの」
なんだかわけわからないと言った顔で娘達が納得する。
「おかぁちゃまとおとうちゃまのお側離れないし、大事にするよ?」
双子がはもって言う。
だから、と当麻が言いにくそうに答える。
「結婚する相手しか駄目なの」
えーっと娘達が声を上げる。
「じゃー、ちーちゃん。りょーへーと結婚する」
ばたばたとかゆと遼の息子に向かう千夏を当麻が慌てて止める。
「やー。ちーちゃん。結婚するー」
「頼むから、まだ嫁に行かないでくれ」
その情けない声にどっと笑い声が上がった。私もおなかを抱えて笑う。
「お前、笑い事じゃないぞ。お前の血を引いてるんだぞ。お前みたいにとっとと嫁に行ったらどーすんだっ」
「それじゃぁ・・・嫁に出したうちのおとーさんの立つ瀬ないって・・・」
その言葉にさらに笑いが広がる。
「私は四歳のときにもう当麻の事好きだったんだから、覚悟しておくのね」
笑いながら当麻の肩を叩く。
いやだ、と思いっきりきっぱりはっきり当麻が答える。
「私がいてあげるからあきらめるのね」
そう言ってチユっと約束のキスをする。
ちぇ、と当麻がすねてまたどっと笑いが私達の間に起こった。
桜の花びらがはらはらと私達の上に降り注ぐ。

約束のキス、いつだってあげる。
愛してるよ。当麻。