プロローグ
桜迷宮

はらはら桜の花びらが落ちるのを沙羅はぼんやりと見ていた。
綺麗だなぁ・・・。
だが、この時点で大転機が起きていようとは沙羅はまだ知らなかった。
母の声がして沙羅は返事を返しながら階段を下りていく。
なにやら違和感を感じるがまだわからない。
ぼんやりとしながら沙羅はふっと母に挨拶をした。
「おはよう。おかあさん」
その言葉を聞いた父、征一が首を傾げる。
「熱でも在るんじゃないのか?」
ほへ?と沙羅は問い返す。
「沙羅、どうかしたの?」
母、綺羅がやってくる。とはいっても母というのも父というのも雰囲気的にわかっただけだ。反射的に出た言葉だからだ。
「ううん。別に。おかーさん、お腹空いた」
普通に言ったはずなのに綺羅は大慌てする。
「あなた、大丈夫? 熱でも在るんじゃなくて?」
タイミング良く姉らしき女性が体温計を投げる。
すんでのところでキャッチして計る。
うーん、と言いながら体温計を見せる。
「熱ないみだいだけど?」
言いながら何かが違うとようやく自分の頭が思い出して気づく。目の前にいるはずの母の顔ではない。我が子が母? 綺羅がおかあさんって??
「なんで綺羅がおかーさんなの?」
はぁ?と家族全員が沙羅を見る。
まさか、と察しの早い綺羅が蒼白になる。
「大学病院に行きましょうっ」
自分のように大慌てな綺羅に沙羅は笑い転げる。
「笑い事じゃないのよっ。自分の名前言ってみなさいっ」
自分の名前? 私は羽柴亜由美といいかけてはっとする。綺羅が母親で父親が征一。だとすると自分の名は? 
「一体なにごとなのぉーーーーー???」
沙羅の叫びは伊達家にこだました。
大学病院に行くとそこには先客がいた。
「綺羅っ」
綺羅の姿を見た千夏が顔色を変えている。
「家の子もなのよっ。記憶が何一つ残っていないのっ」
あわてて沙羅は待合室に腰掛けている男の子を見る。
よぉ、と彼は手を挙げる。
「と、当麻っ?!」
見たような仕草に沙羅は小さな声で名前を呼ぶ。だが、その名前はさっき母親から聞かされた話によると祖父の名前になる。
ちょっと待てっ。ここはいつ、どこでどーなったの?!
沙羅の頭の中はぐちゃぐちゃになった。
さんざん現代科学のたまものにいじられて沙羅は不機嫌だった。
どうやら自分は綺羅の子供として転生したらしい。
それにしてもこの早さはなに?
時の長は何百年かは平和だと言っていたじゃない。
自分が目覚めるときは何かあるときのはずだ。
ゆっくりあの世で静養するという私のプランはどこに行ったのぉ?!
声に出すときっとおかしいと言われるである言葉を沙羅、いや亜由美の意識は心の中で叫んだ。
次第に記憶が走馬燈のようによみがえってくる。が、それは沙羅の記憶ではない。亜由美の記憶だ。沙羅の記憶は仮の物だったらしい。どんなに探ってもかけらすらでてこない。
やばいっ。もろにやばいっ。
これからどうやって生活していったらいいのー?!
日常生活は大体のことは出きる。最新の科学の先端の事物には思わずたじろいでしまうが、自分が死んでから十数年しか経っていないらしくたいていの事はまだ自分が生きていた時代の続きのようだった。
放心して待合室に腰掛ける。そぉっと従兄弟の当夜という少年をチラチラと見る。彼は敏感に沙羅の視線を受け止めて彼女を見るとぶっとんだことを言い出した。
「あゆ、だろう?」
「とっ、当麻なの?」
どうやら自分たちは自分の娘達の元に転生してきたらしい。
こそこそと話し合う。
「だってもう何百年かは静かなはずなのよ。なんでまたこんなに早く転生して記憶までよみがえっちゃうのよっっ」
困ったように沙羅が小声で叫ぶ。
「お前、今年でいくつだ?」
考え込みながら当夜が言う。
「えーとさっき聞いた話だと今年から中二だって・・・」
やっぱり・・・、と当夜が呟く。
「やっぱりってなに?」
「お前、前の時も中二で覚醒しているんだよ。あの夏休みに。これは自動的にそうなっているんじゃないのか?もう」
冷静に分析しないでよっ。
叫びたいがどうやらその言葉に間違いはないようだ。
双方の親がやって来てそこで会話は途切れてしまった。
両親がおろおろとしているのをみて沙羅はいや亜由美はぷぷっと笑う。
あの冷静冷徹な綺羅がこんなにあわてるところを見たのは始めてのような気がする。
「笑い事じゃないのよ。沙羅っ。あなたはまるきり今までのことを忘れてしまっているのよっ」
さすがは当麻の子、悲しむより先にどうするかをすでに考え始めているらしい。
「私、おかーさんのことおかぁちゃまと呼んでいたの?」
尋ねる声に思い出したのか?!と征一が尋ねる。
「ううん。そんな気がしたから」
まさか自分はあなたたちのおかぁちゃまよ、とは言いづらい。自分たちが子供におかあちゃま、おとうちゃまと呼ぶようにしつけたのだ。その伝統が引き継がれているわけだ。
「ねぇ、今までの私はどういう風だったの? 教えて」
一過性の物かも知れないから刺激を避けるように言われていたが沙羅がねだるので綺羅は教えてやった。
それによれば、自分は伊達沙羅。中学二年。どうやら数学好きで剣道部にいるらしい。空恐ろしい自分のプロフィールにおののく。剣道部はなんとかなる。
が、数学好き・・・・。自分は万年赤点だった数学が得意だったらしいのだ。
帰って自分の部屋を見るとたしかに数学の本ばかりだ。
広げてみて頭を抱える。
おまけに数学オリンピックの代表に選ばれていたらしい。
それは大慌てで辞退させてもらった。
今の自分にはなけなしの知識しかない。
よほど当麻と出会いたかったのだろうか?
そうとでも思えないほどの絶好のタイミングでよみがえったのだ。
沙羅の自我は本当にまともになかったらしい。眠っているのでは?
と探してみたが何一つひっかからない。
当夜の方を聞いてもそうらしい。すでに彼は当麻としての自我しかないようだ。
千夏はもって生まれた能力のおかげで乗り切っているらしいし、当夜もなんなくその辺のことはそつなくこなすので別段問題になっていないらしい。
困るのは自分だけ。一番正反対の人生を歩んできて突然くるりと自我が目覚めてしまった。生活が一からやり直しなのだ。
「おかぁちゃま、かゆおばぁちゃまって生きてるの?」
何日かしたある日、決心して沙羅は聞いた。この事態を収拾できるのは彼女ぐらいだ。
ええ、となんなく答えが返ってくる。
長生きしてくれていてよかった・・・。沙羅は心底思う。
「ちょっとかゆおばぁちゃまに相談してくる」
突然の言葉に綺羅は絶句したが、何か分かっているようだったのでしかたなく許可した。
偶然、真田家を訪れた沙羅はまた当夜に出会った。
よぉ、と相変わらずポーカーフェイスで声をかけてくる。
相手が当麻だとわかっているから安心できる。
「かゆに相談しにきたの」
「だろうと思った」
面白そうに彼は言う。優秀な才能は相変わらず転生しても変わっていないらしい。
迦遊羅は二人の正体を一度に見抜いた。遼が目を丸くする。
「年寄りには悪いと思うんだけど、ここしか相談口がなくて」
沙羅が困ったように言う。
「年寄りとはいってくれましたわね」
迦遊羅がころころとおかしそうに笑う。
「かゆはいいわよ。かゆは。でも私の身にもなってよね。ある日目が覚めたら羽柴亜由美なんだもの。沙羅何て人格どこ探しても見つからないし・・・。こまってるのよぉー」
沙羅がすんすんと泣き真似をして当夜が慰める。転生してもなおかつこの二人のいちゃつきぶりには困らされるのだ。
遼もさすがに笑うしかない。
「一番早く仲良くあの世に言ったかと思うともうで戻ってきたのか?」
「そうらしいな・・・。どうやらあゆと一時たりとも離れたくはなかったらしい」
あまりにも早い転生に当夜が苦笑いする。
ちょっとぉと沙羅が文句を言う。
「今の私は伊達沙羅で好きなのは当夜君なんだからねっ」
わかった、わかったと当夜がなだめる。
相変わらずの構図にもう年も世代も飛んでいってしまう。
「よりによって征士の孫娘になるなよな」
面白くなさそうに当夜がぶつぶついう。
「って自分は遼の孫息子でしょうが」
征士に相変わらず焼き餅を焼く当夜に沙羅が笑う。
相談するというよりもすでに昔話に花が咲いてしまう。
それよりもこっちが問題なのよっと沙羅は話を引き戻す。
「沙羅の人生は沙羅の物だわ。沙羅の意識を戻したいのだけど?」
尋ねると迦遊羅も困ったように首を振る。
「沙羅ちゃんの意識と言うより姉様が無意識的に作り出した意識らしいですわ。
ですから沙羅ちゃんの自我はないもどうぜんですの。姉様の今の意識が自我何ですもの」
わーんっと困ったように叫ぶ沙羅を遼がなだめる。
「千夏に話したらどうだ? あの子なら力を持っているだろう? 納得してくれるはずだ」
そりゃそうだけど、と沙羅は呟く。
「千夏がおかーさんだったら問題はないけれどあいにく綺羅が私の母親なのよ。転生などといって理解が得られると思う? おまけにおとーさんはあの堅物征士の息子なのよ。こんな非現実誰が信じるのよーっ」
困ったな、と遼が言う。
「征士だったら納得するだろうけれどあいにく孫娘と来ているからなぁ。しばらく仙台に行ってきたらどうだ? 今も静かな環境だよ」
その言葉に当夜が反応する。
「なにぃ、征士だと。そんなところに一人行かせるのはゆるさんっ」
くわっと目を見開いて当夜が叫ぶ。
「だから今や征士はおじいちゃまなんだって。老人相手に焼き餅妬かないのっ」
沙羅が説得する。
「それよりも当夜はどうするのよ? もう中三なんでしょう? 進路はどうするの?」
その問いに当夜は面白そうに尋ねる。
「お前は何になって欲しい?」
うーんと沙羅が考え込む。
ノーベル賞はしっかり当麻が取った。晩年ではあるが、研究成果を認められての受賞だった。同じ道を歩んでもらっても面白くない。
「今度は好きな物になったら?」
「だったら文系で攻めようか・・・」
当夜が考え込む。
「あー。もう出来のいい頭はいくらでもなれるわよね。なんでも。なんだって沙羅は数学好きだったのよ・・・」
仮にだろうが作り出した人格が恨めしい。数学の出きる人にあこがれてはいたが思い出してこうなってはなんの効果もない。
「俺が数学をみっちり教えてやるから心配するな」
当夜がいい、沙羅は絶句する。
「いやよっ。数学なんて見たくもないっ」
「だが、オリンピック代表だったお前がいきなり赤点とったら綺羅は絶句して倒れるぞ?」
その答えにぐっとつまる。
「私はおじいちゃまのところへ静養にいくんですっ。従兄弟でも男の子がわざわざ受験を捨ててついてきたらおかしいでしょうがっ」
「千夏に話を付けておけば文句ないだろう?」
えっ?!と沙羅は聞き返す。
「千夏にばらすの?」
いや、と当夜が答える。
「おおかたばれているらしいぞ。推測はつくが認めるのがいやだってことらしい。まぁなぁ、親に自分の子育てを見られているのはいやだろうしなぁ・・・」
妙に理解のある答えを当夜は導く。
「じゃぁ、うちの堅物とーさんはどうするのよ?!」
「綺羅にばらすしかないだろう。仮にもお前の子だ。なんなく順応するだろう」
その時は当夜もつきあってよねっと沙羅が叫ぶと簡単にああ、と答えが返ってきた。悩みやすい性格は相変わらず自分だけのようだった。
当夜の巧みな説明によって綺羅と千夏は納得したようだった。初めはぽかんとくちを開けていた綺羅だったが、千夏の不思議な力をしっているからなんなく理解したらしい。
「というわけで現実生活になじむまで俺達征士のところに行ってくるから」
当夜が当然のように言って二人はうなずくしかなかった。

桜の花びらが桜吹雪になって散っていく頃の事だった。





後書き

[2018年 02月 21日]

エピソードもいいのですがなかなか日の目を見ない来世編。いい加減お披露目せねばとファイル作ってます。 人名も直さないと。ころころ変わってるので。マンガの影響も多し。ある程度は変えましたがファイル読み返したらいろいろと・・・。 来世編、またどたばたするのでおたしみください。そのあとはまだ真っ白です。