いつものように王の元に出向くとそこから重い樫の扉を開けて当夜がでてきた。沙羅とすれちがう。声をかけようかと躊躇する沙羅をよそにあっというまに脇を通り過ぎる当夜。
どうして?
沙羅の胸は大きく疑問を叫び、切なさがあふれた。
当夜じゃないの?
私を忘れたの?
生まれ変わってもまた出会った私を忘れたの?
暗い顔をして扉を開けようとして沙羅は気を取り直して表情を元に戻すと王のいる部屋へと向かった。依然、重たい心はそのままに・・・。

ある寒い冬の早朝、沙羅はセルウィンにたたき起こされた。
「姫様! 姫様!」
セルウィンの涼やかな声が珍しくとがって聞こえたのを変に思いながら沙羅は眠い目をこすって起きあがった。
「一体、なぁに?」
寝ぼけ眼で問いかける。
「すぐ、王と共にお逃げください。戦が始まりました」
戦?
古めかしい言葉に唖然としながらもそれを戦争と置き換えて沙羅は飛び起きる。
「おじいちゃまはどうしたの?」
「すでに隠れ部屋においでです」
そう、と沙羅は一つ受け流して一息つくとぽっとベッドから飛び降りた。
「それで大臣たちはなにをしているの? 戦況は?」
沙羅の目は据わっていた。冷静になった心は戦況を見定めていた。ほんのすこしかいないこの国の苦境を乗り切ることができるのか? 昔戦ったような戦いでない近代兵器の戦争に勝てるのか? 沙羅の心はまるでコンピューターのように状況を分析し始めていた。眠っていた戦士としての心がざわめく。
その冷静さときびきびした声にセルウィンは驚きのまなざしを向ける。
普段のふわっとぼんやりとしたかような沙羅の様子とはひと味もふた味も違うからだ。
「現在、防衛ルームに続々集まっております」
続々じゃおそいってーのっ。
沙羅は心の中で叫ぶとわかったと一言いって着替え始めた。
着替え終わるとすたすたと部屋を出ていき、セルウィンが追いかける。
「そちらではございません。以前お教えしたように・・・」
焦ったセルウィンの声が聞こえるが沙羅は無視をして最短ルートで防衛ルームに入った。
部屋に入ったとたん、大臣たちの視線が集まった。
「戦況は? 相手の状況は? 誰が把握しているの? 指揮官は誰? セルウィン訳して!」
セルウィンがあわてて訳す。聞こえてきた言葉に大臣たちがざわざわしだす。
「おじいちゃまがいない間、私が代表を代理します!」
いきなり現れた姫君の登場とその言葉に大臣たちは呆気にとられる。ただの少女になにができるというのか。大臣たちは誰もがそう考える。一回の少女に戦争などわかるはずがない。
「姫君はなにもわかっておられない。ここは私たちで防ぎます。姫君は王と共に安全な場所においでください。それが国のためです」
大臣の一人が答える。
「すごすご引っ込んでいると思ったら大間違いよ。国民を不安に陥れて置いて自分たちだけ隠れているのはいやですからね!」
通訳しないと通じないもどかしさもあって激しい口調で沙羅は反撃する。
だが、姫君と言われている一方で大臣たちに基本的に好まれていないのは知っていた。財産ねらいだとはっきりもの申す者もいるぐらいだ。
沙羅の反撃に彼らが躊躇している間にいらいらし出した沙羅は大声を上げて怒鳴りつけた。
「ミスター・真田当夜を呼びなさい! 彼なら私よりも戦争に関して知識も作戦もあるわ。私がだめなら彼に指揮を執らせなさい!」
無謀な発言だと思うが一番戦争に精通していそうなのは確かに当夜だ。同じ少年少女でもあちらは智将をはってのけているのだ。その事を彼らはしらない 
。天空の当麻としての記憶、当夜としての才能が合わされば大きな財産になる。この戦争でも重宝するのはわかっていた。
「言われなくてもここにいる」
寝起きで不機嫌そうな当夜が後ろに突っ立っていた。
驚く沙羅を後目に前にでるとずいっと書類をつきだした。英語を話しだす。
「王、直々のご要請で指揮を執ることになった。文句があるならこの書類にいえ」
王直筆の要請書は効いたらしい。
大臣たちが不満そうに頷く。わけのわからない沙羅はセルウィンに次第を聞いて安心したように納得する。
「ですから・・・姫君は・・・」
言い出したセルウィンをぎろっと沙羅はにらみつける。
「指揮官になれなくてもできることはあるわ。少なくとも権力者がここにいるかどうかが志気ににも影響がでるものよ。少なくとも私は今、王女だわ」
沙羅の言葉にしぶしぶセルウィンがうなずく。説得するのをあきらめたらしい。
当夜の方は沙羅たちには目もくれずてきぱきと指示を出し始めた。
はじめは不審そうな大臣たちも当夜の確実な指示を得ててきぱきと動き出す。
最新鋭の機器を当夜自身扱いながら情報戦を繰り広げていく。
海を越えてやってきた潜行廷の動きを確実に把握しては防いでいく。
こちらからは必要以上に攻撃しないようだ。攻撃によって相手に侵攻の理由を与えるためだ。専守防衛の方針らしい。
飛び交う国の言葉を片耳にしながら沙羅はモニターをみながら観察を続けた。
何時間も立ったままモニターを見続けてようやくほっとしたところで沙羅は座りたくなった。
当夜がいればこれほど安心なことはない。だが、ここから立ち退くつもりはなかった。王の孫として、王位継承者としてここにいる権利と義務がある。それが仮の姿であっても。本当の王女が日本で眠り姫となっていても、だ。むしろ彼女の立場を悪くしないためにはこちらのほうがいい。甘く見られては困るのだ。
しっかりしなければ。
セルウィンに解説させながらひたすら防衛ルームに居続ける。
それが空気のように扱われているとしても。
申し訳なさそうな程度に大臣たちの端っこにいた従兄弟のナルが椅子を勧める。それぐらいしかできないのだろうか?
沙羅は冷ややかに思いながらもほほえんで椅子に腰掛けた。
たち続けた足がようやく緊張から解き放たれる。
安心した拍子にふっと意識が遠のいた。
しばらくして目を開けるとまだ戦争は終わっていなかった。
戦況を改善しようと皆、懸命に働いている。
ほんの一瞬でも気を緩めた自分が情けなかった。
いつも自分はどこか爪が甘い。
自分を改めて沙羅は叱咤する。
「お疲れのようなら・・・」
セルウィンが申し訳なさそうに言い出す。彼自身沙羅につきっきりで疲れただろう。王の様子も見たいはずだ。疲れているのはセルウィンだけではない。大臣たちも。その部下たちも。当夜も疲れ切っているはずだ。
沙羅は立ち上がるとつっと防衛ルームを抜け出した。
セルウィンがあわてて追いかけてくる。
「あなたは王のところにでも行って様子を見てきたら? 私は何かみなさんにつくってみるわ。食事抜きでしているのだから」
「なにも姫様がなさることでは」
「宮殿の女性たちはすでに非難しているのでしょう? 女手が必要と言えば食事ぐらいだもの。それぐらいはできるわ。サンドウィッチとコーヒーでも中くりましょう。私は逃げる気はないの。あのナルだけでは王家の代表は頼りないわ。当夜がきてくれたのがせめてもの救いだわ。おじいちゃまもみるところはみていらっしゃったのね。さぁ、準備に取りかかるわよ」
沙羅はすらすらと言葉を言うとさっさと厨房に移動する。セルウィンが転がるようにして後を追いかけてきた。
「姫様だけにそのようなことはさせられません。私もお手伝いします」
追いついたセルウィンの言葉に沙羅はにっこり笑った。
沙羅がいなくなってほっとしたのだろうが、また舞い戻ると皆びっくりしたようだった。逃げ帰ったと思われていたのだろう。
だが、その手に大量の食事があると知って大臣たちはさらに驚いた。
「私にできることは少ないけれども、国民と一緒に戦うこともできるし、あなた達の役にも少しは立つと思うわ」
沙羅はそういうと食事を供給しはじめる。
皆、疲れ果てて不満げだった顔が少し和らいだ。沙羅はそれだけで満足した。夏音の存在を認めさせることができたようでうれしかった。
「みんなが交代で食べている間に少し、おじいちゃまの様子を見てくるわ。一緒にくる?」
セルウィンに声をかけると彼はうれしそうにうなずく。一番行きたかったところなのだ。
セルウィンを先導として隠し部屋に行く。
王はまるで防衛ルームにいたかのように疲れた様子でそこにいた。やはり隣国の侵攻は心痛なのだろう。体に悪い。沙羅は少し不安になった。
「おじいちゃま、大丈夫? 当夜を行かせてくれてありがとう。絶対にこの国は守られるわ。安心しておじいちゃま。私はどこにいてもおじいちゃまといっしょよ。今は国民と一緒に防衛ルームにいるの。おじいちゃまの代わりに。そうすればきっとこの国は守られるわ。すぐに戦いは終わるわ」
王、カシミール国王は孫の顔をようやく確認して安堵するとほほえんだ。
二人とも疲れがにじみ出ていたが、二人ともそれぞれの事情で当夜を信頼しているせいか展望は明るかった。
「こんな時に隠れているのは気が進まないがね」
「しかたないわ。おじいちゃまは体の具合が悪いのです者。しばらくは私がそばにいます。でもあちらにも顔を出させてください。彼らにまかせっきりなのはいやなの。私はこの国の王女なのでしょう? しっぽを巻いて逃げるのはいやです。国民を見殺しにして自分たちだけ助かるのはいやです」
沙羅が涙混じりに訴えると王はしぶしぶ了承する。
「カノンも私に似て積極的なようだ。だが、決して邪魔はしてはいけない。大臣たちと当夜君で十分だ。ナルはいささか心配があったから極秘に彼に頼んでおいたのだよ。もう以前からアーシュラ国の不穏な動きは知っていたからね・・・。ナルも彼を見習ってくれたらいいのだが・・・」
王はため息をつく。ためらいがちに沙羅が口を開く。従兄弟の悪口を言うのはなんだが、実際そうなのだからしかたない。
「ナルは王座にだけ興味があるようですね。おばさまの影響かしら?」
不満げに沙羅もため息をついた。この非常時に活躍してくれるどころか蛇松買いになっているのが事実なのだ。同じ邪魔扱いででも戦力となるはずの王子がこれでは先が思いやられる。
カシミール王も苦い顔をする。沙羅はその頬にキスをする。
「おじいちゃまは頭を悩ますことが多すぎるわ。少しは安心していただかないと」
沙羅がほほえむと王もほほえむ。
しばし、祖父と孫の休息を楽しむ。小一時間ほどすんで王が浅い眠りにつくと沙羅は立ち上がってまた頬にそっとキスをするとでていく。セルウィンをそこにあえて残す。
王にはそばにいてあげる人間が必要だ。だが、私は逃げるわけには行かない。眠り続ける夏音のためにも。
沙羅はまた戦いの場に赴いた。
戦争はいち早く侵攻を察知したシルヴァーダ国の防衛が功を奏して二日で終わった。
警戒態勢を残したままの終戦となったが。
カシミール王は戦いが終了したことを国民に告げ、冬の騒ぎは幕を落とした。
そして防衛ルームからは当夜の姿は消え、彼はふつうの学生に戻った。
彼自身が本物の真田当夜か、沙羅の知っている当夜か、という疑問を残して。
沙羅もまた老王の孫娘を演じる毎日に舞い戻った。

三回目の人生も第二部終わり第三部のいちゃいちゃをどうしようかと考え中。こちらはほったらかしでした。 はてさていちゃいちゃもん書くかオリジナルに向かうか謎の私です。ショートショートのサイトまで作ったしなぁ。でそのついでに更新。 本家は止まってますがいちゃいちゃもん書くのが好きな私です。