沙羅は震源地の海に向かうと途中、僧院へ寄った。
そこにはかつての子供の子孫の少年がいたからだ。
大僧正にあって説明しようとしたそのとき大僧正の方からでてきて少年を預けた。
「ご自分の間違いを正されよ」
何もかも知っているような大僧正の言葉に後押しされて沙羅は剣の子供と少年と三人で海中遺跡に向かった。
海中に行くとき沙羅は不思議な力がわいてくるのを感じた。
女王の力だった。海中遺跡まで海が割れた。その道を急ぐ。
遺跡には男がゆらりゆらりと幻のようにいた。
だが、確かに男が地震を起こしていた。
眠りについていた神殿の神を揺り起こしたのだ。
神の花嫁がいないと気づいた神は怒り、狂っていたのだ。
「どうしてそんなことを・・・? 今また繰り返すの?」
沙羅は問うた。
男が振り向く。
「来たか。裏切り女が。いや、ただの子供か・・・」
「私よ。カリナよ。裏切ったと思われてもしかたないと思っている。でも私にはもう帰るところも帰る人もいるの」
「一度ならずも二度も裏切るのか! お前は!!!」
「私はもう沙羅という人間でカリナではないの。記憶だけ残っているだけ。私は沙羅。伊達沙羅なの。あなたもこうやって現世にとどまっていないで輪廻の輪の中に戻って。あなたは裏切られたかと思うかも知れないけれども。女王は決して恋人をあなた以外に作らなかった。いつも後悔していたわ。あなたを捨ててしまったこと。そしていきわかれになったあなたとの子供のことをいつも心配していたわ。死ぬまで女王の心はあなたのものだった」
「うそをいうな。私を大陸まで追い出した女に何がわかる。俺よりも他人を愛した女に復讐をするためだけいるのだ! 聞くがいい。神殿の神よ。お前の花嫁は俺だけでなくお前も裏切った。もうこの国には戻ってこない。そういったのだ。おれは聞いていた。セルウィンという男に乗り移っていたからな。すべてお見通しだ。お前たちが考えていることなどすべて知っている。そうさ。俺がお前をこの国に来させた。復讐するために。そのために王女一家を殺したのだ。失敗した王女は気がつかないようにしたさ。つい先日まで寝ていたのはそのためさ。どうして目が覚めたかはわからないがな」
「あなたが、すべてをしくんでいたのね! なぜ罪もない王家の人を殺そうとするの? この国にはまだ生きたい人もたくさんいるのよ! あなたの思うとおりにはならない。その証拠に王女が目覚めた。彼女は王の孫を思う気持ちに反応して目が覚めたのよ。人の心は一筋縄ではいかないのよ。単純に憎いからってすべてをぶちこわしていいわけじゃないんだから!」
沙羅は我を忘れて叫んでいた。女王としてではなく沙羅として言葉を発していた。等身大の自分がそこにいた。
だが、それが男をよけいに刺激した。
「生まれ変わってなお、他人を大事にするか。俺よりも他人が大事か!?
それならばこの国ごとお前を沈めてやる。聞け! 神殿の神よ。お前の花嫁はお前を見捨てた。一千年前に見せたその力でこの国もこの女も殺してしまえ!」
「だめよ! そんなことさせない」
沙羅が叫ぶ。
「どうするというのだ。お前にはもうかつての女王のような力もない。ほかに何ができる」
「何もできない。でも話すことはできる。女王は本当に死ぬまであなたを愛していた。でも彼女は国民を守る義務もあった。だからあなたと戦ったそのときはほんとうに身を切る思いだったのよ。あなたとの子供。その子孫がこの少年よ。女王とあなたとの愛のあかしはこうして続いてきたの。これからも続くわ。だからもう愚かな事はやめて。もう眠りについて。神よ。花嫁はもういない。これからずっといない。あなたの支配する時代は終わったの。これからは人が人を導くのよ。静まって。静まりなさい!」
沙羅が両手をかざして宣言すると逆らうかのように竜巻が起こった。
それを沙羅の両手が制する。沙羅は古代語で詠唱を唱えた。するとしだいにその場は静まっていった。
「ちっ。神はまたも花嫁の言葉に従順なのか」
悔しそうに男がつぶやく。うつろな目は何を写しているのかもうわからなかった。
「ならば実力同士でいこうか。お前に私を殺せるか? 愛した男を。もう一度裏切れるか?」
その言葉に沙羅は一瞬詰まった。だが、脳裏に当夜の姿が浮かんだ。
今の私は沙羅。女王の愛はもう眠ってしまった。もし愛があるならば今ここ彼に眠りを与えること。輪廻の輪にいれてあげること。
「パオ。力を貸して」
沙羅は剣の子供に告げる。
子供はうなずいて剣の姿に早変わりした。
沙羅はそのずしりと重い剣を握りしめる。
「ふらふらしているじゃないか。俺の心臓はここだ。女王よ」
男が怠惰な口調で告げる。胸をとんとんと指し示して挑発する。
「待っていて。今、女王の魂のところへつれていってあげる」
沙羅はだっと走り出した。剣をもったまま。
そのまま男の懐にはいり突き刺す。
ゆらゆらしていた幻が実際に刺したかのような実感を伴わせた。
沙羅の瞳から涙がこぼれる。
「ごめんなさい。今の私にはあなたにこれしかあげられない。女王の眠る場所につれていってあげることぐらいしか」
男の体がくずおれる。
「馬鹿だな・・・」
男の瞳にようやく希望の光が宿る。
「今も昔も馬鹿な女だ。どちらかをさっさととればよかったものを。今度はちゃんとお前の元へ行くよ」
沙羅の涙をふいたかとおもうとはたりと手が落ちた。
男の瞳から光が消え。体は灰となってきえた。
空気をむなしく沙羅は抱きしめて泣く。
「ごめんなさい。ごめんね。愛しいあなた。眠りについて。そしてまた会いましょう」
沙羅は泣きながらつぶやきながら灰をかき集める。
止まっていた時間がまた動き出す。
揺れ動く遺跡をあとにして沙羅たちはからくも遺跡から抜け出せた。
後ろで割れていた海が元に戻った。
遺跡は二度と見つからないだろう。
海の奥深くに沈み神も眠りにつくだろう。
これからは人が人を導き生きていくのだ。
海岸で振り向くと当夜が待っていた。
走って抱きつく。
「だたいま。当夜! 私は・・・」
「沙羅、だ。俺の大好きな」
当夜が微笑む。剣の子供が焼き餅を焼いているが2人は気にしない。少年は目のやり場に困っている。
「いつかお嫁さんにしてくれる?」
「お前よりいい女がいなかったらな」
「ええーっ。およめさんにしてよー」
「どうしようかなぁ」
沙羅をしっかりと抱きしめながら当夜がじらす。
それでも2人の間にはもうわだかまりもなにもかもなかった。
当夜と沙羅。2人の関係はいつもどおりの関係に収まっていた。

数日後。沙羅は僧院にいた。
王弟婦人は従兄弟の要請もあり、軟禁状態に置かれ、僧院で修行をしながらすごすこととなった。
沙羅は自分が王女でないことを告げるために行ったのだが、あっさりと認められて驚いた。途中から気づいていたのだが、もうあとにはひけなかったのだと婦人は語った。息子のために馬鹿なことをした母親だとも言った。
夫亡き後、息子が王位を次ぐのだけが生き甲斐だったのだと弱い母親は語った。そして沙羅は僧院の片隅に女王の塚問われる盛土のそばに灰を埋めた。男の灰である。
せめて一緒にいられるようにと沙羅が願って実現したのであった。
そこに女王の亡骸が本当にあるのかはわからないがそうすることで男の魂が安らぐのだと信じていた。
古い恋を葬り、沙羅は新しい空気を吸っていた。新しく生まれ変わった気がしていた。見知らぬ土地に来て見知らぬ人を演じてそして古い恋を葬ってやることをすべて終わらせて自分は生まれ変わった気がしていた。
死は再生の道。男の魂もやがて天に昇って輪廻の輪にはいる。自分もきっとまた輪廻の輪に入って生きていく。当夜とのつながりだけ消えないが。
でも私は新しい沙羅として生きていいける。
沙羅は女王の恋を葬ることによって新しい達成感を得て生まれ変わった気持ちを持っていた。
私は私。記憶はこれからも続く。女王の子供の血が続いたように。つながっていく。だけど私は私なのだ。失った過去よりも未来を生きよう。今を大事にしよう。新しい沙羅として生きていこう。失ったものを求めて嘆くより新しく得たものを大事にして生きていこう。
沙羅は灰を葬りながら心の中でつぶやいていた。
決心を灰とともに埋めていく。
作業が終わって振り向くと当夜がいた。
そこには自分とそっくりな女の子の姿。
「はじめまして。夏音です」
少女がぺこりと頭を下げる。
あわてて沙羅も頭を下げる。
「はじめまして・・・私は・・・」
新しい出会いがまた人の輪を作りだしていく。人との出会いがいろんなことをを導いていく。少年と剣の精も沙羅と当夜の家にホームステイすることになっていた。新しい日々が始まる。
「伊達沙羅です!」
風がさわやかにふいて沙羅の髪をなでていった。





後書き、コメントなど。

[XX年 XX月 XX日]