「姉様なんてだいっきらい!」
 迦遊羅はそう言い放つと部屋から飛び出た。階段を駆け下りるとリビングの窓から飛び出る。後ろで亜由美が当麻に追いかけるように言っている声が聞こえる。またそれがしゃくにさわる。当麻が好きでも彼は絶対に自分には振り向かない。それがどうしてあの姉にはわからないのだろうか。              苛立ちが頂点に達する。と同時に当麻が迦遊羅をつかまえた。
「どうしたんだ? 泣いているのか?」
「どうして、忘れたんですか? 当麻が姉様へ言ったことを忘れたから姉様は当麻を私に譲ると言い出したのですよ?」
「俺が何を忘れたって?」
当麻がいぶかしむ。
「姉様の戦いで当麻が姉様に言ったことです。当麻はあの時、姉様に好きだと言ったはずです。
姉様はそう聞いたといっていました。それなのにあなたは一言も覚えていない。だから、姉様は自分の気持ちを殺してしまった」
「なぜ、殺す必要がある?」
「姉様が言うには戦いは終わっていないから、と。その一点張りです。
はっきりとは言いませんでしたが、姉様はほとぼりがすんだら姿を消すおつもりです」
それを聞いた当麻の目に怒りが宿る。
「あいつと話をつけてくる」
当麻がきびすを返して歩み去る。しばらくして迦遊羅もその後を追った。このまま勝手なことをされたままにはしておけない。
 戻ってくると亜由美はほっとしたような顔つきで迦遊羅と当麻を見る。が、そんなことで許せるわけがない。
当麻が何かを言うより早く迦遊羅は姉、亜由美を平手でたたいた。乾いた音が部屋にリビングでひびく。
「あなたと言う人は! どれほど勝手な振る舞いをしているかわかっているのですか? 人の心をもてあそぶのはいいかげんにしてください。
当麻を譲るですって?! 当麻はものではありません。当麻がどれほどあなたを想っているかはあなたが一番知っているでしょう?彼が言ったことを忘れたとしてもそれは変わらない。
私は天空を愛した。でもそれは偽りの姿を想っているだけに過ぎない。本当の彼を想っているのは姉様でしょう? どんなに想っても彼は私の気持ちにはこたえらない。
私を選ばない。
それを知っていてわざわざ譲ると言うのですか? おまけに姿を消すとまで言う。
なぜ、気持ちを殺してしまうのですか?!
その言葉と態度がどれほど私達に残酷なのか知っていますか?
当麻の気持ちも私の気持ちもまったく考慮外ではないですか!
誰が想の戦士ですって?! 今のあなたの姿が人を、すべてを愛する想の心を持っているとは信じられません。
勘違いもはなはだしい!」
 迦遊羅の激しさに誰もが驚き黙ってしまう。もともと勝気だからしかたないのだが、今まで現世で暮らしていた迦遊羅はもっと大人しかった。亜由美は言葉を失う。くるり、と迦遊羅は背を向けて歩き出す。
 その背中に声がかかるが迦遊羅は一言言ったきりだった。
「私はあなたを軽蔑します」
 そしてそのまま先ほどの外に出る。裸足ででていったがゆえ足に石がごろごろと官職は悪かったがそんなことを考えている余裕などなかった。怒りだけが迦遊羅の中に増幅されていく。まるで妖邪の元にいたときに戻るような気がして自分が恐ろしくなってくる。その背中に遼の声がかかった。はじめは当麻がまた追いかけてきたのだと思ったが、勘違いだったらしい。
「迦遊羅」
足早に去りゆく迦遊羅の背中に静かに遼が声をかける。
その妙に落ち着いた声に迦遊羅が止まる。
「迦遊羅が当麻のこと好きなのは知っていた」
その言葉に迦遊羅が振りかえる。
「つらかったな。好きな人は大好きな姉さんが好きで、姉さんもその人が好き。
そのまま二人がくっついたらいいのに、姉さんは自分を思って好きな人を譲ると来た。それってかなりしんどいよな。俺もなんとなく、わかる。
俺は迦遊羅のこと、好きだ。だから、当麻の事好きなの見てて結構つらかった。
でも当麻が迦遊羅を好きでそれなのに迦遊羅を譲るとか言われたらやっぱり怒ると思う。馬鹿にするなって思う」
その告白に迦遊羅が目を見張る。
「ひとりでがんばらなくていいよ。こんな俺で良かったら迦遊羅のそばにいさせてくれないか?
つらいとき、悲しいとき、慰めたい。迦遊羅が笑った顔が俺は好きだ。微笑んだときに顔がふわっとするのが好きなんだ」
遼の告白に迦遊羅は驚き、そして急に涙が込み上げてきた。
ぼろぼろ涙をこぼす。嬉しいのか悲しいのかよくわからない涙がこみ上げる。
勝気な迦遊羅が涙をこぼすのを見て、遼は近づくとそっと抱きしめた。
迦遊羅はそのまま泣きじゃくる。
その勝気な瞳の奥でどれほど涙をこらえたのだろう?
遼は泣きじゃくる迦遊羅の長い髪をぎこちなく、だが優しく撫で続けた。

「俺、当麻のかわりにならないかな?」
ようやく、涙が止まった迦遊羅にやや照れながら遼が言う。
いいえ、と迦遊羅は小さく答えた。
好きになってもらうことがこれほどうれしいことだとは思わなかった。
自分の気持ちが報われなかっただけに想ってくれる人は大事にしたい。
それに自分はこの瞬間に遼を好きになった。淡い想い。でもきっと大きな想いになると迦遊羅は確信した。
「これから私の側にいてください。私も遼のそばにいたい・・・です」
その答えに遼はありがとう、とうれしそうに礼を言った。
 しばらく二人で湖畔を眺める。もう春だというのに寒い。遼は何か迦遊羅にかけてやろうと思うが自分も飛び出してきたから何もない。
 ごめん、と遼は謝る。なにがですの、と迦遊羅が尋ねる。
「いや、こういうときって男の子が女の子に上着か何かかけてあげるんだよ。寒いからね。だけど俺、何も持たずにきたから・・・」 
 その優しい心遣いに迦遊羅はうれしそうな笑顔を見せる。その笑顔に遼は見とれる。
「いいんですの。遼がそばにいてくれるだけで。それだけで暖かな気持ちになれます」
 迦遊羅の言葉に遼は真っ赤になる。当麻にはない部分だ。そしてその仕草がとても愛おしく映った。
 この気持ちを大事に育てていこう。ずっと。きっと幸せになれる。彼となら。
 迦遊羅はとても暖かな気持ちに包まれていた。これが遼の魅力なのだ。皆をひきつけて止まない理由。その遼をいつか独占できるのかもしれないと思うとにっこり笑みがこぼれる。いや、遼がその気にならないとしてもきっと自分のほうに振り向かせてそのまま捕まえておこう。迦遊羅の勝気な部分がそう自分にささやく。相変わらず自分は駆け引きを考えてしまうらしい。そんなものは遼相手には必要ないと分かっているが。遼を信じよう。迦遊羅の純粋な部分がまた言う。
「かゆ・・・ら?」
 にんまりとしているところに遼が不思議そうに名を呼ぶ。かゆ、という響きがとても気持ちよく耳に入ってきた。
「かゆ、っていうのいい名前ですわね」
「あ、ごめん。ついぼーっとしてちゃんと呼んでやれなかったから」
 いいんですの、と再び迦遊羅は言う。
「その呼び名が気に入ったのです。これからは遼にも皆にもかゆって呼んでほしいですわ。姉さまがあゆって呼ばれているのに私だけ丁寧に呼ばれていては不公平ですもの」
「それもそうだな。じゃ、これからずっとかゆって呼ぶよ。・・・でも、あゆのこと、そんなに嫌いか?」
 その言葉に迦遊羅はぶんぶんと首を横に振る。
「だよな。ただかっとなってしまっただけだよな。あゆも悪いところもあったし。喧嘩両成敗だ」
 素直な少年の言葉に迦遊羅はまたにっこりする。
「そうですわね」
 同意する迦遊羅に遼はほっとする。だが、迦遊羅はまた口を開く。
「姉様が悪いのは確かですわ。謝ってくださらないなら許してあげませんわ」
「かゆ。あゆも悪気があってそういったんじゃない。きっとかゆと当麻のことを考えて悩みぬいて言ったんだと思うよ。腹が立つだろうけれど、好きな人をあきらめる気持ちってすごく悲しいはずだ。俺ももしかしてそんなことになるかもしれなかった。だから許してあげよう」
 いやですわ、と迦遊羅は小さな子がわがままを言うように駄々をこねる。
「かゆ・・・」
 遼はしかたなく迦遊羅をまた抱きしめて背中をなでる。
「かゆ。いつまでもそうだとあゆを見失うよ? それでもいいならこのま仲たがいのままでいるといいけど」
「それも嫌ですわ」
 また迦遊羅は駄々をこねる。
「かゆ・・・」
 暖かい人のぬくもりに迦遊羅は心も暖かくなる。また、ぽろり、と涙が出る。
「わかっていますの。自分が駄々をこねているのは。でも両方の気持ちが戦っているんですの。どちらの気持ちも今の私の中にあって決められないんです」
 悲しそうに声を震わせながら迦遊羅は言う。
「だったら、決まるまで一緒にいるから。俺でできることはなんでもする」
 遼はそう言って迦遊羅を強く抱きしめた。そして泣いている迦遊羅の背中をなでてやる。涙は枯れることなくあふれる。先ほどもう涙は枯れたと思うのにまだ出てくる。自分が情けなかった。どちらの気持ちもある自分がはがゆかった。亜由美に思いっきり仕返しをしてやりたい気持ちと亜由美の気持ちを理解してなぐさめてあげたい。そんな二つの心がせめぎあっていた。
 湖畔に静かな風が吹き小さな波がたって音を作っている。その音を聞きながら遼に心を暖めてもらいながら迦遊羅の心は次第に感情が収まっていく。遼、と迦遊羅は声を出す。何?、と遼は迦遊羅を腕の中から解放してその顔を見つめる。その仕草に照れながら迦遊羅は言う。
「戻りましょう。姉様が心配です」
 その言葉に遼の顔がぱぁっと輝いた。なんだかそうさせた姉に嫉妬するが、あの姉の持っている過酷な運命は誰しも悲しまずにはいられない。そんな姉を支えてやれるのも自分なのだ。男の当麻ではやはり限界がある。女の自分でかつ迦雄須一族の末裔である自分と亜須羅一族最後の長である亜由美でしか分からないことがたくさんある。そんな姉をぽいっと放り出すのは嫌だった。さきほどは軽蔑するといったが、ほんの気の迷いだ。本当は誰よりも好きだった。ただ、あの姉の言い方、言葉には傷ついたのだ。だが、あの姉は自分よりももっと傷ついている。何よりも自らの運命にそって生きることすらすでに心に深い傷を負わせている。さらに塩をぬるまねをしたのは正直悪かったと思う。
 そんな迦遊羅の心の移り変わりを表情の変わるさまで見つめていた遼が言う。
「もう大丈夫だ。いつものかゆだ。何かあったら俺がついているから」
 頼もしい遼の言葉に迦遊羅は微笑む。
「それでは、参りましょうか」
 迦遊羅はようやく本来の自分に戻ってすっと一歩を踏み出す。そして遼を見つめる。遼もとなりに並んで歩き出す。これから、一緒に歩いていくのだろう。隣で歩いている遼を見て迦遊羅は思う。
 ずっと一緒に歩けますように・・・。
 迦遊羅は遼を見ながらそう願った。





		

	    

昔のあとがき

あとがき。 必死でひねり出した遼迦でございます。 なかなか出てくれないし、ノートは枚数が少ないので久しぶりにワードに直接書き込みました。四重奏がベースです。だからコピペ部分も多しです^_^;。 それでも10枚は大変でした^_^;。もっと遼かゆおもしろいものをかきたいですね。 とりあえずこれは予備ということでまたノート買いに行って考えます。 だけど、また一つの作品の前後で書くことになりそうです^_^;